異世界作成計画 一人は寂しすぎるのでチート創造してたらいっぱい異世界が生まれました。

ミロク大爆発

第1話 始まりの世界(プロローグ)

 目が覚めると、砂浜に立っていた。

 打ち寄せる白波。視線を上げてその海の先に目を細めても、果ては見えない。


「ええ……」


 さんさんと光る太陽の下、俺は頬を引きつらせながら、訳が分からないまま、とりあえず完全防寒装備のジャンパーのジッパーを大きく緩めた。



 記憶に確かにあるのは、ついさっきまでは真冬の真夜中だったということだ。

 俺は、いつかやめてやろうやめてやろうと思いながらも、問題の先送りする性格が災いして勤続5年目のブラック企業勤めである。

 いつものように上司に押し付けられたサビ残を終え、終電の電車で帰路についていた。

 電車を降りた後、立ち寄った駅前のコンビニで、夜食を買って。

 マーボー丼。あと仕入れをミスったのか、表面が茶がかったカットリンゴが大量に叩き売られていたのでそれを。りんごは子供のころからの好物だ。

 コンビニを出た後、凍えるような風が吹きすさぶ中、家のこたつが恋しいと、20分程度続く夜道を身を縮ませて歩いていた……はずだ。




 俺は砂浜に立ち尽くしたまま、首だけ振り返る。

 太い、何の木かもわからない、大蛇がのたくりあってその身で編まれてできたような大木が一本。全長5メートルくらい。

 砂浜。きれいに半径10メートル程度の円を描くように、砂浜。

 あと海。青い。ひたすら海。

 炭鉱夫を主人公にしたサンドボックスゲームの縛りプレイにこういうシチュエーションあったな……。




 1時間くらい経った。

 つい先ほどSOSを砂浜に大きく描きおわり、労力以上に気疲れしている。

 大樹の木陰に座り込む。

 とりあえず、さっきまで思いついたことをスマホにメモっておこう。




・夢なのに目が覚めない

 何度も頬をつねったり、海水に足を浸して動き回ったりしてみたが変化なし

 ただ冬装備のままだと暑かったので今は木の根元に脱いだものをたたんでおいた。今はシャツ一枚パンツ一丁だ。



・日がうごいてない?

 飲み終わって砂浜に放り捨てていた缶の、影の落ち方が全く変わっていなかった



・スマホは圏外。

 時間機能は動いているが、日付がバグっていて機能していない。0日ってなんだ……。

 落としきりのゲームはできた。



・小石の一つもない

 図ったように1粒1粒同じくらいの大きさの砂ばかりで、小石はおろかゴミのかけらの一つ、陸に打ち上げられて乾いた海藻や貝殻の一つもない。


・海ではない。

 海と思ったら30センチほどの深さがずーっと続くだけだった。

 塩水ではなく、真水だった。


 一言でいえば、もはや遭難したというより、作り立ての水槽に放り込まれたという感じだ。

 これが、サバイバル漫画のように無人島のようであったなら、漂流物を集めたり森を探検したり動物を罠にかけて食料にしたり家を作ったりとできただろう。

 しかし、サバイバルしようにも、何もない。絶海の孤島(笑)である。

「どーすんだこれ……わけわからんぞ……」

 俺は途方に暮れたまま、砂浜に体操座りして、水平線を見つめながらぼやいた。

 夢だ。これは夢。夢であってくださいお願いします。

 これはあれだ、TRPGの導入みたいに超常的な何かにさらわれたのかもしれない。

 あ、もしかして異世界転生?

 神様の転生先の案内はいつはじまるんですか?

 全く覚えにないが、異世界の王族に召喚されたけど使えない人間だったから流刑地に飛ばしました、っていうならもう少し何とかならなかったの?

