第6話 運命の出会い
山を降る途中、山賊と遭遇し戦闘になった。難なく勝利したものの、油断した隙に腕に切り傷をつけられ、それが妙に痛んだ時のことである。
「そこのお方。薬、要りませんか?」
私が振り返ると、こちらを見る男女二人組がいた。男が薬箱を背負い、女は手ぶらの様子だった。
「腕の切り傷に効く薬はあるか?」
「はい、ございます。どうぞこちらに」
その薬屋は背負っていた薬箱を地面に置き、机のようにした。そして、女が薬箱の平たい部分をぽんぽんと叩いた。
「これを塗れば一日で傷が塞がります。殺菌作用もありますので、腕が腐り落ちることもないでしょう」
「助かる」
私の腕に薬を塗りつけるその男の顔を見ていると、既視感を覚えた。どこで見たことがあるのだろう……と考えた時にギョッとした。
「お前さんは俺の弟に似ている」
「弟さんですか。弟さんは今どちらに?」
「さあ。俺は生まれが弟とは違うんだ」
「……失礼しました」
そうして道具を仕舞い始めた薬屋の所作を私は見ていた。洗練された優雅な手つき。とても、庶民の出とは思えなかった。没落貴族か?そんな考えが頭を過ぎったが、こんな顔の貴族は知らないと一蹴した。やはり、第一皇子なのかもしれない。
「代金は?」
「銀貨一枚で」
私が銀貨を渡すと、その男女二人組は去ろうとした。私はその時天秤にかけた。このまま近衛兵になる道を進み、十年以上かけて皇帝まで近づくべきか、最短で裏道を駆使して皇帝まで近づくべきか否かを。そして、私が選んだのは後者だった。
「なあ、薬屋さん方。用心棒を雇う気はないか?」
男は一瞬きょとんとした顔をしたが、「その申し出は大変ありがたいけれど、そんなにお金はないのです」と断った。そこで、私はちょうど包帯を巻いてもらった腕を見せながら「見ての通り、山賊がこの辺はうろついている。女連れは特に狙われるから用心棒がいたって困らないだろう。それに代金は薬と宿と食べ物代があれば十分だ」と主張した。すると、男は一理あると思ったのか、取引が悪くないと思ったのか、「わかりました」と頷いた。こうして、私と薬屋とその女という三人での旅が始まった。
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