第14話鉄心大叔父視点

 やれやれ、親子喧嘩の仲裁とは情けない。

 しかも恋愛話だと言うのだから、なおさらだ。

 だが、それが一族の命運を分けると言うなら、真剣に考えなばならん。

 厳刀殿が当主として、薩摩っぽと縁を結んでも家を護りたい気持ちは分かる。

 出る杭は打たれると言うが、今の涼華家と龍騎はまさにその状態だ。 

 

 それに厳刀殿は、中将で予備役に編入させられた儂や鉄剣、編入させられそうになっている、鉄男達の事も考えてくれているのだろう。

 薩摩っぽの力を借りれば、長州閥の将官が全て退役した今なら、現役復帰して大将に昇進する事も不可能ではない。

 もちろん厳刀殿も大将に成る野心はあるだろうが、まずは儂たちの事を考えてくれたのだろう。


 だが、龍騎との縁を捨てるのも惜しい。

 あれは名前通りの龍だ!

 時を得たら天にも昇るだろう!

 今上陛下にあれほど気に入られているのだから、オリンピックで金メダルをとれば、爵位を得る事も不可能ではない。

 まあ一つでは厳しいだろうが、二つ三つ取れば十分可能性はある。


「なあ、厳刀殿。

 薩摩っぽと縁を結ぶだけなら、何も麗殿でなければならない訳ではあるまい。

 儂の娘でもいいし、鉄剣や鉄男の娘でもいい。

 こんな事は考えたくないが、銀舟殿に何かあれば、涼華男爵家の家督は婿養子に渡ってしまう。

 薩摩っぽが銀舟殿を狙わないとは言い切れないのだぞ?」


「確かに、薩摩の連中ならば、それくらいの事はやりかねませんね。

 しかし本当にいいのですか?

 花子殿や菊枝殿にもいい男がいるのではないですか?」


 厳刀殿が気を使ってくれるが、それこそ麗殿と同じだ。

 武家娘は親の決めた相手に嫁ぐのだ。

 まあ、少々策を弄す必要はあるが、それは当然だろう。


「厳刀殿がさっき自身で言っていたではないか。

 武家娘は親の決めた相手と結婚するのだと。

 それに、儂や鉄剣も、麗殿と言う姪の縁で薩摩と結ぶよりも、娘の縁で薩摩と結んだ方が現役に復帰し易い。

 まあ、厳刀殿の養女にして、男爵令嬢として嫁がす必要はあるが、その方が相手にも利があると思うぞ」


「どう言う事ですか、叔父上」


「薩摩にとっても、今上陛下に注目されている龍騎と縁を結ぶのは、十分に利があると言う事だ。

 麗殿と龍騎が結婚すれば、養女として嫁いだ花子は義理の兄弟姉妹になる。

 菊枝殿も同じだ。

 婚家も龍騎が金メダルをとれば名誉であろう。

 新たな爵位を賜れば、更に利がある」


「確かに厳刀叔父上の申される通りではありますが……」


「だが大きな問題がある」


「何でございますか?」


「そもそも龍騎はこの話を知っているのか?

 麗殿がのぼせ上ってるだけで、龍騎は麗殿の事を何とも思っていないとしたら、それこそ大恥をかくことになるぞ」

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