第45話 めざしのトップランカー ③

「それじゃあ改めて自己紹介しようか。彼が先日話した小説の作者だよ。一年生の時にクラスメイトだったんだ」


 カフェで注文を終えた俺達は席に着いたところでお互いに自己紹介を始めた。


「改めまして日向歩夢ひなたあゆむです。めざしではアユメンデスというペンネームで小説を書いてます。よろしくお願いします」


 彼はペコリと頭を下げ挨拶をする。改めて話してみて分かったが、声変わりしていないようで外見だけでなく、声までカワイイとか女性と接しているようにしか思えない。


「秋月友火です。めざしではフレンドリー・ファイヤというペンネームで活動してます」


「秋月さんは学校でも有名だから名前も知っていたしお見掛けした事もあります。でも、フレンドリー・ファイヤというペンネームの作者は知らなかったです……ゴメンなさい……」


 申し訳なさそうにシュンとする彼はやはり可愛かった。


「ううん、気にしなくていいよ。めざしじゃ万年二桁 PV閲覧数の底辺作家だし知らなくて当然だもの」


 秋月は恐縮している彼にフォローを入れる。


「こんど秋月さんの小説も読んでみますね!」


「ええ⁉︎ ランキング一位で書籍化までされている小説書いてる人が私の小説なんて読んでも面白くないよ……」


 秋月は読まれても恥ずかしいと俯いた。


「秋月、そんな事は無いぞ。ストーリーはアレだけどキャラクターは際立って良いから読む価値はあるし自信を持っていいと思うよ」


 自信無さ気に俯いている秋月に変わり俺はフォローを入れてみた。


「秋月さん、神代くんが言うようにキャラクター造形はとても良いと思いますよ。彼がファンアートを贈るくらいなんだから」


 そういえば桐嶋くんはフレンドリー・ファイヤのファンだと言っていた。だから彼女の小説の良い部分をよく分かっているのだろう。


「Fuyutoさんは秋月さんの小説にもファンアートを描いたんですね! それは是非とも読んでみたいな」


「あまり期待しないで読んでね……ガッカリされても悲しいから」


 相変わらず自信無さ気な秋月は少し卑屈になってしまっている。まあ、相手が書籍化作家さんでめざしのトップランカーじゃ仕方がないか。それに期待外れだったなんて思われるのも嫌だろうし。


「そういえば神代くんの自己紹介がまだだったね」


 話がひと段落したところで桐嶋くんが自己紹介に話を戻した。


「神代冬人です。PixitとかではFuyutoというニックネームで活動してます」


「Fuyutoさん! イラストありがとうございます! 本当に素晴らしいイラストで感激して昨日からイラスト見る度にずっとニヤニヤしてました!」


 そういって彼はテーブルから身を乗り出し、向かいの席に座っていた俺の手を包み込むように両手で握ってきた。

 男性なのに見た目は美少女の彼に見つめられ、柔らかくて温かい手で握られ思わずドキドキしてしまう。

 

 ――おい! 相手は男だぞ⁉︎ 何ドキドキしてんだ俺?


 心の中でそう言い聞かせ平静を取り戻そうとしてみる。


「ち、ちょっと、アンタなに手を握られて顔赤くしてるのよ? 相手は男性なのよ?」


 ――いや、それは分かっているのだが……彼の容姿がどう見ても男ではないので、心の中で分かっていても意識してしまうのです……秋月さん。


「ゴ、ゴメンなさい……」


 そう言って彼も恥ずかしそうに顔を赤く染めながら手を離した。

 ナニ? その恥じらう女子のような可愛さは? ちょっとドキドキが止まらないんですけど?

 お互い意識してしまい、ちょっと気まずい雰囲気になってしまう。


「みんな同じ学校だしお互いの呼び方を決めておいた方が良いんじゃないかな? 学校でペンネームやネックネームで呼び合う訳にもいかないだろうしね」


 空気を読める桐嶋くんが、そういえばと別の話題を振ってきた。さすがモテモテのイケメンだけあって変態でも気遣いのできる男のようだ。


「そ、そうよね。お互い本名で呼び合いましょう」


 気まずい雰囲気の中、秋月も少し上擦っている。もしかして男性相手に赤面してしまった俺達にちょっと引いてる?


「じゃあ……秋月さんはちょっとお姉さんみたいな感じだから、友火さんと呼ばせてもらっていですか? ぼくの事は歩夢と呼んでください」


「うん。じゃあ私は歩夢くんと呼ぶね」


「うん、ありがとう。Fuyutoさんの事は……冬人って呼んでいいですか? ぼくの事は歩夢って呼び捨てにして欲しいです」


 彼はお互いを呼び捨てにして欲しいと、何故か顔を赤らめ上目遣いで懇願してくる。


「う、うん別に構わないけど……」


 歩夢の潤んだ目に見つめられまたドキドキしてしまう。

 彼のこの女子力の高さは……いったい……なんなの? おち◯ちん付いてるんだよね? 変なのに目覚めてしまいそうなんですけど?


「ち、ちょっとアンタ達なに初々しいカップルみたいな雰囲気になってるのよ? 男同士なのよ?」


「あはは、秋月さん、歩夢は一年の時に男子生徒から告白された事が何回もあるんだよ」


「え⁉︎ そうなの? 確かにその容姿にその女子力の高さなら納得……いや、やっぱり分からないわ」


「凌! もう……その事は言わなくてもいいのに……別に男が好きって訳じゃ無いから。冬人も誤解しないで欲しいな」


「わ、分かった」


 俺はひと言返事をするだけで精一杯だ。


「さて、自己紹介も終わったし、これから秋葉原を見てまわらないかい?」


 一人だけ冷静に事の成り行きを見守っていた桐嶋くんが提案してきた。


「実は歩夢の書籍化された小説が先日発売されたんだよ。それで売ってる様子を見に行こうって彼と話してたんだ。だから今回は秋葉原集合にしたんだよ」


「あ、それは楽しそう。知り合いが書いた本が並んでるとこ見たいな」


「秋月さんもそう言ってるし、神代くんも構わないだろ?」


「そうだな……この辺だと……コミックうまのあなとか、このレモンブックスとか大型店もたくさんあるし平積みされてる様子を見にいこう」


「平積みされてるか分からないけど……されてたらいいな」


 歩夢は自分の本がどんな風に売られてるか気になるだろうな。


「うん、決まりだね。それじゃあ行こうか」


 桐嶋くんのひと声で俺たちは秋葉原巡りに向かった。

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