下水道の支配者
果肉亭から事務所に帰る途中。
「エイジャ、ほっぺにお弁当ついとるよ」
タキシードの指摘に、エイジャは無言で自分の頬をつんつんとして見せた。タキシードは小さく息をついて彼女の肩に飛び乗ると、彼女の口元についた食べかすをペロッと舐め取ってやる。
エイジャはちょっと頬を膨らませていて不機嫌そうだ。その感情はランチの食べっぷりにも出ていて、支払いを終えた依頼人ジョーの顔が青ざめていた。
「兄ぃ……どうして受けたの?」
エイジャは下水調査を嫌がっている。タキシードも嫌だ。依頼料は結局、前払いで鉄貨一枚。成功で追加の鉄貨二枚。見つからない可能性もあるからだ。
「あー、実はな――」
タキシードは先ほどメルカトルとの会話の中で、
「――せやから、今回はワシ一人でやるわ。思いつきやったからな。エイジャは家にいたらええよ」
エイジャは立ち止まって肩に乗ったタキシードに顔を向けた。タキシードの青い瞳が、彼女の
「――なら、私もやる」
「え、いや……ええって――っ⁉」
エイジャはタキシードの髭をつまんだ。「痛っ、なに⁉」と戸惑うタキシードの様子を存分に楽しんでから、彼女は事務所の庭の
タキシードは
チュー五郎は南バミューダの下水道の支配者だ。狭くて暗い下水道の中で、大量の仲間を引き連れた彼らに逆らえるものはいない。だがそれでも下水網の全てを把握しているわけではない。下水には他にもやばい魚やワニ、そして危険な大型昆虫などがひしめいているからだ。
タキシードがチュー五郎に話をつけている間、エイジャは隣で「むーん」と声を漏らしながらズボンを
エイジャはズボンが嫌いだ。尻尾が引っかかるから
「――ふぅん? なるほど?」
「どうしたの? 兄ぃ」
なにやら身体を寄せ合って相談していたタキシードとチュー五郎。そんな彼らを、ズボンを穿き終えたエイジャが腰を折って上から覗き込んでくる。すると窮屈そうにお尻に手を当てた彼女の
――メルカトルの評価は的を射ている。
タキシードは改めて妹の将来が心配になった。
「――なんかな、下水で仲間のネズミが失踪する事が続いているらしいねん。それを先に解決して欲しいんやって。つい最近チュー五郎もなんかが下水を
「下水を徘徊……気持ち悪ぅ!」
タキシードの話に、げんなり舌を出して見せたエイジャ。そんなことをしながら支度を整えていた彼女に、タキシードが続けて声をかける。
「おおそうや。エイジャ、武器もな。この前もグロテスクが出たし、最近は物騒や」
「――任せて兄ぃ! グロいのは私が全部ぶちのめすから!」
寝室から取ってきた金属製の
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