「考えられもしない」こと

 相方が、体調の悪い(ちゃんと動けるが、音ゲーはできない)私を気遣って焼き肉をご馳走してくれた今日、私はユッケを食べながら北の海で壊血病になった人達に想いを馳せていた。小学校の頃の記憶をなぞりながら(この時小5か小6。ついでに紀貫之の幼名を知ったのも同じ頃)、学習漫画の中のセリフ(「生肉は壊血病にいいんだぜ」)を思い出していると、相方が、

「壊血病か……。親父が罹ったんだってさ。昔」とにこやかに語ってくれた。

 相方の父は農家の生まれで(聞いた話によると、野菜やりんご、さくらんぼを作っているらしい)、幼い頃から食卓には毎日野菜の漬物が並んでいたという。毎日きゅうりだらけなら逆に私からしたらパラダイスとしか言いようがない(今はパラダイスロスト状態)のだが、彼にとっては違った。そのうち彼は肉や魚、穀物以外口にしなくなり、成人したある日にそのツケがまわって来たのだという。

「その時お袋が、『この人をほっといたら死ぬかもしれない』って思ってさ。結婚を決めたんだ」

……恐らくは、食事の管理だけでも主導権を握ろうと思ってのことだろう。ある意味ドラえもんチックなプロポーズである(しずかちゃんがのび太くんと結婚する理由の一つではある)。ちなみにこのことが、彼を「天使」にする理由の遠因でもあった。

 私と相方は正反対の環境で生きてきたのもあり、何から何まで真逆である。寧ろこんなに真逆なのに上手くいっているのが不思議、と言う人もいるだろう。考えられない世界を互いに知るということでさえ、もしかしたら不安視する人がいるかもしれない。

 しかし、根底には共通のものが確かにあって、それが小さな歯車となる形で私達を引き合わせているのだと思う。そして、その歯車は欠けてはいけない大事な螺子として心の中にある。

 私は脳みそだけならどこまでも突っ走れるし、どこまでもペンを走らせられる一方で、とても不器用で綺麗なものは作れない。相方は綺麗なものが作れる一方で、思考を張り巡らせたりペンを走らせることは不得手だ。噛み合うからこそ私達は上手く行くのだと考えている(相方に合わせている部分もあるが)。

 ……話変わって、野菜嫌いというのは壊血病にならなくてももったいないと思う。というのも、様々な味を知らないと「美味しい」を見いだせないし、マトモに噛めるモノも少なくなるから。噛むというのは大事なことなのに、ソレを知らない人がいるというのはとても悲しい。ぴえんを言うつもりはないが嘆かわしい……。

 

 

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