第34話 男は大体、単純さ


 桜愛は、タバコを咥え、火を付けて吸い、煙と一緒に吐き出し、八木教授に問いかけた。


桜愛「ねえ。本当は、相談したい事があったから来たんじゃないの?」


八木教授は、桜愛の強い視線から目を反らす。


八木教授「あ、まあ。なんだ。この時期に元教え子が頑張ってるかなって姿を見に来ただけだよ。緊急事態宣言出てるし大丈夫かなってさ」


桜愛「嘘でしょ。これでも、この仕事やってから、色んな人を見て来たから、分かるの」


八木教授「いや、嘘じゃないさ。心配だったからさ」


桜愛「相談に来た理由当てて、上げよっか?弟子の田中くんと何かあったんでしょ?そうね、例えば、田中くんに東大受験やめるとか言われたとか?それで、なんて引き止めればよかったか分からなかったとか?」


図星を付かれた、八木教授は目を丸くする。


八木教授「あ、そうだが。なんで分かったんだ?」


焦っている八木教授に対して、緊張感を和らげようとしてくれてるのか、桜愛はにっこりと微笑む。


桜愛「だから言ったでしょ。この仕事を初めてから色んな人を見てきたって。後は、東大生のうちの推理力!なんてね!あはは」


八木教授「さすがだよ。鈴木が東大受験落ちたときと同じ感じの事を田中に言われたよ。今回のは、鈴木の時と違って模擬テストみたいなやつだから、この先の本番の為の通過プランだって分かってたのに、何も言えなかった・・・」


桜愛「ださ。いつまでそんな過去の鈴木の事をさ。元カノと別れた時みたいな感じで引きづってるのさ。生放送観たけど、新しい師匠が出来てんでしょ。ならそんな過去の事忘れなよ!」


八木教授「分かってはいるんだ。だけど、なんてあの時の事を思い出して、なんて言えばいいか分からなかったんだ」


桜愛「まあ。鈴木くんは八木教授のやり方じゃ東大受験失敗するってうちは、思ったけどね」


桜愛の何気ない一言を聞き、八木教授の目つきが鋭くなる。


八木教授「どうしてそう思うんだ?」


桜愛「そんな怖い目つきしないでよ(笑)まあ、今になって思ったらさ、八木教授のやり方って、本当のバカで何か変人で、だけど、何かきっかけを与えれば燃え上がるような奴にしか効果的じゃないの。10人東大合格プロジェクトの時のうちも含めた合格者9人を思い返したらそんな感じだもん。てか、鈴木は、なんか中途半端に頭がいいから、八木教授のやり方の効果薄かったんじゃない?」


八木教授「そんな風に分析されるとは・・・天才の俺のやり方でもダメだったのか・・・」


桜愛「てか、自称天才の間違えでしょ(笑)鈴木の場合は、あの新海教授とかゆう人のマシーン教育?ってゆうの?そっちの方が合ってるんじゃない?うちは、あの人のやり方は合わないけど(笑)色んなタイプの奴がいるんだし、一つのやり方で万能になって出来ないよ」


八木教授「まあ、そうだな・・・まさか、元弟子に教えられるとはな」


八木教授は、肩を丸めて落ち込んだ。


桜愛「まあ、元気出してよ。うちの見た感じでは、田中くんは、八木教授のやり方は合っていると思うよ」


八木教授は、顔を上げ、桜愛に問いかける。


八木教授「その根拠は?」


桜愛「うちの勘、かな(笑)」


桜愛の微笑みを見て、八木教授は微かに笑った。


八木教授「参考にしておくよ。その『うちの勘』ってやつをさ」


桜愛「うちの勘良く当たるからね!あ、そうだ。うちからのアドバイスね!田中くんには、今度、会った時に謝りなね。うちの勘だと、八木教授ってなんか謝るとかした事なさそうだし」


桜愛に言われて、八木教授は、田中との今までの会話ややり取りを思い出して気づいた。


八木教授「た、、、確かに田中に謝った事なかったわ・・・」


桜愛「でしょ!最初に相談してきた、なんて言えば分かんなかったってやつも、正解は謝る事だったと思うよ」


八木教授は、桜愛の言葉に微かに頷き、立ち上がり部屋を去ろうとする。

去り際に、背を向けて桜愛に感謝の言葉を伝える。


八木教授「ありがとうな」


その感謝の言葉を聞き、桜愛は微かに微笑み言葉を返す。


桜愛「期待してるんだから頑張れよ!てか、せっかく来たんだから、サービス受けて行けば?」


八木教授「教え子は抱かない主義なんでな」


そう言い残して、八木教授は、去っていった。


一人部屋に残った桜愛は、八木教授が去り際に言った言葉を思い返し一人でクスリと笑った。


桜愛「ほんと。相変わらずね。『教え子は抱かない主義』…か。ピ○サロは抱く場所じゃないんだけどね・・・ふふ」


個室のドアが急に空いて、息を切らした黒服が入ってきて、桜愛に告げる。


黒服「桜愛さん!大変です!あの野郎、金払わないで帰りました!」


桜愛「ああ。さっきの八木教授でしょ?なんか、出世払いだって言ってたからツケにしておいて」


黒服「いや、そんな、あんな信用無さそうな奴にツケなんか出来ないですよ!!」


黒服のその言葉を聞き、桜愛の目線が鋭くなる。

桜愛は無言で、困惑する黒服を一人残して、個室を出て、少ししてから戻って来た。


桜愛は、自分の財布の中から、30枚ほどはあるであろう万札を出して、困惑する黒服に渡す。


黒服「え?これは…」


桜愛「うちの知り合いが信用無いって思われてて、店でツケが出来ないなら、うちが立て替えておく」


黒服「え、、、そこまでしなくても…」


桜愛「大丈夫よ。出世したらちゃんと回収するから。だけどね。もう二度とうちの知り合いが信用無いなんて言わないでね」


桜愛にガツンと言われた黒服は、精一杯の謝罪の気持ちを込めてなのか、『すいませんでした!!』と言って、桜愛に土下座した。

その姿を見て、冷ややかな視線を送った後に、桜愛は個室のドアを見る。


背を向けて去っていく八木教授の面影が見えたのかもしれない。


桜愛「男ってほんとに単純ね・・・がんばれよ」


その面影に向かって小さく呟いた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る