第10話 夢中
「さぁ皆さん、自分で短歌を作ってみましょう」
国語の先生がそう言った。
クラスメイト達は指折り数えながら、五七五七七に文字を当てはめていた。
「ねぇねぇ、ヤナは何か思いついた?」
ヤナとは私のあだ名であり、小学校からの同級生のモエカが隣の席から私に呼びかけていた。
「ううん、まだ何も」
「いきなり短歌って言われても難しいよねー」
モエカが口を尖らせて先生にも聞こえる声で言った。こういう大胆な事が出来るのが明るいモエカらしい。
「ええとぉ、難しく考えなくても大丈夫よ。今朝の朝食の事とかでも良いし」
困った先生は難易度や敷居を高く考えない様に提案した。
「何も思いつかないなぁー」
モエカはペンを置いて、前髪を弄り始めていた。
何かあったかな……と私も考え出すと、ふと今朝の夢の事が思い起こされた。
ドロドロとして、でも気味が悪いわけでもなく、それでいてしっかりとは思い出せないのに、妙に輪郭はくっきりと印象めいていた。
私はペンを持って、しばしばノートへと、夢の内容を走らせてみる。
数分後に完成したその短歌は私自身もびっくりするぐらい夢の内容を表していて、寒くもないのに、うっすら鳥肌が立っていた。
「あら、夜奈月さんできた?」
ふと気付くと、いつの間にか先生が歩いて様子を見回っていた。
「えっと、まぁ……」
「見てもいいかしら、どれどれ……。あら、中々良いじゃない」
「そう……ですかね?」
私は反応に困った。だって夢の内容が内容なだけに、短歌も暗いものとなっている。
「ヤナできたの?見せて見せて!」
モエカが興味全開といった様子で目を輝かせノートを見てきた。
「あっ、ちょっと待って」
「ふむふむ、『夢の中、暗い夜道を、往く背中、名前は知らぬが、私だろう』……?」
「あの、えっと、今日見た夢が何か変で、それをちょっと書いてみたというか、何というか……」
「えーすごいじゃん! なんか文豪っぽいよ!」
「そっ、そんな事ないよ……」
「先生も良い短歌だと思うわ。さすがね、夜奈月さん」
「あっ、ありがとうございます……」
結局、モエカは適当に短歌を作り、私は自作した短歌が脳内でリフレインされる度に、余計に夢の内容が頭にこべりついて、離れなくなっていった。
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