テンプレはもう目立たない。

アリエッティ

第1話 こうあればこう

好きだった宝物が、動き始めた。

モフモフの可愛いぬいぐるみで、男だけど今だに捨てられず手元に残してた

「それが何でこんな風に..」


「おい、祥吾!

狭いなこの部屋、息苦しいぞオイ!」

聞いてはいた。

可愛いぬいぐるみに意識が宿ると、口が悪くなり性格が偏ると。

「...気をつけろ、何か近くにいるぞ」

「しかも何らかの察知能力まである」

全部聞いたことある。だから初めて見たときも余り驚かなかった、なんか知ってるから。

「アニメとかだったら意外なイケメン声優とかがやるんだろうな。」

だが本当に厄介なのは...

「そりゃ無ぇだろ、やるとすればベテラン渋声の声優だ!」


彼に自覚がある事だ。

「イケメン声優はお前の声だろ」

「...かもね。」

なぜ人よりも知っているのか、それは彼の役割であり在り方。彼の周りには自然と聞いたことある事が寄ってくる

「それじゃ俺学校行くから。」

「おう!

気をつけて行けよ!」

「あ携帯忘れた、危っねぇ。」

「ふふふ..」

「いって来ます。」

何気ない毎日、いつもと変わらない風景。学校の授業はつまらないし、あの子は此方を振り向かない。

「こんなにベタだったか?」

確かに何も変哲は無かった、しかしここまでありがちだっただろうか。

「やっぱりアイツが来てから何かがおかしい」

街も家も違和感を感じる。

当然それは小さな教室にも。

「おはよう..」


「相棒!

よく来た元気か!」

「うるっさ..君彼と話したことないでしょ。」

「奴との日常での遭遇率0.9%、よって面識は無いと断定できる」

「また分析かよ..あ、ミスった。」

「おっはよー!

いい天気だねハッピーハッピー!」

熱血パワーに冷静キザ、頭脳派に陰気ゲーマー。

「そして最後に元気系ヒロインか..」

朝から見るには胃がもたれる。

今だに凸凹のコントラストを新しいとしているのだ。

「最早無個性だよアンタら..。」

髪の色まで赤青黄黒果てはピンクと、徹底ぶりが気持ち悪い。

「お前ら席つけー」

「え?」「つまらん一日の始まりだ」

不覚にも始業ギリギリで登校してしまった為に朝を大幅にショートカットしてしまった。そんな事をすれば、更にベタを促進させてしまいかねない。

「皆集まっているか?」

「当たり前だ!」「だったら何?」

「ここで点呼か。」「星3だな」

「ルピちゃんは今日も元気なのだ!」

「うるさいなアイツら..」

攻めても素だと言い張るからたちが悪い、認めればいいものを。

「良かった、全員揃ってるナラ...全部オイシク..喰べラれソウダ...!」

「なんだ、あれは..⁉︎」

担任の顔が醜く崩れ悍しい形態に変化していく。

「みんな、離れろ!」

騒然とする教室、日常は突然衝撃に呑まれる。

「おーいおーい、これ。」

しかし祥吾は知っていた、これはこれで日常だと言う事を。


「見つけた!

ここにいたのねガイナザス!」

「誰だアンタ!」

扉を勢い良くあけ、黒髪の美少女が銃を構える。

「コスモポリスッ!

邪魔なヤツがアラワレタ..!」

「それっぽい組織の人だぁ、特殊な武器持ってるぅ。」

「覚悟しなさい!

もう逃がさないんだから!」

「ダメだよカリン!

ここでそんなもの撃ったら、一般市民に当たっちゃうポリン!」

「くっ..だったらどうすれば!」

「なんか肩に乗った猫みたいな奴が喋ってるぅ、変な語尾で。」

フェアリーキャッツ族のピルフィーが妖精の翼をはためかせカリンにアシストを送る。

「ゲファファファ!

誰もワレを止メらレン...!」

ダークブレイズを壁として放ち、窓を割って逃走した。環境の不便さが一歩及ばぬ要因となった。

「あもうっ!逃げられた!」

「早く追うポリン!」

「わかってるわよそんな事!」

コスモレーダーを頼りに跡をつける。

「..これ、驚かなきゃ冷たい奴だと思われんのかな。」


『ガサガサッ..』「え、何?」

さっきまで身につけていた指定の鞄が不自然に蠢いている。

「まさか...」

『ジィー..』「やっぱりだっ!」

鞄を胸に抱え外へ走る。急いでトイレに向かい、個室にカギを掛ける。

「はっ、はっ、はぁっ...何でいんの」

「よぅ!」

「よぅじゃないよ。

学校には来るなって言ったろ!?」

「面白そうだったからつい、な

いいだろ別に、言いたい台詞だろ?」

「誰が..!いいか?

はたから見てるのはまだいいけど、持ち込まれるのは地獄なんだよ!」

「なんだよまだ慣れてねぇのか?

