第4話 弟子入り
随分と長いこと東に向かって歩き続け、ようやく噂の山に足を踏み入れた。山賊が山ほど出るという噂があったが、それは噂ではなく真実だった。師匠の家に辿り着くまでに体はボロボロになっていた。というのも、貴族学院で武術は学ぶものの、ルールに則った武術や剣術しか習わなかったのだ。つまり、山賊のように自由に攻撃してくる戦い方は初見で、苦戦した。しかし、元来の身体能力と順応性の高さからなんとか生き延びたのである。
そうして、足を引き摺り、腕に矢が刺さったまま師匠の家の扉を叩いた。実は、私が師匠の家の扉だと思って叩いたのは蔵の扉だったらしいのだが、意識が朦朧としていた私には判別不可能だった。傷だらけの私に驚く風でもなく、師匠は問うた。「何しにここへきた」と。私は、息も絶え絶えに「貴方の弟子にしてください」と言い切った。そこで、私の記憶は途絶えている。
次に目を覚ました時はどこかの間に寝かされていた私は、布団の上で飛び起きた。キラキラとした眩い朝陽が部屋一杯に差し込んでいた。辺りをキョロキョロと見渡していると、襖がスッと開いた。そこから、師匠が顔を出した。
「起きたか」
「大変ご迷惑を」
「いい。飯、食うか?」
「はい、いただきます」
師匠はすぐに私の前に朝食を用意した。盆に載った皿の前に二本の棒が置かれていた。これは何かと尋ねると、箸だという回答が返ってきた。東の国の者の食事時に使うスプーンやフォークのようなものだという。私はその箸を扱うのに随分と苦労しながら朝食を食べた。そして、食べ終わった後に、ふと自分の傷が全て治療されていることに気がついた。朝食を下げる師匠に深々と礼を言うと、「何、これからのためじゃ」と意味深な言葉を残して部屋を去った。この意味はすぐにわかることになる。
すっかり傷口が塞がると、嬉々として師匠の元へ走っていったが、師匠は門を指差してこう言った。「よし、もう一度最初からだ」と。最初からとはどこからかと尋ねると、弟子入りを乞うところからだという。そのために傷を治してやったのだとまで言う始末。私は素直に扉の外へ出て、扉を叩くところから始めた。すると、師匠は扉を開けないまま、「何しにここまで来た」と初対面の時と同じセリフを放った。私も同じく「貴方の弟子にしてください」と言った。すると、なんと師匠は扉を開けることなくそのまま去っていった。そして、私はそのまま三日間、その扉の前に立ち続けた。三日目が終わる頃、ようやく扉が開いた。師匠は「病み上がりで三日は上出来だ」と言って、無事私は師匠の弟子になった。三十年ぶりの弟子だった。
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