 俺はマーボー丼とカットリンゴを平らげ、満腹に身を任せて目をつぶった。

 うーんこれは夢、これは夢……。






 目が覚めると、そこはやっぱり絶海の孤島(笑)だった。

 スマホのロック画面には『1日07:52』と表示されている。朝だ。家賃5万の安アパートの狭い寝室で目覚めなければいけない時間である。

 なのに俺はまだ砂浜にいたままだ。当然スマホの日付もバグったまま。太陽も、海も、一本しかない大樹も、脱ぎしてた上着などもすべて寝落ちた前のそのまま。


「うーーんこれは本格的にまずいんじゃないか……」


 おなかも減ってきている。そろそろ、本気で危機感を感じざるを得ないんだけど。


「……まず食べ物だ。助けを呼ぼうにも待とうにも、何とかして食いつながないと」


 決意して立ち上がった、そんな俺の後頭部に、ごつん、と何かが当たる。


「あいた」



 そのままボスっと目の前の砂浜に埋もれるようにして落ちたのは……1個のリンゴ。


「え、どういうこと?」


 そのまま上を見上げる。

 島に一本しかない大樹はよく見たら心なしか太く大きくなっており……昨日まではなかったはずのリンゴの果実が、たくさん枝に実をつけていた。

 解決したわ……食糧問題。




●遭難日記、3日目。

 なんでずっと明るいままなのに3日目ってわかるかって?スマホの日付が、3日になってるからだ。もしかしたらこのスマホはこの世界に連動しているのかもしれない。


 あとスマホのバッテリーは一ミリも減っている様子がなかった。なぜかわからんがありがたかった。

 あれからリンゴと水だけで生活している。

 リンゴと水だけじゃ塩分不足で倒れてしまう…と思っていたんだけど全くその気配がない。それどころか体はこれまでサビ残でいじめ続けていた昨今にくらべ生まれ変わったかのように好調だ。毎日三食絶海の孤島産のリンゴ1個と水だけで、俺はどうやら絶好調な健康を維持しているらしい。

 糞尿はすべて木の根元(寝起きしているところとは反対側の根元の方だ)に穴を掘って埋めて処理している。その辺にある砂よりかは木の栄養になってくれるだろう。

 あの日、なんでリンゴが寝て起きたら木に生えていたのか。

 その疑問に、ぼんやりと仮説を立てた。

 カットリンゴだ。プラスチックの器の底に数粒落ちていたリンゴの種が、根を張ったのだ。

 その証拠に、りんごをもごうと木登りしたときに、実際丸めて放り捨てていたはずのコンビニ袋が、マーボー丼のプラ器と一緒に大樹の幹にめり込んでいたのを発見している。(プラ器はもはや貴重な食器なので海の水で洗って乾かして保管している)

 木が太くなってみえたのは錯覚でもなんでもなく、あとから生えてきたリンゴの木が元の大木に吸収合体されその分大きくなったに違いない。

 初日にリンゴを食べ、その種を根元に撒いておいたらまた太く、木も大きくなっていたから、間違いない。

 しかしそれももう三日目。りんごの木は成長を続け10メートルほどに達している。初日に比べてもう2倍だ。幹も比例して大きくなっており、あんまり太くしすぎたら木に登りにくくなるから、明日から今ある木から少し離して種を蒔こうと思う。



●遭難日記、4日目。

 目が覚めると、木の幹の周りに、螺旋階段のように幹が出っ張っていた。

 木登り問題が解決した。

 わけがわからん。




●遭難日記、5日目

 あと気づいたが、リンゴはもいでももいでも次の日にはまた生えている。木が大きくなるごとにその数も加速度的に増えているのが現状だ。

 いいこと思いついた。

 全部もいで種を全部木の周りに撒いておく。

 家を!屋根のあるスペースをください!と念じながら寝る。




 遭難して6日目がたった朝。

 俺は目が覚めるなり、勝利の笑みを浮かべた。天井があったからだ。木の幹をそのまま張り付けたような 天井は、『木を切って加工したものではなく、そういう風に成長した』ことを意味していた。

 昨日蒔いたたくさんのリンゴの種でさらに巨大になった大樹の、その根元に出現した、10畳程度の豆腐型のスペース。

 屋根のある生活きたコレ!!!!!!

 これはこれはもしかするの…!?




●遭難日記、15日目。

 今では最初は豆腐のような四角いスペースだけだった屋内が、大樹の中にできた秘密基地のようになっている。椅子もでき、窓もでき、ぽっとんトイレができ、ふわふわの葉が集まってベッドができた。

 リンゴ以外も欲しい、と願ってみたら、品種改良されていくようにリンゴの形から徐々に毎日変形していき、色が変わり、バナナ、もも、ブドウ、みかん、ジャガイモができた。さすがに肉をお願いしたのは聞き入れてくれなかったが。

 わかったこともある。

 この木は願いをかなえてくれるが、そのたびに『種』を消費する。

 または、成長しなくてはならない、というべきだろうか。

 『木が大きくなる→何かしらの願いが叶う』

 というルールが存在するみたいだ。種を蒔けば大きくなる。

 さらに『砂地の範囲でしか木は大きくならない』。

 調子に乗って大樹を育て続けていたが、とうとう砂浜のスペースすべてを食いつくしてしまった。それから種をいくらまこうが木は大きくならないし、願いをかなえてくれない。

 果実のおかげで餓死することはもはや心配していない。

 その日から俺の一日は、食べることと寝ること以外は、大樹に作ってもらった木のシャベル(願ったら次の日大木の根元から生えるようにして生えていた)で大樹の周辺の砂を盛り上げて、埋め立てることに終始するようになった。




