異世界に比べたら地球の災厄なんて軽いもんだった。

枯渇信者

プロローグ

ーーー数千年にも及ぶ小競り合いから始まった大戦争。その激しさは地図から大陸がいくつか消滅し、生物や植物などのあらゆる図鑑を書き換えなければいけないほどであった。


元々は人間と魔人族の戦いだった。


きっかけは名声に目の眩んだ人間の冒険者が魔人によく効くとされる宝剣を手に入れたために魔人族の住む魔界に侵入して魔人族を滅ぼそうとしたことだった。


愚かな冒険者は殺されたが、魔人族には多大な被害が出た。


これをきっかけに魔人族は互いに不干渉であった人間に宣戦布告をし、戦争が始まった。


元々の身体能力の差などから、人間は瞬く間に数を減らされ、劣勢に追いやられていた。


このままでは負けてしまう。そう思った人間の王は、他種族に頼ることにした。


ワービースト、ドワーフ、竜人族などの種族は愚かなことをした人間が悪いのだと協力を拒否した。


しかし、たった一つの種族だけは人間に協力することを約束した。


曰く、人間と特別に仲が良かったとか。


曰く、単なる親切心であったとか。


曰く、後に人間を家畜の如く扱うつもりだったとか。


曰く、ただ魔人族が嫌いだったからだとか。


諸説あるが、とにかくその種族―――エルフがその大戦争に参加したことによって戦況が大きく変化したことには他ならない。


とにかく、魔人族はエルフを脅威と捉えて人間の兵隊そっちのけでエルフの住んでいた隠れ里に侵攻した。


エルフは高い戦闘能力を有していた。


扱える魔力の多さに加え、自然界に霧霞の如く存在する精霊たちと協力して放つ魔法は強力無比。


まさに一騎当千の働きで、エルフは次々と魔人の軍勢を壊滅させていった。


そのまま押し切ってエルフ――つまり人間側の軍が勝利するかとも思われたその時――魔人族に勇者が生まれた。


この世界に於いて勇者とは、


曰く、自らの種族が危機に瀕したときに生まれ、


曰く、一騎当千の戦闘能力を有し、


曰く、その危機を脱する特殊な能力を持つ。



この勇者が持っていた能力は『魔法完全無効』。


エルフは、魔法に長けているが、身体能力が非常に低い。


また長命が故に繁殖能力が低く、絶対数がかなり少ない。


一人辺りの戦力が圧倒的なのでそれでも問題は無かったのだが…


魔法が効かないとなれば話は変わってくる。


勇者誕生の報せを受けたエルフの王は、すぐに人間国に討伐を依頼した。


当時の人間国は扱える魔力こそエルフや魔人族には遠く及ばないがそれを補って余りある技術力でこれまで他種族に対抗してきた。


人間族が作ってきた兵器には、魔力を応用したものがほとんどだったが、魔力を一歳使わず科学を利用したものもあった。


エルフはそれを知っていたので、魔力を使わない兵器を使って魔人族の勇者だけでも殺してもらおうと考えたのだ。


しかし、エルフには誤算があった。それは、人間が思っていたよりも愚かであったこと。


人間の王は、魔人族の攻撃の矛先がエルフに向いたことによって安心し、軍備を解いていた。


そこに、突然の出撃要請。すぐに準備できるはずもなく、どこからか漏れた情報により魔人の大軍が王都に襲来。


敵の軍勢がエルフの方に向いていると思い込んでいた人間に対処できるはずもなく、三日で殆どの都市は壊滅。頼りの兵器も殆どが破壊され、もう太刀打ちできない状況になっていた。


つまり、魔人族の勇者を倒す算段がなくなったということ。


魔人族の勇者は暴れに暴れ、ついには――――――――



「姫様!姫様だけでもお逃げください!」

「駄目だ!私が逃げたらここは――」

「あなたがいても変わりませぬ!ならばここは一度引いてヤツを倒す策を――ぐわあっ!」

「爺!」


ここはエルフの住む隠れ里。数千年にも渡ってその容姿を変えずに佇む世界樹の根本にその隠れ里はあった。


まあ、もう場所が割れて魔人族の大軍が押し寄せてきているので隠れ里でもなんでもないが。


「オラッ!このクソエルフ共が!人間なんかの味方するからこんなことになるんだよ!」


そう。最早里は壊滅状態だった。そして、今まさにその内の一人がエルフの姫サテラに斬りかからんというところで―――


「ゴフッ、お逃げ…ください…姫様…!」


先程切り捨てられた老齢のエルフが魔力を絞り出してサテラに『転移魔法』を掛け――


「爺!それ構築間違ってる!それじゃ距離が滅茶苦茶に―――」


それを最後に、前進が絞られるような感覚と共にサテラの意識は暗転した。

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