第26話

 我々の行動は義挙だと今上陛下が認めてくださった。

 だが、薩州閥も他の維新系諸閥も、蛤御門の変が叛乱であった事も、孝明天皇陛下が暗殺された事も、断じて認めなかった。

 今上陛下と皇太子殿下をはじめとする皇族の方々には、絶対に忘れられない教訓として認識されたそうだが、世間には公表されなかった。


 今はまだ幕閥の力が不足していると痛感した。

 だがそれも、我々の行動が罰されることはなかったし、長州閥の力が削げたのは間違いないので、それでよしとなった。

 

 事が終れば、学業に専念するだけだ。

 幕閥系の教官が正当に評価してくださった御陰で、今まで不当に貶められていた成績も見直され、下駄を履かされていた長州閥の生徒の成績も見直された。

 縁者が蛤御門の変に加わっていた生徒の中には、いたたまれず退学する者もいた。


 なんと心の弱い事だ!

 おのれに信念があるのなら、誰に何を言われようと、それを貫かねばならぬ。

 そもそも立身出世、私利私欲のために陸軍士官学校に入学していただけで、今上陛下と皇国を護るという忠誠心など欠片もなかったのだ!


 俺は仲間達と切磋琢磨して学業に邁進した。

 休日ごとに家族のもとに帰ったが、それは長州閥の謀略を防ぐためであり、御世話になった涼華男爵家の御恩を返すためだった。

 俺達が義挙を成功させた事で、長州っぽの幕閥に対する恨み辛みが激しくなっているのだ。

 また御嬢様が狙われることが考えられ、とても御不自由な生活を強いてしまっているのだ。

 少しでも御慰め出来るように、家族揃って私心なくお仕えせなばならないのだ。


 そんな学生生活で同期との連帯が築かれた。

 特に義挙を共に戦った事で、同期であると同時に、命を賭けた戦友になったのだ。

 その絆は、単なる同期とは一線を画していた。

 だが同時に、よき競争相手でもあった。

 首席を目指して、共に励んだ。


 絶対に勝てないと思っていた戸田に勝ち、首席卒業できたのが信じられなかった。

 恩賜の銀時計を今上陛下から授与され、思わずむせび泣いてしまった。

 少々恥ずかしかったが、賊軍の汚名を着せられて無念のうちに亡くなった祖父母や、今も汚名に苦しむ父母弟妹や会津の仲間達を思うと、少なくとも今上陛下の大御心では汚名が雪がれた想いがして、嗚咽を抑える事ができなかった。


 ちなみに今年の生徒の成績は例年に比べて飛び抜けて優秀で、次席の戸田だだけではなく、三番の佐藤、四番の鈴木、五番の田中、六番の山本も恩賜の銀時計が授与された。

 例年になく成績が優秀なため、疑念を持った者達が何度も見学にやってきたが、悪意ある者でも舌を巻き納得するしかない優秀な成績を、同期一丸となって見せつけてやった!

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