異世界で王妃になったメインヒロイン(仮)、バッドエンド√を回避できませんでした。
おがた
第1話 王妃の最期
私はどこで、何を間違えてしまったのだろうか。
「不憫には思うが、諦めてくれ」
そう言って目の前に立つ男の声は、本当に憐憫を含んでいた。大広間の冷たい床に膝をついて俯いていた王妃はそれを聞いて、しっかりと顔を上げて相手を睨み返す。
そんな王妃の姿に少し驚いた様子を見せた男が持っている、大きな剣の先から滴り落ちる血は、男の背後に倒れている王のものだった。指先がまだ動いているが事切れるまで時間の問題だろう。そして王の次は王妃である彼女の番だ。
慣れない叫び声を上げた喉が痛い。それでもゆっくりと立ち上がって、ドレスの長い裾を翻して、まっすぐに胸を張って。堂々と答える。
「私はこの国の王妃です。覚悟など最初からできている。貴方のような反逆者に、憐れに思われるのは屈辱でしかありません」
しっかりと握りしめたはずの指先が震える。男がその指先をチラリと見て、それから王妃の顔を見つめた。男が何を考えているのか、表情から読み取ることはできなかったが、その目から先ほどのような憐憫の視線は消えていたので王妃は満足する。
王妃と相対する男が動かないことに気がついた男の仲間が駆け寄ってくるが、それを片手で制して、王の血に濡れた大剣を構えた。
「せめて苦しまないように送ってやる」
――これが私の選んだ運命の、その結末だ。
けれどもここで死ぬ自分の、この魂はどこへ行くのだろうか。先に殺された王や臣下たちの魂は、彼らが信じる天上の楽園へと向かうのだろう。式典の時に見た、祭壇の壁に描かれた美しい世界へ。
自分も同じようにそこへ行くのだとは、どうしても思うことができなかった。
この世界の人間ではないのだから。
剣を振り上げた男の視線は、何故だかとても優しいものに見えた。それは先ほどのような憐れみを含んだものではなく。
もしもこの世界に来て最初に出会っていたのが彼だったら、もしかしたら、と。今際の際の、その最後の瞬間に思ってしまうほどに。
自分の選択に後悔はない。だけど。
そもそも自分は出会うべき相手を、選ぶべき『運命の相手』を間違えていたのではないだろうか――
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