第42話 もう一人の学園一 ⑦
桐嶋くんがまさか俺達のファンだったとは……俺と秋月は顔を見合わせ呆然としてしまう。
「ここからが重要な話なんだ。なぜ人に聞かれないように二人だけをこんな所に呼び出したのか。これから話す事は三人の秘密にして欲しい」
桐嶋くんが、それ程までに秘密にしたい事……興味はあるが聞いてもいいのだろうか?
「もちろん秘密にするけど、わざわざ話す必要があるのか?」
「ああ、これから二人に仲良くしてもらいたいから、さっきみたいに秋月さんを狙ってるなんて誤解されないように知ってもらいたい」
誤解から秋月を狙ってるなんて勘違いをしてしまい、俺は恥ずかしくなった。
「分かった。約束は守るよ」
秋月も無言でコクンと頷き同意する。
「うん、そうしてくれると助かる」
安心したように頷いた桐嶋くんは更に続けた。
「僕はね……アニメやマンガが大好きなんだ。もちろん小説もね」
桐嶋くんのまさかの趣味に俺は驚いた。こんなイケメンがまさかオタクだったとは。
「さっき女性としての秋月さんに興味が無いって言ったけど、正確には――僕は生身の女性には興味が無い」
「「え゛っ⁉︎」」
衝撃的なカミングアウトに思わず変な声を出してしまい、同じように変な声を出した秋月と被ってしまった。
「イラストの美少女や小説のキャラクターが大好きでね。Fuyutoのイラストとフレンドリー・ファイヤの小説のヒロインは素晴らしかった。元々二人のファンだったんだ。まさか二人がクライスメイトだったとは思わなかったよ」
なんという残念なイケメン……まさかの事実に秋月も呆然としている。
だから今まで数多くの告白を断ってきたのか……生身の女性に興味が無いから……なんというイケメンの無駄遣い! 秋月にすら興味を抱かない男がいるとは驚きだ。
「に、二次元の美少女にしか興味が無いのは分かったわ……でも、私とコイツがどうしてFuyutoとフレンドリー・ファイヤだと特定できたの? Fuyutoはまだしも、私のニックネームなんて友火から普通は想像付かないでしょう?」
秋月が呆れながらも絞り出すように桐嶋くんへ疑問を投げ掛ける。自分と秋月の関係性をどうやって突き止めたのか……それは俺も知りたいところだ。
「いつだか二人はビックリカメラで痴話喧嘩をしていたのを覚えているかい? あの場に僕はいたんだよ。神代くんの事は知らなかったけど、秋月さんは有名だったから顔は知っていたんだ。液タブにアナスタシアのイラストを神代くんが描いて残していっただろう? Pixitに投稿していたアナスタシアのイラストを思い出して、神代くんとFuyutoが繋がったのさ。後は秋月さんの名前を見ればフレンドリー・ファイヤと直ぐに分かったよ」
「ち、痴話喧嘩だと思われてたの⁉︎ 公衆の面前で何て恥ずかしい事を……い、言っておくけどアレは痴話喧嘩じゃ無いからね! か、勘違いしないでよね!」
秋月は痴話喧嘩と思われていた事に衝撃を受けているようだが……気にするのはそこじゃ無いと思うぞ……俺たちは身元を特定できる証拠をかなり残していってしまった、という事の方を心配した方がいいと思うんだが。
「なるほど……そういう事だったのか……桐嶋くんは元々俺たちのファンだった。ビックリカメラで偶然にも俺たちを目撃して、アナスタシアのイラストを見て確信したと。そういう事だよな?」
俺は今までの事を要約し桐嶋くんに確認した。
「そういう事だね」
「はあああ……! そんな事だったのかよ⁉︎ 二人で呼び出されて何が起こるのかと思って凄い心配しちゃったよ!」
桐嶋くんの返事を聞き一気に気が抜けてしまい、俺はその場にヘタり込んでしまった。
「僕に秋月さんを取られてしまうとか心配したのかい?」
いつもクールな桐嶋くんにしては珍しくニヤニヤしながら尋ねてきた。
「そ、そんな事は心配してないけど……さ……」
否定してみたものの実は内心では思い切り心配していたので、図星を突かれた俺は言葉を濁してしまう。
「あはは、ラブコメのような君たちの関係の邪魔をする気もないし、バラしたりしないから安心して」
まさかのラブコメのような関係と
「今回は紛らわしい呼び出しをした事は謝るよ。もう少し上手くやれれば良かったんだけど思い付かなくて。申し訳なかったね」
「いや、いいんだ……俺たちも迂闊だったし次から気を付けるようにするよ」
今回は身バレはしたが相手に悪意が無かったから良かったようなものの、脅されたりするような事もあり得る事は考えておかなくてはいけない。
「うん、それなら良かった。これからも仲良くして下さいね。神代くんに秋月さん」
桐嶋くんは満面のイケメンスマイルだった。
そう……実に残念なイケメンくんが秘密を共有する仲間に加わったのだった。
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