●遭難日記、20日目

 外周はおよそ80メートルほどにまで大樹は巨大化を続けている。

 とうとう外周の砂を盛り上げるのも1日では終わらなくなってきた。

 なぜなら、水深30センチの場所を埋め立てるには30センチどこからか砂を持ってこなくてはならない。

 すぐ手前から砂を持ってくれば、次の日水深60センチの砂を埋めてやる必要がでてくる。なので少し遠くからでも砂を持ってこないと次の日の埋め立てがきつくなるのだ。

 水をじゃぶじゃぶ、シャベルですくった砂を遠くから持ってきて、木の根元を埋め立てる。

 また砂をすくいにじゃぶじゃぶと…

 ああ、次お願いするときはダメもとで疲れなくなる果物でも作ってみようか。




●遭難日記、60日目

 体が疲れなくなるリンゴを生んでしまってから俺は人間を辞めることになった。

 睡眠を3日に一回でよくなった俺は、リンゴを食べ続け、埋め立てを続けた。

 病気にならないリンゴ、体が丈夫になるリンゴも作った。ギャグで適当に想像しただけなのに不老不死になるリンゴもできてしまった。

 リンゴ以外でもできるか?とやってみたが無理だった。何か特別な力を持たせる果物は、リンゴでないといけないらしい。

 魔法が使えるようになるリンゴ、ももちろんできた。ポッと火が出るようになった。竜巻を作ったり小さな津波を起こしたりして遊んだ。めちゃくちゃ楽しかった。もっと魔法で遊ぼう。

 次の日、魔法がうまく使えるように頭がぐっと良くなるリンゴ、を作った。

 魔法をより理解したい。それで思いつく。土魔法で埋め立てをやればいいじゃん、と。

 だが、土魔法では砂地はピクリとも動かなかった。土を生み出そうとしても出てこない。完全にゴミ魔法じゃないか。

 がというかそもそもこの砂が問題だった。じゃあ風魔法で浅瀬ごとふっ飛ばそうとしてもピクリとも動かない。浮遊魔法を作って浮かばせようとしても浮かぶのは水だけで、砂は動かない。

 あらゆる方法を試した。リンゴによって魔法をより理解していた俺の直感は、いかなる魔法を使っても魔法で砂を動かすことは不可能なんじゃないか、と試す前から分かっていたのに。

 派手なエフェクトだけ出るがダメージはない、プロジェクションマッピングのような子供だましみたいだな、と思ってしまい、もの悲しい、白けた気持ちになってしまった。それから魔法を使う頻度は極端に減った。




●遭難日記、68日目。

 数日前の、魔法に冷めてしまった気持ちがきっかけになったのか、あれからずっと気持ちが晴れない。

 最初は、この何もない世界で、生き残りたかった。

 次は家を作るなどして文化的な生活を取り戻すことがモチベーションになった。

 魔法も使えるようになった。火魔法でお風呂に入れるようになり、風魔法で木に登らなくても果物を落とせるようになった。本気を出せば、現代に戻ればドーム一つ分更地にできるだろう強烈な一撃を出すことだってできるようになった。

 だが火や風や雷が出るからと言って、それがどうした。砂は結局自分の体を動かさないと埋め立てられてくれない。というかそもそも埋め立てをしなくても俺は生きていける。それでも埋め立てをするのは、この代わり映えのしない一人きりの世界でそれが唯一変化することだからだ。

 現状を打開したかった。

 あのブラック企業が、あのむかつく上司がたかだか半年も経ってないのに懐かしくて仕方がない。

 アニメが見たい。漫画が読みたい。エロ本がほしい。セッ〇スしたい。

 肉が食べたい。ステーキが、お寿司が食べたい。

 インターネットがしたい。新しいゲームがやりたい。どうして圏外なんだよ。

 一言でいい、一文字分だけでもいい。誰かと、触れ合いたい。

 口にするまい、考えまいとしていた弱さが次々とあふれ出てくる。

 スマホに唯一落としきりで入っていたゲームのスタート画面のBGMを、プレイもせずに流しながら俺は、ぼそぼそと一日中独り言を続けていた。

 俺は数日かけて次の埋め立てを終え、願った。

 転移魔法、時空魔法を使えるようになるリンゴを。

 魔法は、それが当然かのごとく、不発に終わった。



●遭難日記、100日目。

 もはや木に願うことはなくなっていた。

 いや、つい一昨日、願って作ってもらったばかりだ。神でも死ねる毒を盛ったリンゴ、を。

 さすがにまだ食べていない。さすがに死を前にすると怖い。

 しかし俺は前愚かにもリンゴによって、病気にならなくなり、体が丈夫になり、不老不死になる力をリンゴによって得ている。

 ならばこの毒リンゴを食べたとしても俺は死ねず、その苦しみだけが続くだけじゃないのか。一人で、誰もいない世界で苦しみ続けるだけ。そんなのただの地獄だ。




●遭難日記、101日目。

 そうか。一人でなければいいのか。

 どうしてそんな単純なことに気付かなかったのか。

 命、作ろう。



●遭難日記、103日目

 なんかエルフっぽい女の子ができたぞ大丈夫かこれぇ……(不安)


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