1話 入学式の朝

 今日は、『名栄森学苑なさかもりがくえん』の高等学校の入学式であり、私が初めて登校する日でもある。朝から太陽が出ており、まるで私達を祝福しているかのような、素晴らしくいいお天気であった。


目が覚めてから漸く起きる気になって、身体をベットから起こして、私は窓の方へ歩み寄った。窓を開けて、外の空気を思い切り吸い込んで、深呼吸をする。

窓を開けた途端、小鳥たちが鳴いているのがよく聞こえて来た。


私の自宅には、とても広くて大きい庭があり、私の寝室からは、3階より上にあるロフトにある所為もあり、周りの景色が見回せる。この近くには大きな建物がなく、私の自宅よりも高い住宅がないので、割と遠くの方まで見渡せるのだった。


 しばらく外の景色を眺めて、ボ~としていると、ドアをノックする音がして、「はい」と応答した後にドアが開いて、1人の女性が入室して来た。

私の部屋に入って来たのは、エプロンをつけた年配の女性である。その女性は、私と目が合った途端に、驚いたような顔をして目を丸くした。


 「…まあ、お珍しい。お嬢様、おはようございます。本日から高等部ですね。

いつもより早いのですが、朝の支度してもよろしいですか?」

 「ええ、構わないわ。今日は入学式だから、早めに目が覚めてしまったの。」

 「道理で、お早いお目覚めなのですね。いつもは、なかなか起きて下さらないお嬢様が、私が起こしに来る前に、目を覚ましているなんて。私が起きて下さいと、何回声をお掛けしても、あと少しと言われるのに…。」

 「失礼ね!私だって、偶には、三千みちさんに起こされなくても、早く目が覚めることだって、あるのよ。」


すると『三千さん』は少し呆れた様な顔をして、苦言を言ってくる。私の日頃の行いが悪いとでも、いうように。私も、毎朝面倒を見てもらっている自覚は、大いにある。でも、これとそれとは別ではないの?


 「明日ぐらいでも、雨が降らなければいいのですが…。」

 「もう!三千さんの意地悪!だって、今日は、特別な日なのですもの。昨日は、中々眠れなかったのよ…。」


ぷくっと膨れっ面をしてみれば、三千さんには諦めたように「はい、はい」と、適当にあしらわれてしまった。自分1人で目覚めた時ぐらい、褒めてくれたって、良いではないの…。まあ、三千さんには、相当な迷惑を掛けているのだけれど。


褒めてもらえるかしら?何て、てっきり考えていたものだから、私は落ち込んでしまう。三千さんは苦笑いをしながら、「折角、早く起きられたのですから、サッサと朝の支度をしてしまいましょうね。」と、言い包まれてしまった。


う~ん。やっぱり、三千さんには敵わないわね。ある意味、両親よりも、私のことをなのですから。





        ************************





 今現在の私は、鏡の中の自分を見つめている。別に見とれているとかではなくて、三千さんが、私の髪を整えているだけである。本当はこのぐらい、自分でも出来なくはないと思うけれど、三千さんが遣らせてくれないのである。


 「お嬢様がご自分で整えられた日には、私の仕事が倍以上増えますからね。ですから、本当に私のことを思って下さるのでしたら、、私にお任せくださいませ。これが、私の仕事なんですからね。」


そのように、以前に言われたことがあるのだ。きっと、私が不器用だからいけないのよ。本当ならば、綺麗にゆるっとカールする筈だったのよ。それなのに…。

私が整えようとしたら、何故かハチの巣みたいに絡まってしまって…。

ううっ。どうして、こうなってしまうのかしら?


