Errare humanum est. ~間違いだらけの高校生活~

於田 縫紀

プロローグ

プロローグ 間違いの始まり

 某県南部にある登或とある学園高等学校。

 俺がこの春、第一志望だった公立進学校に落ちて仕方なく入った高校だ。

 でも一応クラスは特待クラス。

 ここで3年間真面目に勉強し、高校受験失敗を跳ね除けて一流大学にスパッと合格してやる。

 そんな決意で俺はこの学校に入学した筈だ。

 なら何故放課後、俺はさっさと帰らずに第一化学準備室にいるのだろう。

 そしてここ西洋民俗学研究会とは名ばかりの課外活動サークルに顔を出しているのだろう。


 理由はわかっている。

 目の前にいる大小2人の先輩のせいだ。

 特にに罪深いのは俺をここに招いた大きい方の先輩。

 彼女は現在スマホで何かを狩るゲーム中。

 小さい方はさっきから妙なイラスト入りのカードを並べて何かやっている。


「何か遊んでいるだけのようですから帰りますよ」

 時間の無駄だ。

 暇つぶしに予習中だった英語論理の予習が切りのいいところまでいったので教科書を閉じる。


「まあ待ちなよ。Haste makes waste.慌てる乞食は貰いが少ない」

 スマホゲーム中の大和やまと先輩が振り向かずに言った。

 サラサラな長髪に長身、よく言えばモデル体型で悪く言えば胸が無……むっ!

 ティッシュペーパーの箱が飛んできた。

「お前今、私の胸が無いと思っただろう」


 空いていた左手で箱を下から弾いてかわす。

 ティッシュの箱は俺の上を飛び越え薬品棚にぶつかり、そのまま滑り落ちて上を向いた状態で薬品棚の棚におさまった。


「モデル体型だって思っただけですよ」

 嘘ではない。

 言い方が違うだけだ。

「悪いが私の胸は成長途中だ。大きいのが好きならあと100年ほど待ってくれ」

「別にどうでもいいですけれどね」

 興味はない。

 俺は普通の女の子の方が好み。

 魔女は範囲外だ。


「だいたい用件があるって呼んでおいてこの状態は何なんですか」

「だからまあ待て。今、香織が鋭意解析中だ。もうすぐ結果が出る。あああ誰かが下らない事を考えたせいで1時間のデスペナだ」

 大和先輩はそう言ってゲームをやめ、スマホをカバンにしまう。


「それに何を待っているかはさっき言っただろう」

「『何かが起こる。だから来い』それしか聞いていません。だいたい多少何が起きても魔女がいれば何とかなるでしょう」

 大和先輩こと大和やまと撫子なでしこは魔女だ。

 魔女は見かけと実年齢が異なっている者が多いらしい。

 でも自己申告によると彼女自身は『バリバリでモノホンのJK』だそうだ。

 言い方が既に年寄りくさいと思うのは俺の気のせいだろうか。


 なお魔女と称しているのは中二病とか妄想狂とか悪魔信仰者だからではない。

 年齢偽装があるかどうかは不明だが魔女である事は残念ながら事実だ。

 俺は彼女とはじめて出会った日の事を思い出す。

 あれは悪夢だった……


 ◇◇◇


 入学式の日、教室での色々も終わって帰ろうとした時だった。

 さっさと帰ろうと立ち上がった俺はふと強烈な違和感を感じた。

 一瞬後、違和感の正体を理解する。

 周り全ての動きが止まっている!

 これは何だどうしようかと考え、取り敢えず俺も動きが止まったふりをする。


 すぐに俺以外の気配を感じた。

 教室の中に長身の女子が入ってくる。

 ちょっと大人びた雰囲気の美人だ。

 彼女は動きがとまったふりをしている俺の前まで歩いてきて、そこで立ち止まる。


「40点、息が止まっていない」

「息が止まったら死ぬじゃないですか」

 思わずそう言い返してしまった。

「普通はな。でも君はそう簡単に死なないだろう。なあ真鍋まなべ正利まさとし君」

 何処で知ったか俺の名前をフルネームで呼んで彼女はにやりと笑う。

「私はここの2年1組、大和やまと撫子なでしこ。冗談みたいな名前だが本名だ。種族は人間で属性で言えば魔女。今日は君を我が課外活動『西洋民俗学研究会』に迎えにやってきた。先輩達が卒業して戦力が足りなくなったのでな。私と同じく属性的に人ならざるものである君が必要なのだ」

 おいおい。ちょい待った!

 高校生にもなって中二病かい!

