レンタル桃太郎

AI with 清水麻太郎

第1話 サブスクリプション桃

 昔々あるところに...


 平和な神国日本の治安を乱す鬼が北の地から来襲!


 腐敗した高学歴官僚主導の政治に金の力で介入すると、瞬く間にこの国の地方財政と政治利権を掌握した!


 鬼の王、鬼田信長の政治基盤を引き継いだ鬼義理・カルロスはオニノハルカス66階の6号室からシングルモルトウイスキイ片手にビリヤードしながらゲーム感覚で国家転覆を目論んでいる!


 世情を憂いた智将明智光秀は鬼の謀略にはや破れ、心ある賢人や勇者や小役人英雄は公職を追われ、山河に臥していた!


 さらに庶民に課された税率ゲージは振りきり一杯レッドゲージだが、一向一揆が起こる気配も全く無し。ハーバードビジネススクールで学び、MBAの資格を取得している国際エリートの鬼義理は人心掌握術を極めており人気YouTuberと駅ナカ広告に金を出せば、庶民の怒りを山のおじさんやおばさんにそらせることを知っているからなのだ!


「税金を払ってない悪徳おじいさんおばあさんたちが悪い!」


「山は非課税!人頭税免除?でも団子はいくらでも売れる?そりゃないよ~、不平等!チャンネル登録鬼願死益おねがいします!」


 そして、山の麓!!


「おじいさんや、ここいらも武装親衛鬼チャンネルフォロワーの山狩りがうろつき始めたようじゃ。山に芝刈りに行くときはくれぐれも気を付けてな」


 おばあさんが河に洗濯に行くための装備を整えながら言った。


「おばあさん、わしを誰だと思っておる。こう見えても伊達に地獄を生き延びたわけではないわい」


 おじいさんがAK47芝刈りカスタムを背負い直した。毎日分解整備されており、その銃身には一点の曇りもない。


「そうじゃったの...あの熱帯林でスナイパーにかこまれたときは、もうだめかと思ったのう...」


「懐かしい話をするな」



「ふふ、あの頃はおじいさんの大胸筋も極細サインペン挟めるくらいパンパンじゃったわ。わしも若く、美しいゲリラスパイで...今ではこんなに老いさばらえてしまった」


 おばあさんは寂しそうに白髪染めをやめて久しい己のナチュラルグレイヘアを撫でた。


「おばあさんや、今でもおばあさんの髪はぬばたまの如く黒艶と輝いておる...わしのカラシニコフのようにな」


 ーあんた


「...手榴弾、忘れてないかい」


「いつも通り股間にガッツリ仕込んどるわ。だが、おばあさんや」


 ー山狐フォックスは、最後まで自決はしねぇ


 おばあさんは頬を赤らめ山に向かうおじいさんの背中に火打ち石を打つと、河へと急いだ。


 そして、河ァ!!


 ーごぼごぼ、ピコーン、ピコーン。


 おばあさんの洗濯スーツが河底に沈む壮麗な古代遺跡を潜り抜け、洗濯ポイントに潜航していく。


 ーシュー...コー...


 鬼による環境汚染で水質が変化した河では豊かな生態系が失われて久しい。耐酸性鮒の魚群が不気味な蛍光色の誘因突起をゆらしながらおばあさんの横を泳いでいった。


 ーピピ、ピコーン!ピコーン!ピコーン!


(鬼レーダーに反応あり!下方にヒトガタ?いや、潜水鬼武者)


「ゴバゴボボ《なにものか》!」


 おばあさんは戦の作法に則り相手を誰何した。アクアラングから盛大に空気がもれる。


「ここに潜みおったか、明智の残党!我が名は鬼ちゃんネラー、海豚銛之助いるかもりのすけ


 これは如何なる不思議の技、おばあさんの脳内に直接鎧を佩いた武者の声が響いた。


 水色鹿威しに金縁取り、海豚鞣革重胴いるかなめしがわさかねどう佩いたるその顔は耐水内呼吸鯨面頬におおわれて、武者の手にはBXE.トライデントが煌めいていた。その動き、まさに魚類のごとし。真一直線におばあさんの洗濯スーツに突っ込んでくる。


「ばば、ごばばばやば、ばべびぶべべばばぶべべべべ(はや、来たれ!丹波明智の武装女官は易々とうたれぬぞ!)」


「逆賊覚悟ー!」


 ドン!


 だが、そこに海豚銛之助に高速で突き当たる巨大質量ひとつ。


「うぐ。なんじゃ?ダイオウイカか?」


 それは巨大な耐水圧桃であった。そしてその場の強者たちの脳内に声が響く。


「我イカの大王にあらず、我が名は桃」


「もも!?」


「サブスクリプション契約によりて神国の義を守る破邪の桃、柊の剣の化身なり。この世に義の貶められるとき、ドンブラコンドンブラコンと冥府より流れ来て参るものなり。汝は我が顧客マスターか?」


「な、何を!?おのれ黄泉比良坂から世迷い出おったとでもいうのか!?」


 海豚銛之助が狼狽した。


「ばべべ、ぞぼばばばば、ばぶぼぼずぼ(すわ異界よりの加勢かせか!この際桃だろうと栗だろうと構わぬわ!その怪しいサブスクリプション、ばばが老後の年金そっくり並べて判子押すぞ!)」


 おばあさんが酸素残量を気にせず水中で叫んだ。


「ならば支払いオプションを...まぁあとで良いか、ここに契約を承認した!これより汝は我が顧客マスターなり!お客様は、神様です!」


 桃が怪しく輝き、深海の闇の切り裂いた。














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