地球が滅んだ後の人類は宇宙船に乗ってまだ見ぬ土地を夢に見る
ダイナイ
一章
一話
「いつ見ても暗い」
居住区棟の先端部には、ガラス張りで出来ているスペースがある。
そこは、休憩スペースとしての役割だけではなく、ガラス張りで出来ているので外と世界を見れる唯一の場所でもある。
ここに来ると世界の広さを知ることが出来、それと同時にこの場所が閉ざされた所であることを思い知らされる。
◇
まだ人類が地球と呼ばれる惑星にいた頃、人口は百億を超え、たくさんの国家や多種多様な民族が繁栄していたと言う。
地球には、広大で透き通るような青色の空、どこまで深いのかさえ分からないような大量の水がある海、天まで届きそうな山と言われるものがあったらしい。
どれも想像することさえも難しく、実際に自分の目で見て確かめたいとすら思える。
だが、今ではもうそれを見ることは叶わない。
人類は、楽園とも呼べる惑星を捨てたのだ。
きっかけは枯渇しかけていた資源の奪い合い、人類が増えすぎたことで起きた食糧不足、国家間の些細なすれ違いと、様々な説が挙げられている。
そんなことが原因で、地球では核戦争と言われる人だけでなく、惑星をも壊すような大規模な戦争が起きた。
当然人類が無事で済むわけもなく、百億人以上いた人たちは大量に死に絶え、種としての絶滅の危機にまで陥ったらしい。
生き延びた数少ない人たちは、汚染された地域で済むことも出来ず、宇宙船を使って地球から脱出した。
そんな数少ない人たちの中でも、宇宙船に乗れたのは限られていたと聞く。
富のある者、権力のある者、技術のある者たちが優先的に宇宙船に乗ることが許され、それ以外の人たちは見捨てられた。
地球から逃れた宇宙船は、多種多様なものがあり同型機はあまり多くなったと聞いている。
先進国では、最先端技術や費用をふんだんに使ったものが多く開発されていた。
貧困国では、動かすのもやっとのような性能も居住性もあまり良くないものが作られた。
核戦争を起こした時に優位にあった国は、宇宙船の性能もとても良かったらしい。
この俺の乗る宇宙船プロトタイプも、その当時地球を離れた宇宙船の一つだった。
当時は、試作機として実験段階の機体だったらしいが生き残ることに必死だった人たちには船を選んでいる余裕は無かった。
その名の通り試作機と言うだけあって、乗組員は技術者を中心としていたらしい。
当時のこの宇宙船は、船の中でも最低レベルのもので、動かすのがやっとだったと聞いている。
それでも技術者が多かったこともあって、整備と改良を積み重ねて、今では最新の設備まで整え宇宙船プロトタイプと名前を変えた。
試作機時代の船から名前を取って、そのままの名前を付ける当たり、技術者と言えるだろう。
改良されて宇宙船プロトタイプと名を変えたこの船は、いくつもの最新技術が搭載されている。
何光年も離れている宇宙船との通信、遠く離れた所にあるロボットを遠隔操作する技術、一度に何光年もの距離を進めるワープ装置。
まだ実験段階のものもあるが、どれも見ても地球にいた頃には、絶対に不可能と言われていた技術らしい
この最新技術を活用しても、人類の新天地となり得る惑星も知性がある異星人の発見に至ることは出来ていない。
人類は目的地の見えない旅を何世代、何世紀もの長い間続けてきた。
戦争で生き延び宇宙へと進出した人類も、今は宇宙船プロトタイプに乗っている数百名にしか会えない。
それどころか、他の宇宙船の生存状況さえもまともに把握出来ていないらしい。
唯一通信を取ることが出来る他の宇宙船は、今はもう一つだけだ。
その宇宙船も通信が出来るのは、このプロトタイプと数える程度しかないと言う。
核戦争で滅びかけた人類は、既に滅んでいると言っても過言ではないのかもしれない。
ここまでがこの船に伝わる歴史であり、人類が生き伸びた歴史でもある。
宇宙船プロトタイプは、これまでも、そしてこれからも目的地の見えない暗い宇宙を彷徨い続ける——。
◇
何もない、光さえも届かない漆黒に染まった宇宙空間を見る。
この船の図書館には、数多くの本があり外の世界の素晴らしさが多く書かれていた。
まるで、早く見つけろと煽っているかのように。
小さい頃は、本で読んだ地球のような新天地がいつか見つかるだろうと信じていた。
しかし、現実は違った。
毎日変わらぬ日々を過ごし、いつかと夢を見ていたものも薄れつつある。
「外の世界があるのなら見てみたい。惑星でなくても良い、他の宇宙船でも良い。他の人類が生きていることを知りたいんだ」
口に出したものが叶わぬ夢と思いながらも、暇があればここに来て考えてしまう。
他の人類に会ったら何を話そう、海が見つかったら泳いでみたい、考えたら想像が止まらなくなる。
いつの日か来るであろうその日を信じて、俺は今日も宇宙を見つめる——。
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