しゃべる犬

静木名鳥

しゃべる犬

ある日自然豊かな公園を散歩していたら一匹の犬を見つけました。


 (あ、見つけた、じゃなくて出会った。ですね、ごめんなさい。)


その犬はワンと鳴くと思いきや人の言葉をしゃべったのです。


 (何と言ったかはこの後説明しますから大丈夫ですよ。)


「こんにちは、お嬢さん。こんなところで何をしているのかね」


 (声も口調もおじさんっぽかったですよ。あ、もちろん紳士的で素敵だと思います。)


まさか目の前にいる犬の声だとは思わずあたりを見回しますがそこには私と目の前の犬しかおらず、他に人はいないようでした。

 

 (ほんともうびっくりしたんですから、何がどうなってるのか分からなくてきょとんとしてしまいましたよ)


「…………」

「どうしたんだい? そんな不思議そうな顔をして。何か驚くようなことでもあったのかい?」

「今の声って君? だよね……?」

「あぁ、そうだよ? ちなみに僕の名前はシロというんだ。君、じゃない」

「え? あ、ごめんなさい……」


 (今も思ってるんですけど、なんでシロって名前なんですか? 体は黒いのに……っていたたたたた! 噛まないでくださいよぉ)


「私はこう見えて人間じゃないんだ、立派なベルジアンシェパードドッグと呼ばれる犬の種類でね。と、そんなことはどうでもいいか、最初の質問に戻るけど、君はこんなところで何をしているんだい?」


 (急に長々としゃべり始めたと思ったら、こう見えて人間じゃない、とか、犬種とか言われて。頭が追い付かなかったですよ)


「私はただ散歩をしにふらっと寄っただけで……」

「そうか。君もか……。あまりこの辺りを歩くのはお勧めしないよ」

「え? どうしてですか? ここってただの公園、ですよね」

周りは雑木林が所々に生えていて、その隙間から差し込む日の光がまぶしくも温かい普通の公園にしか見えません。


「少しの間だったら問題はないんだけど、長居はしないほうがいいよ」

「だからどうして、って。え?」


瞬きをした瞬間その犬、シロさんは消えてしまいました。最初からいなかったかのように突然。


「シロさん? シロさーん……」

なんど呼び掛けてもあの渋い声は聞こえてきませんでした。

私はどうしようか迷いましたが、少し怖くもあったので、シロさんの言う通りその公園を離れました。

その後友人にその話をしたところ、そんな所に公園なんてあったっけ?なんて言われてしまいました。


私はもう一度その公園へ行こうとしましたが、あの日はどうやって公園へたどりついたのか、どうしても思い出せないのです。


うーん、と悩みながら歩いていると、後ろのほうから


「わん!」と、



振り返るとそこには一匹の黒い犬がいました。


おしまい







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しゃべる犬 静木名鳥 @sizukinatori

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