スられた話〜不幸中の幸いって何ですか〜

 去年のクリスマスに、ラウンドワンにて私はスリに遭った。財布ごと盗まれたのだが、場所が場所(最寄りのコンビニまで数分)だったからか一万円札以外は何も盗まれていなかったのだ。逆を言えばその一万円が大きく、悲しいことに私はその日親友に軽食を奢られたのだった(交番まで同行してくれたのも彼である。あの時は扉が少し開いていて、隙間風が冷たかったことをよく覚えている)。その日、課金するはずの金を削ってまで私の心を慰めた彼には感謝しかないが、私の不注意さえなければこんなことにはならなかっただろうことを考えると、彼には申し訳ない気持ちになる(奢られた分は返した)。

 後で母から聞いたことだが、現金一万円だけならまだマシな方だそう。サイフの中にはキャッシュカードやら保険証も入っていたのだが、それらには一切手をつけられていなかったのだ。「キャッシュカードは悪用される場合がある」らしいが、ピンとは来なかった。クレジットカードなら危険性が分かるのだが。「高い授業料だったけどいい勉強になったね」とは母の言だが、冗談じゃない。犯人のせい(半分はボウリングの実力が伴っていない私自身のせいでもあるが)で楽しめなかったし、親友には随分と迷惑をかけたのだから。

 周囲からは「不幸中の幸い」だと言われた。曰く、「誘拐されて何処かに連れ去られた」とか、「刺された」とか、「変なことされた」とかじゃないかららしい。そこまで行くと最早警察案件にしてニュースになりそうだが。これらの被害に遭わなかったのは私自身、危なっかしいところに行かなかったのと、身に危険を感じれば即座に逃げたこと(高校時代、キャッチに遭いかけたが逃げた)が影響しているのだろう。しかし、今回の件で魔が差してしまえば被害に遭うことを学んだ。ガードは日頃から堅くしておかねばなるまい。

 しかし、こうも不幸中の幸いだと言われ続けると何がなんだか分からなくなってくる。というのも、基準が曖昧なのだ。例えば、難民。彼らは健康的な躰があるだけ「不幸中の幸い」だと言われる。が、何処が幸いなのだろうか。彼らは住み慣れた国を追われ、苦しみの中で暮らしていかねばならないのに(少なくともいいイメージはない)。また、フランスの人里離れたところにはテロリストが潜伏しているエリアがあるらしく、前述のようにスリに遭っただけでまだマシなレベルとして扱われる(命は助かっているかららしい)。それでも安穏とした日々を送っている人から見れば……。

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