幻想郷監査官の事件簿

Yoru

幻想郷監査官と復讐の灯火 1話

ゆらゆらと揺れる火があった。

暗闇に灯ったその火は深海の如く暗い青。

悠然とそこに在る火は生き物の様に宙を漂っている。


広いとは言えないその部屋の床には赤い塗料で描かれた無数の六芒星と円を組み合わせた幾何学模様が描かれていた。


部屋の真ん中には少女が座しており、銀髪に輝くその髪は脂ぎっており、すすコケた頬の上に髪色と同じ二つの瞳が目の前に浮かぶ青い炎を見つめていた。


四肢は細く、健康とは言い難い。


炎はそんな自分を見つめる彼女を見て、嗤った。彼女の見た目を嗤ったのではない。初対面の少女の執念を称えたかったのだ。よくもまあこんな場所に召喚してくれたと。


本当に面白い!と炎はもう一度、嗤った。


その薄汚れた外見とは裏腹に美しく力強い内に潜むその執念を感じるのだ。


身体のうちに蠢く負の感情を!


恐怖を。嫉妬を。羨望を。怒りを。憎悪を。そして、後悔を。


目の前の少女の中には様々な感情がせめぎ合い、一つの目的を渇望していた。


それは天上の甘い蜜のような甘美、それでいて、地獄の業火に焼かれたあの苦しみを感じさせる。


その我欲が、導く先が、破滅しか待っていないことを理解している。理解していてなお止められないのだ。


彼女の望むものがに呼び出された時点でかわかっていた。


だが、それは彼女が言葉に紡がなければ結ばれない。


彼女は身体が叫ぶ悲痛と心を支配する苦痛に支配されていた。割れるような頭の痛み。喉の裏に何かがつっかえた様な気持ち悪さが嘔吐感。赤黒く底の見えない泥のような海底の中に青い青い炎が灯った。


黒のワンピースから覗く細腕には部屋に描かれた模様をより緻密に繊細に刻こんだタトゥーが炎と同調するように薄く発光していた。


彼女の顔は成し遂げたという満足な表情を浮かべ、炎を写す彼女の瞳が痛みなどありはしないかのように、只々、恍惚としていた。そして、喉を震わせ紡いだ。


「二年前に終わったと宣言されたあの戦争を!本当の意味で終わらせるために…!あ、あなたは私の願いを聞き届けてくれる?」


か細い掠れ声が部屋の空気を震わせる。


面白い聞き方だ。大体の奴は召喚したことをいいことに、やれ契約やれ服従とのたまうのだ。


『ふむふむ…聞き届ける、そうのたまったかの?』


感情が読み取れても思考が読み取れないのは困ったものだが、そのスパイスが趣きに変わる事もあるだろう。


「あ、あなたの声?脳に直接・・・そ、そう!わたしの、私達の…復讐を!復讐を手伝って欲しいの!」


その言葉に再度、嘲笑う。私達とはまた、難儀な!


『カカ!・・・ふむ、面白そうだのう!良かろう良かろう!だが、まずは互いに名を名乗るべきであろう?』


ゴクリとツバを飲み込んだ。静寂が部屋を包み込む。


「わ、わたしの名前は、ノア、よ。」


『そうかそうか、ノアというのか!我の名はな…』


斯くして、絶望の片隅にひっそりと漂う少女と復讐の炎は契約を交わした。


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