第43話 めざしのトップランカー ①

「なんで彼が一緒なの?」


 今日も秋月から呼び出され、いつものカフェで待ち合わせをしていたのだが、俺は一人ではなく桐嶋くんを連れ立って待ち合わせ場所に遅れてやって来た。


「いや、なんか一緒に来たいっていうから……」


「昼休みに神代くんと秋月さんが何やらコソコソ話してて、何か面白い事ありそうだなと、思ったから神代くんにお願いして付いてきたんだけど……放課後デートの邪魔だったかな?」


「デ、デートじゃ無いわよ! 面白い小説をめざしで見付けたからコイツに教えてあげようと思っただけだから」


「ほら、やっぱり面白そうな話だった。秋月さんのオススメの小説なんて、気になるじゃないですか。それに神代くんに聞きたい事もあったからね」


 桐嶋くんのオタク趣味に関するサーチ能力が高過ぎて、俺達の行動が完全に読まれているのが何だかコワイ。


 先日の桐嶋くんがカミングアウトした一件以来、彼が昼休みや放課後にやたら話し掛けてくるようになったお陰で、俺の平穏な学園生活がおびやかされようとしていた。


 桐嶋くんが合流すると女子生徒が付いてくる。彼が「悪いけど男子同士で話がしたいから」と言って取り巻きを解散させてくれてはいるものの、彼が一緒にいると常に注目の的で、監視されているような気持ちになり何だか落ち着かない。


 今日も放課後、桐嶋くんに「秋月さんと待ち合わせしてるなら僕も連れていってよ」と言われて一緒に帰る事になった時も「もしかして桐嶋くんって……男が好きなのかな? 告白してきた女子の誰にもなびかないし、最近神代くんと一緒にいる事多いよね」と女子生徒からヒソヒソと噂してるのが聞こえてきた。

「どっちが受けかな?」、「やっぱ神代くんが受けでしょ?」と腐ったトークらしき何かが……聞こえないフリしてるけど。

 桐嶋くんに BL疑惑が掛けられてるようだけどいいのか? 生身の女性に興味が無い彼にとっては良い隠れ蓑になってるのかもしれないな。いや……良いのか? 本人に聞いてみよう。


 そうやって変な噂を立てる女子生徒だけじゃなく、桐嶋くんと用事があるからと大介の誘いを断ったら「桐嶋とつるんで取り巻きの女子と仲良くなるつもりか~? それで美味しい汁吸おうって気じゃ無いだろうな? 羨ましいから俺にもおこぼれを」とか見当違いな事を言っていた……まあ大介らしいか。


 こんな感じに桐嶋くんが関わっただけで、学園生活が今までとは随分と変わってしまった。高校に入学してきた時誓った、目立たないで学園生活を過ごすというのは無理そうだ。

 実のところ桐嶋くんだけじゃ無く、夏原や春陽が連日教室に遊びに来るのも関係あるけど。

 まあ、そんな状況でも俺達の秘密はバレる事なく、こうやって三人集まって密談できてる訳で友達が増えた事は喜ぶべきだろうと思う。


「で、秋月は俺に面白い小説をオススメする為にわざわざ待ち合わせにしたのか。メッセージで教えてくれるだけで良かったんじゃないの?」


「メッセージでも良かったんだけど、あの小説は私がラブコメ書き始めたキッカケになった作品だったから直接教えたかったの」


 以前、ラブコメを書き始めた理由を聞いても教えてくれなかったけど、面白い作品を読んで影響されてだったんだな。


「それで、どの作品なんだ?」


「ちょっと待ってね……」


 そう言って秋月はスマホを取り出し操作し始めた。


「これこれ、ランキングの一位のやつ」


 秋月のスマホを覗き込むと、ランキング一覧が表示されている。桐嶋くんも彼女のスマホを覗き込む。


「なるほど……この小説は神代くんがファンアートを贈った小説だね」


 俺はこの小説を知っている。桐嶋くんが言うように昨日この小説にファンアートを贈ったからだ。でも、彼はその事を何故知っているのだろうか? さっき確認したところファンアートに関して、めざしでも他のSNSでもまだ公開していないようだった。


「え? アンタこの小説にファンアートを描いたの?」


「ああ、昨日の夜に贈ったばかりだけど……なんで桐嶋くんがその事を知ってるんだ? まだSNSとかには公開してないようだけど」


「神代くんに聞きたかったのはその事だったんだよ。ちなみにこの作品の作者は僕の知り合いなんだ。昨日ファンアートを貰ったってメッセージを送ってきたから知ってたんだ」


「ええ⁉︎ 桐嶋くんの知り合いだったの? はあ……ただの変態だと思ってたけど凄いわね……この作家さん書籍化作品も書いてたはずよね」


 驚きを隠せない秋月だが、褒めながらも桐嶋くんをディスっている。


「秋月さん変態はヒドいな。いくら僕でも傷付くかもしれないよ?」


 桐嶋くんはそう言ったものの、その笑顔だと全く気にしてないように見える。彼は自分の性癖に関してネガティブには捉えてなさそうだ。


「ゴメンなさい……つい本音が……」


「あはは、冗談だよ。全く気にしてないから大丈夫ですよ」


 変態と言われても本人が言うように実際には気にしてないだろう。だからと言って公にするつもりも無いようだけど。性格も良いし本当に残念なイケメンだなと思う。


「秋月の時もそうだけど、世の中は狭いもんだな……」


 秋月に続き、ファンアートを贈った相手がまた身近な人だったとは驚きだ。


「ところで二人とも作者に会ってみたくはないかい?」


 桐嶋くんがそう提案してくる。

 

「会ってみたかったら紹介するよ? 秋月さんはどうかな? 同じweb作家として会ってみたくはないかい?」


「うーん……会ってみたいとは思うけど……どんな人か分からないし……」


 それほど社交的では無い秋月は決心できないようだ。


「凄く良い人だし、僕達と同じ高校二年生で話は合うと思うから安心して良いよ」


「え⁉︎ 同じ高校生なんだ? ……うん、それだったら会ってみたいな。小説を書いてる知り合いがいないから、会って色々と話してみたいな」


 秋月は同い年と聞き安心したようで会ってみたいと返答した。それにしても高校生でめざしのトップランカーで書籍化作家とは凄いな。めざしには他にもプロの作家はウジャウジャいるし、トップに上がるには容易ではないだろう。そんな高校生作家に俄然興味が湧いてきた。


「神代くんはどうだい? ファンアートを贈った相手だし、会ってあげれば彼も喜ぶと思うよ。あとFuyutoくんとクラスメイトだという事はまだ話して無いから安心して」


 彼と言っていたから男性のようだ。また秋月みたいな美少女作家だったらとラブコメ的な展開を期待してしまったが、世の中そんなに甘くはないよね。


「そうだな……秋月も会ってみたいって言ってるし、何よりファンアートを贈った相手だから俺も会ってみたいかな」


「じゃあ決まりだね。どこかの休日に二人と会えるように話をしてみるよ」


「ああ、よろしく頼む」


「うん任せて」


 桐嶋くんは驚くかもしれないけど、と前置きし話を続ける。


「どうせ分かる事だから先に話しておくけど、彼は僕達と同じ学校の生徒だよ」

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