1話 morning glow -4
時計は夕方5時を回ろうとしている。いつもより時間の進みが遅いと感じるのは校長先生よろしくな事が起こっているからだろうか。4時に職員室について、板垣先生のご高説をお恵み頂こうとしてから、今まで聞いてきたが、長い。
長いよ、先生。
「いいか、真田。人という字は人と人が支え合って出来ているんだ。これはある偉大な先生の言葉でな、俺自身感銘を受けた言葉だ。人は自分で立つこともできるが、それを支えているのもまた人だということだ。」
これはあとどのくらい続くのだろう。
これで腐ったミカンまで持ち出されるのであればDVD見た方が時間短いんじゃないの?
もう、勧めてくれよ。見るから。全話見るから。
「真田!聞いているのか。コレだから腐ったミカンは…。あ、違った。これは否定するときに使う言葉だった。」
うん、見よう。もう、一緒に見ようよ。
「んん、話を戻そう、真田。真田にも色々な事情があるのはあるで構わないが、授業中に寝るのはやはり関心できるものではない。俺にだって眠たいときやダルいとかそういう倦怠感に襲われることもある。だが、授業に対しては真剣に取り組んでるつもりだ。だから、これは単純に俺の希望でもあるが、生徒たちも授業に対してはちゃんと取り組んでほしいと思っている。」
「はい、すいませんでした。俺も気をつけます。」
そうやって頭を下げ、謝罪する。
俺も逆の立場であったならば、やはり思うところの1つや2つ、出てくるのかもしれないな。板垣先生の言葉に嘘がないということも伝わってくる。
「さて、説教は終わり。ここからは世間話だ。」
「はい?」
意表をついた言葉を聞いて身構えてしまう。
「いやぁ、夢を見てたみたいでな。止まない雨はない!だか、なんだか呟いてたんだよ。どんな夢見てたんだ?」
「へぇ、俺そんなこと言ってたんですね。それが全然覚えてないんですよ。それに夢なんて覚えてる方が珍しいですよ。」
「そうか、それは残念だなぁ。なんか面白そうな夢見てんだなって思ったから叩いて起こしたんだけどなぁ。」
そう言って板垣先生は笑う。
怖っ、怖いよこの先生。てか、そんな思いも混じってたのかよ。
「あ、もし夢の内容が知りたいのであれば、もう一度寝て確かめてきましょうか?」
「調子に乗るな。」
頭に軽くチョップされた。
板垣先生は説教は長いけど、冗談は通じるからいい先生だよな、ホント説教さえ短けりゃ完璧なんだけどな。
「それともう一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
声のトーンが一つ低くなった。
「何ですか?」
俺も同じトーンで返す。
「クラスの神田雨音についてのことなんだが、真田は何か知ってることはないか?」
神田雨音。今日はこのワードをよく耳にする。下の名前は雨音なのか。
「神田さんですか?いえ、知らないですね…。確か、ずっと休んでいる子ですよね。」
「こないだの始業式の日はちゃんと出席したんだが、その後からずっと欠席のままだ。担任としてはこのままという訳にはいかない。家の方にも連絡を入れているのだが、うまくはいってなくてな。家庭の事情ということもあるから、首を突っ込むということが教師としての立場からするとどうしても動けない。だから、どうにかして情報だけでも集めようとしてるんだが…。」
「…そうですか。残念ながら俺は何も知らないですね。俺の方でも気にしてみます。」
「ああ、そうして貰えると助かるかな。」
神田雨音
始業式の次の日から不登校になっている女子か…
顔も素性もわからないとなると俺に出来ることは少ないな。
「まあ、話というのはこんなとこだ。もう下校時間だから、あまり校舎に残ってるんじゃないぞ。」
「はい、失礼します。」
もう一度頭を下げ、職員室を後にする。
さて、用も済んだことだし帰るとするか。
ぐいっと背伸びをして、下駄箱のある昇降口に向かった。
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