1話 morning glow -1

「変身!!とう!」


荒野に鋭くも大きい声が響く。


その男は華麗に宙を舞い、空中前周りを見事に決め、敵の前へ降り立つ。


「あ、あなたは…鉄仮面ライダー!!」


敵の幹部であるダイヤは驚き、声を上げた。


「今度こそ逃がさないぞ、ダイヤめ!!この正義の拳で貴様を成敗してくれる!!」


引き締まったスタイリッシュな筋肉に、ピンクのジャケットの中からは、ピッチリとしたメッシュのシャツがチラチラと見える。サングラスをかけ、リーゼントという髪型。見間違えるはずもなく、そして聞き間違うこともない、あの口調。鉄仮面ライダーは拳を突き上げ、目標を定めた。


「ふん、生意気なことを言わないでよ。そんな事を言っちゃう子は懲らしめてやるわ。来て頂戴、我が忠実なる僕、ショーカーちゃん!」


ダイヤの叫びとともに地面に紫色の沼ができる。その中からズズズッという気色悪い音を連れて黒い人型の怪物達が現れた。


「シー!シー!!」


不快な鳴き声を上げながら鉄仮面ライダーを囲むような陣形に広がっていく。


「ふん、やっておしまい、ショーカー。鉄仮面ライダーをギッタギタのメッタメタにしちゃうのよ!」


ダイヤはそう号令をかける。ショーカーたちは一斉に鉄仮面ライダーに襲いかかった。


「これしきのことでは我が正義の拳は止めることなどできん!!うおおおぉぉーー!」


「シーー!!!」


鉄仮面ライダーはショーカーたちに正義の鉄槌を下していく。断末魔と共にショーカーたちはその場で石のように固まり、程なくして粉々に砕けて消えてしまった。


「そんな、私のショーカーちゃんを一撃で…キーーー!!」


「さすがは博士が改良してくれたグローブだ。実に心強いな。もう逃がさないぞ。次はお前の番だ。ダイヤ!」


「ひぃ、だけど、まだよ。まだ、奥の手が残ってるのよ!」


ダイヤが呪文を唱え始める。


鉄仮面ライダーはとっさに駆け出した。


(これは何か嫌な予感がする…何か起こる前に仕留める!)


経験からわかるとっさに出た行動、しかし、遅い。


鉄仮面ライダーの動きがとまる。


(なぜだ、足が動かない…、指先ですらピクリともしない…)


「あら、どうしたのかしら?鉄仮面ライダー。そんな所で止まってちゃ、死んじゃうわよ?」


いやな汗が背中をツーっと滑り落ちる。今まで幾度のピンチを乗り越えてきた鉄仮面ライダーだが、それでこそわかる物がある。


絶体絶命


万事急須


このままでは確実に死ぬという実感が、鎌が首に添えられている感覚が、鉄仮面ライダーを襲う。


ダイヤが再び呪文を唱え始める。


これでトドメを指してくるに違いない。そうわかったとしても体が動かないのだから、どうもできない。


ダイヤが呪文を唱え終わる。


すると、鉄仮面ライダーの上に暗雲が立ち込め、雷撃がピリピリとのた打ち始めた。


「うふん、のろまなあなたに私からのプレゼントよ。存分に、余すことなく受け取ってくれなきゃ、い・や・よ♡」


電撃が落ちるまでもう数秒も残っていない。雲の中にある雷を轟音が証明するのだ。雲が支えることができずにきしむ音かも知れないが…。


(しかし!ここで私が死んだら、誰が世界の平和を守るのだ。誰が愛する人の笑顔を守るのだ。私にしかできないこ


とを私は成し遂げる!それでこその私、鉄仮面ライダーだ。ならば、破って見せよう!)


「うおぉぉおぉーー、私は、皆を守る!こんな呪いなど、私の、熱いハートで、うち砕く!!」


バリバリバリバリ


轟音を響かせ、雷が落ちる。


しかし、落ちた先に鉄仮面ライダーの姿はなかった。


すんでの所で呪いの拘束を解いた鉄仮面ライダーは前方に走り出し、落雷をよけていた。


その勢いのまま、ダイヤに迫る。


「これで、終わりだ!ジャスティスガントレットwithハンドレットパンチ」


アータタタタタタタタタ、ターー!


「イヤーーーン!!こんな技でウチが倒されるなんてーーー!!!」


絶叫、そして、爆発


爆風を背に受けて、鉄仮面ライダーはそっとつぶやく。


「止まない雨などないさ…」


ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーー


ーーーーー





「やまない、あめなど、なーいぃ」



「おい、…ろ」


「おい、起きろ」


「おい」


ガッ


鈍い音がした、それから頭に鈍い痛みが広がる。


「正義は必ず勝つのであれば、その正義は今はこちらにあるな…、何か異論はないかね、真田英司クン?」


「へぁ、ああ!!」


「授業中に居眠りして、さらに夢まで見るなんて、中々逞しい肝の持ち主だな、君は…」


「あぁ、すいません…、板垣先生」


「二年生に上がったばかりで高校生活に慣れてきた頃だと思うが、気を抜かないようにしないとダメだ。受験だって視野に入ってくるのだからな。皆も注意しないとダメだぞ~。」


「はぁーい」(クスクス)


「では、授業の続きだが…」


さっき叩かれた所がまだ痛む。多分教科書の角だろうか。コレばかりは居眠りをしてしまった俺が悪い。が、しかし、教科書の角で叩くことはないだろう。装備が本とは、とんだイロモノキャラクターだな。エロ本で戦う召喚士はもう過去に帰りましたよ。


板垣先生は(物理的な)教科書の使い手かもしれない。(物理的)テキストマスター板垣。やだ、頭悪そうですね。


ヒュ。


何かが顔の横を掠めた。


「何かな、真田くん?」


板垣先生は笑顔だ。が、逆に怖い。


「いえ、何でもないです」


(物理的)チョークマスターも追加しておこう。


それにしても夢を見るなんてのは中々久し振りなことだ。確か、人というのは寝てる間でも脳は活動していたり、肉体を動かしているらしい。それらは周期的にいれかわっていて、医学用語でレム睡眠、ノンレム睡眠とか言われている。夢を見るのは脳が働いている時間帯なので、レム睡眠だった、ということか。


さて、頭も使ったことだし、もう一眠りするとしよう。


ノンレムの彼方へ、さあ行くぞ!


ヒュ。


板垣先生、あなた大したものだな、学校一の早撃ちだ!


「真田くん、放課後、職員室に来なさい」


「はい」


呼び出しを食らってしまった。


悪ふざけが過ぎたのを見透かされてしまった。やっぱり教師にはかなわないなぁ。


そんな気恥ずかしさから目をそらし、ふと窓の外を見やる。


外は晴れだ。太陽自身の眠たそうな日差しが俺に降り注ぐ。日溜まりの中から見る春の陽気の中のちょっと高い景色。一年生の時とはもう違うのだ。



4月15日、二年生に上がり、二週間が経った。一つ上の階の教室からは、桜の花びらが風に吹かれて散っていくところを、眺めることしかできないのであった。


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