 そう言いたいが実際に回りの動きは止まっている。

 洒落になっていない。


「俺は一般人ですよ。魔法が使える訳でも無いし力が強いわけでも無い」

 とりあえず一番安全そうな台詞を言っておく。

「悪いが私の時間停止魔法で動けるような一般人はまずいない。実の処調べはとっくについている。不死者ノスフェラトゥと言うか吸血鬼ヴァンパイアと名乗るかは好みだが、いずれにせよその眷属だろう。年齢は見かけ通りのようだが」


 まずい。これはまずい。

 予想外の事態だと俺は思う。


 彼女の言った事は事実だ。

 俺の家系は遠い先祖が吸血鬼ヴァンパイアだった。

 ただし両親とか妹とかは一般人。

 どういう訳か俺だけが隔世遺伝で目覚めてしまったのだ。

 目覚めたついでに古の記憶だの能力の使い方だのまで知ってしまった。

 まだ体力的なもの以外能力はあまり使えないけれど。

 なおこれらに目覚めたのは中学1年の時。

 以来ずっと友人はおろか親兄弟にまで隠してきた。

 しかし何故彼女は俺がそういった存在であることを知ったのだろう。


「人違いではありませんか」

 とりあえずとぼけてみる。

 彼女は再びにたあっと笑った。

 俺より彼女の方が吸血鬼的だなとふと思う。

 笑顔の雰囲気とか特に。

 なまじ整った顔だけに笑顔に凄みが出るのだ。

「悪いがこっちには予知能力者もいるのでな。正利君の事は名前も住所も全部知っている。血と能力に目覚めたのが中学生の時である事もな。

 そういう訳で今更誤魔化しても無駄だ」


 そう来たか。

 全部バレているから抵抗は無駄だと。

 でも俺はこんなのに関わっている暇は無い。

 3年間勉強して栄冠を勝ち取るのだ。

 そんな訳で次の作戦。


「それなら俺がろくに能力を使えないのも知っているでしょう」

「ああ」

 彼女は頷く。

「でもその気になれば人の数倍の速さで動ける事も数倍の力を出せる事も知っている。ついでに言うと今の状況の通り、大抵の魔法に抵抗力があったりもする訳だ。

 そして今の私達には戦力が足りない。先輩達が卒業してしまったせいで今の『西洋民俗学研究会』は2人だけ。しかも実戦メンバーが私1人という状態でな。色々心許ないので強制的にスカウトに来た訳だ」


 おいおい。

 そこまで知っているのか。

 なら仕方無い、最後は正攻法だ。


「嫌です」

「あーあー、聞こえないなあ~」

 奴はわざとらしく耳に手を当てるふりをする。

「それに今入部したら美少女の先輩が2人ついてくる。どうだお得だろう」

 おいおい。

「自分で自分を美少女というセンスは信用出来ないですね」

「そうか、見た目には自信があるんだが」

 確かに美人と認めてもいい。

 だが惜しむらくは胸が無い……むっ!


 彼女の右腕が常人では見えない速度で振られる。

 次の瞬間何かが飛んできた。

 咄嗟にタイミングをあわせて右手人差し指で弾き上げる。

 シャープペンシルがくるくると回転しながら上へと舞った。

「今、胸が無いと思っただろう」

 投擲体勢から右腕を戻しながら彼女は言う。

「モデル体型だと思っただけですよ」

 同じ意味だが言い方が少し違う。

 それに長身でスレンダーでモデル体型なのは間違いない。

「まあいいだろう。あとシャープペン、返してもらったぞ」

 くるくる回っていたシャープペンシルが彼女の右手におさまった。

 まあそうなるように弾いたのだけれども。


「これでもペン投げには自信がある。冗談半分でスピードガンで計ったら120km/h出ていたからな。それを私の手元に戻るよう綺麗にはじき返せる腕を持っていて、ろくに能力も使えないとはご挨拶なことだ」

 しまったそう来たか。

 そう思った俺に対し彼女はフフン、という感じの笑みを浮かべる。

「まあ仲間にならないならそれでもいい。その決定を君自身が後程酷く後悔することになるだけだ」


 気になる物言いだったので尋ねてみる。

「後悔するとは何故ですか」

 彼女は再びあの吸血鬼的な笑みを浮かべた。

「私がさっき言ったもうひとりの美少女、香織の能力は予知と運勢操作だ。つまり君が断ったなら、今後常に君に不運がつきまとうことをここに保証しよう。ひたすら不運ハードラックダンスっちまっう訳だ。それを選ぶのも酔狂だとは思うがやむを得ない。そう待たないうちに面白い新聞記事が見られそうで楽しみだ」


 おいちょっと待てそこの魔女。

「それは脅迫ですか?」

「 交渉術と呼んでくれ」

「なかなか黒いですね」

「魔女は黒いものと相場が決まっている」

 俺は悟る。

 どうやら奴の方が一枚上手のようだ。

 仕方無い。

 こうして俺は『西洋民俗学研究会』に入会してしまったのだった。

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