第29話 東大受験リタイア宣言
全国生放送公開土下座により、全国に恥を流して終わった勝負。
テレビ局を出た、田中と八木教授は、お互いに無言で帰り道を歩いていた。
帰り道に一歩一歩足を進めるたびに田中の自分の中の感情が不安定さを増していく。
雨が急に降り始めてきた。今朝見た天気予報では晴れ予報だったのにな。
テレビ局の少し先にある公園に着いた時、田中は急に立ち止まる。
それに合わせてか、少し先を歩いていた八木教授も無言で立ち止まった。
田中は、不安定な感情が爆発し、田中は、体を崩し、地面に両手を付けるようにうなだれた。
田中「あんたについて行こうとしてた僕がバカだった!!」
ーいや、違うだろ。僕が緊張でパニクってただけだろ。八木教授のせいじゃないのに。
田中の中で、自分のせいで負けたという事は自覚してるのに、ただ、ただ、本当に思ってる言葉とは違う言葉が出てきてしまう。
雨はどんどん強くなり、田中と八木教授に冷たくのしかかってくる。
雨が降りしきる公園、田中は崩れ落ちた体から振り絞った力で拳を地面に叩きつけた。
ー悔しい!悔しい!悔しい!いつもみたいに何か言ってくれよ八木教授!
田中が振り絞った拳を地面に叩きつけた時、いつもみたいに冗談言ったり、結果発表を見る前に励ましてくれた時のような言葉を八木教授に求めていたのかもしれない。
目の前にいる背を向け立ち続ける白衣の男は、何も反応しない。
ーなんで、何も言ってくれないんだよ…。
何も反応してくれない八木教授に対して、自分の中の不安、不満、悔しさなどの負の感情が入り乱れたのか田中は叫んだ。
田中「何が楽しく東大に受かるだよ!何が受験革命だよ!夢なんて見なければ良かった!あんたの言葉なんて信じちゃ行けなかったんだ!」
再び僕は、拳を地面に叩きつけた。
ーこれだけの僕の本音をぶつけたんだ!なんか反応してくれよ!冗談でもいいからさ!
そんな田中の思いとは裏腹に
白衣の男は、それでも反応しない。
ーなんでだよ…なあ…
田中の中で
取り巻く負の感情は、次第にまとまり大きなかたまりとなった。
田中は、顔を上げ、白衣の男に向かって言う。
田中「東大受験辞めます。短い間でしたが、夢を見させていただきありがとうございました」
田中は、溢れ出る感情を抑えきれず、その場を走って逃げた。
白衣の男は、走って去っていく少年に見向きもせず、ただ、背中を小刻みに振るわせていた。
どのくらいの時間が経っただろう。
その場に立ち尽くす白衣の男の目はうつろだった。
「俺は…なんて言ってやればよかったんだろう」
雨でびしょ濡れになった白衣の男は小さくつぶやいた。
八木教授が目指した、田中東大受験合格計画は、この場で終わってしまったのかもしれない。
雨はまだ、止まない。
第一部完
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