結局、私は、三千さんに泣きついた。三千さんは、これ以上ない位に顔を顰め、呆然としていた。三千さんの娘の『真姫まき』さんは、口元をピクピクと動かしつつ、冷静を保っている様であった。多分、…笑いたいのに、私が相手なので我慢していたのだろう。その節はお騒がせ致しました。ごめんね、真姫さん。


他のお手伝いさんや、うちのお抱え運転手達には、見られなくてよかったわ。

でも、その日はお休みであった為、両親にはバッチリ見られてしまい…。

勿論、母は、偶々遊びに来ていた『夕月ゆづ』と一緒に、であった。

父は…、を見たという風に、私から目を逸らしていき…。

私は、自分では遣らないと、心に誓った日でもある。


そのような私は、明るい茶髪と黒目のクオーターでもあり、顔は自分で言うのも何ですが、美人のたぐいに入るようで。アイドルや芸能人に例えるとすれば、ハーフ系の有名人に似ていると、言われることの方が多い。

祖母が北欧系の外国人である為、私はハーフだとすぐ分かる容姿なので。実際には

ハーフではなく、クオーターだと説明すれば、すんなり納得される程なのよね。


今日から高校生だというのに、背丈はかなり低くて、それなのに、顔はどちらかというと大人っぽい為、自分では不釣り合いに見える。年齢相応には見られるのは、いいのだけれど。やや痩せ気味なので、スタイルもそれほど悪くないから、それほどチビにも見られない。でも、その代償というのか、肝心の胸は小ぶりで…。


中学生までは、まだ大丈夫だと思っていたのよ。…でも、そろそろを見なければいけなくなったようね。自分でそう考えると、一層悲しくなってきたわ…。

はあっ。神様も意地悪だわ…。


現在、私の髪を櫛で解いてくれているのは、先程、私を起こしに来た女性=我が家のお手伝いの1人である、『篠田 三千しのだ みち』さん。彼女は、私の父が当主になる少し前から、我が家で働いてくれている、1番の古株のお手伝いさんである。だから、当然、私のことを知っているのだ。

私にとっては、第2のお母さんという感じの人、でもある。


私の家は一応、れっきとした由緒ある家柄であり、この近辺では1番のお金持ちに入ると思う。そういう我が家には、使用人が何人か存在しており、住み込みのお手伝いさんも居るのです。因みに、三千さんを含めた『篠田』さん一家が、住み込みで働いてくれています。


他には、我が家お抱えの運転手さんも数人おり、また運転手を派遣する会社とも契約して、常時運転手が手配出来るようにしている。

何か遭った時の対応の為に、セキュリティー会社とも契約していて、自宅に居る限りは守られている。もし、本当にトラブルにでも巻き込まれれば、そのセキュリティー会社から警察に、連絡がいくようにもなっている。


一応、外出時も駆け付けますと、警報ブザーのような発信機は、私だけではなく、学苑の生徒(内部生だけです)は全員持たされている。我が家の契約するセキュリティー会社と同じなので、私は一部の人とは既に、顔見知りではあるのですが。

…脱線しましたわ。私のことに、お話を戻しましょうか。


私の髪は、緩いパーマを掛けていると思うほどの癖髪であり、髪の色は明るい茶色でもある。お蔭様で、パーマを掛けたり髪を染めたりしていると、知らない人からよく思われてしまって、正直困っている。

お嬢様だから、何しても許されているだとか、見ず知らずの大人や他校の生徒から、誹謗中傷されることはである。


まあ、確かに、これが、この地域の公立小中学校であれば、頭髪検査で毎回引っかかるかもしれないですわね。頭髪検査の厳しくない、私学の学校で本当に良かったですわ。勿論、私学だからと言っても、他の私学はある意味、公立よりも厳しいと聞いたことがありますわ。うちの学苑が、過ぎますのよ。私がこの学苑に通えるのも、私の家がお金持ちだから、ですわね。


私の家は確かに由緒ある家系ですけれど、私の父も、ある程度名の知れた不動産関連の社長であったりする。既に亡くなっている曾祖父が創った会社である。

私の母は、父と結婚する以前は、父の専属秘書だったそうである。今現在も、時々父の補助をしたいと、お手伝いに行くことが多い。でも、本心は、父と一緒に居たいだけだと思うのよ。まだ未だに、なのですもの。


私には、今年から大学生となる3歳上の兄が、いる。小学生の頃から、学校の学生寮に入っている為、滅多に帰宅することがない。妹想いの優しい兄で、毎日顔を合わせられないのは、正直寂しい。兄のことは、大好きだから。

但し、1番目ではなく、になのですが…。お兄様、ごめんなさい!


仕方がありませんわ。…だって、1番目に好きな人は…、私にとってはで、誰よりもなのですもの!

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