火の取り扱いには気を付けて
12/30 14:59
私たちは血の匂いに酔いそうになりながら、何度も何度も謝りながら彼の装備から使えそうなものを探した。
エネルギーバー1本と携帯電話にタバコとライター。
山スキーに挑むには無謀なだけの軽装で、それ以上の物はなかった。
「連絡つかないのは……まずいよね」
するまでもない確認。
さっきから強まる寒気に少しずつ体温を奪われているのを感じる。
私だけじゃなく、春君もそうだろう。
「……なんかライターで燃やすとかどうだろ」
「こんな狭い洞穴で?」
「奥の方の確認が先か」
ゴンゴンとなるブーツの音が離れていく、外は真っ白な暗さで洞穴の入り口近くにしか光が届かずに、少し離れただけで彼の姿が暗がりに紛れてしまう。
その背中を視線で追って途中にある死体で視線が止まった。
きっちりと確認した。脈はなく、あの時に出来る最大の確認をしたと思う。思うのだけど、それでも思わず確認をしたくなった。生きていたらという可能性ではなく死んでいる事を確認したい。だってまるでホラー映画のような状況で、私たちは死体と一緒にいるのだ。
不安定な足元に気を付けて――地面の割れ目を避けて慎重に歩き、死体の横で膝をつく。頭部からの出血が派手に見えたけれど、それは多分死んだ理由じゃない。私がこの死体を確認した時に気付いたのだけど、首の骨が歪に曲がっていて脈を確認した今も指先にそれが伝わった。
「……大丈夫か?」
自分の近くからの声に驚いて見上げると心配そうな顔をした彼がいた。
「戻ってきたら、真っ暗な中でなんかやってたからさ」
頭をぼりぼりと片手で掻きながら彼が言う。もう片方の手にはスマホをライトをつけて持っていた。
「うん。私もライト使ってたんだけどさ。バッテリー切れたらいやだなって。どう?洞窟の奥はどんな感じだった?」
とっさに私の口から出たのはそんな言葉だった。
「ああ、そっかバッテリーも節約しないとなあ……」
そう言うと彼は私の横に腰かけた。
少し疲れた顔で大きくため息。
「奥、結構あるわ。で、思ったんだけどこの人のさ……」
「……ウェア……だよね」
彼の頷き。
実際暖かくなる見込みはなく、連絡がつく見込みもなく、とにかく天候が変わるまで我慢するしか今の私たちに手段はなくなっていたのだから。
彼は少しの間、目を瞑ってから死体に向かって手を伸ばした。
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