第18話 週刊Rabbit記者・時任研司

 「おい、時任!証拠掴めたのか?」


 デスクの冴島が大声を出して叫んでいる。

締め切り間近で、みんなイライラしていた。


 「ここ3日張り込んでいますが、なかなか一緒に出てきません。警戒深い二人とは聞いていましたが、相当手強いです。」


 「クソ!間に合わんぞ。時任、お前、もう一つネタあるって会議で言ってたよな。」


 今回のネタがボツになるかもしれない苛立ちで、机を叩きながら髪を掻きむしっている。


 「でも、今張っているものよりも、弱いですよ。」


 この際仕方ないだろう、とタバコを口に咥えながら喫煙室へ向う冴島について行った。


 今回の目玉は、今売り出し中の清純派女優・大崎りりのと

政界のドン佐川朗(あきら)の不倫だった。

だが、片や政界のドンだ。

二人で会う時間も厳重にガードされている。


 何故、厳重にガードされている佐川の不倫ネタを掴んだかと言うと、佐川の妻が週刊Rabbitにネタを吹き込んだのだ。

二人が不倫をしているというのは、事実だった。

妻が佐川の行動に不信感を抱き、佐川の携帯をチェックした。

大崎りりのとのラブラブとも言えるメッセージのやり取りがそこにはあった。後は、佐川と大崎りりのが二人で会っているという証拠さえ掴めれば完璧だった。


 不思議で仕方なかった。

佐川は政界では極めて権力があり頭があがらない男だが、一般的に見れば60間近の親父だ。

何故、弱冠23歳の大崎りりのが佐川と交際しているのか。

何としても証拠を押さえて真相を知りたい。


 佐川の妻も、不倫相手が23の駆け出しの女優と知った時は、落胆したそうだ。


 冴島デスクが2本目のタバコを咥え俺に鋭い眼差しを向けた。


 「佐川の案件は、ウチでしか掴んでいない情報だ。奥さんが他の週刊誌に、情報提供しない限り大丈夫だ。」


 「大丈夫です。奥さんには、他の週刊誌には一切情報提供しないでくれと、口止めはしています。ですが、奥さんの佐川への怒りが強く、早く証拠を掴まないと、他へ情報を流す可能性もあります。先延ばしにするにもリスクがあります。」


 「だが、今回の締め切りには間に合わん。次の締め切りまでには何としても証拠を掴め!奥さんにも協力をしてもらえ。佐川が大崎りりのと会うことも、どこかにメモをしているはずだ。こちらではその情報は掴めない。奥さんへの協力なしでは、無理だろう。今週のネタは別にして、来週の締め切りまでに必ず証拠を挙げろ。週刊誌記者として、全力を注げ。これが成功すれば、週刊Rabbitが、また一目置かれるのは間違いない。無論、記事を書いたお前も一目置かれる存在になるだろう。」



 俺の肩に手を置き、喫煙所を出て行き自分のデスクへ戻って行った。

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