お前はホントに普通が好きだな。」

遂に内側にまでベタが発生した、いよいよ己も異世界の住人だ。

「早退ってどうやってすんだっけ」

「ダメだぞ勿体ねぇ、こんな変わった事が起きてんのにウチなんか帰るかよオレは残るぜ」

「ワガママ言わないでくれよ、俺は帰りたいんだよ!」


「やるか?」「やんないよ」

「なんでだよ!」

「拳でも出して喧嘩でもしたら、非日常の思うツボじゃんかよ!」

「..わかってんじゃねぇか。」「.....」

おかしいとは思っていた、日頃学校に通ってもここまでの異常は起きなかった。ぬいぐるみが家にいたからだ。

「それが今はここにいる..嘘だろ。」

「〝ソレ〟とか言うな!

オレ様はジョーィだ、小さいィな!」

「一人称変えろよ..やめてよもう。」

小さい頃は〝モフ吉〟と呼んでた。


「なんだったんだよ今の!」

「落ち着け!」

「落ち着いてられるか説明しろ!

アイツは何で、お前は何者だっ!?」

「..お前は誰だ?」

「崎山 湯次、学生だ。」

「知らない..。」

クラスでも余り目立たない、こういうときに前に出てみたかったのだろう。

「なぁ、アイツ誰だ?」

「僕に聞かないでくれるかな」

「認知度測定不能」

「認知度すらもかよ」

「ねー、君はだれー?」

カラーズも当たり前のように知らなかった。そりゃあキョトンである。

「わかったわ、教えてあげる!」

「アイツの名前?」

「それは知らない。

私はコスモポリスのカリン、いつもはコスモ空間で悪性のガイナザスを撃破しているのだけど今回はそれが空間を抜け出して地球ここに降りてきたアナタ達の先生に姿を変えてね。」


「なんだよソレ...訳わかんねぇよ!」


「ガイナザスはそういう連中だポリン

多くの人々を苦しめている。」

「許せん、許せんぞガイナザス!」

「こうしちゃいられないね!

私達に出来る事ないかなー!?」

「そんなに熱くなる事かな。」

「ジョー!何を言っている

人が犠牲になっているんだぞ?」

人一倍冷めた青い男、刈谷崎 ジョー

が一人団結を鼻で笑う。

「僕たちそこまであの人に恩が有る?

無いと思うけど。」

「そんな事関係ないだろう、困っているなら助けるべきだ!」

「思い入れ無い人を助けるかな。

ただでさえ既に首チョンパされてるのに僕たちに何が出来る?」

「首チョンパだって!怖〜い!」


「なんなのこの人達..。」

勝手にはしゃぐ連中に頭を抱える異界の者。

「長くなりそうだポリン、外を捜して来るポリン。」

「頼むわ、私も後で行く」

少し遅れた。それだけでも足跡は直ぐに消えていく、じっとはしていられないのだ。

「とにかく僕はパスだ、知らない奴に情は持てない」

「勝手にしろ!」「冷たーい!」

「..面白ぇな、仲違いかよ」

「分裂は戦力を下げる。」

「そもそも何かと戦うのか?」

「……。」

不自然な程この数人が教室で目立っている。あとは似たような顔で、背景に溶け込む。


「ねぇ」「なんだ?」

「入り難いんですけど教室」

「なんでだよ?

普通に入ればいいじゃねぇか。」

タイミングを伺い廊下で様子を見ているが、上手い事入れぬまま様々なイベントが発生してしまった。

「気をつけろ、扉の先に何か強いエネルギーを感じるぞ」

「わかってるよ、俺でも何となくわかるよそんな事。」

「お前..まさかオレ様と同じ力をっ⁉︎」

「..そういう事じゃなくてさ。

やめてよもう、なんか全部仕組まれてる感じがする。冗談みたいに処理されるとことか」

「誰に?」「誰かに」

歯痒さのある被害者を他所に派手な連中は話し合いを続けていた。


「で、何か出来る事は無いのか?」

「..どうかしら、一応奴等の居場所の見当は付いている。逃げ出した奴を追い次第攻め入る事も出来るけど」

「そんな事僕等にできるかなぁ。」

「..危険な事よ

一般市民を巻き込むなんて、絶対にしてはいけない事。」


「お前、白々しいな」

「白ヶ谷、なんだ突然!」

隅にいて目立たず、ゲームばかりの小柄な青年が着ているパーカーのフードを脱いで飄々と言う。

「あんた気付いてるよね?

俺達が〝特別〟だって事、わかって話してる筈だけど。バレてるよ」

「......」

「そうなのかカリンさん!」

「..ええ、まぁ」「やはりか。」

「おかしいと思ったんだ」

「すご〜い!頭いいんだね!?」

「ここに来る前から、アナタ達のエネルギーを強く感じ取っていた。」

「で、なんで俺らに近付いたのさ?」

下手に特徴があると思えば、能力系の学生だとは。今更そんなやり尽くされた事があるとは良い度胸だ。


「この通りよ!

アナタ達に、ガイナザス殲滅の手助けをしてもらいたいの...!」

「まぁた大きな事を頼むね..」

「良いじゃないか!

ぜひ力を貸してあげようぜ!」

「僕達にしか出来ない事かい?」

「いっこ〜!世界平和だぁっ〜!」

「判断は正しいと言えよう。」

「..ま、別にいいけど」

「ホント!

有り難う、感謝するわ!」

初めからここに来たのは協力を要請する為だった。担任にガイナザスが変化して事が、結果的に良かった。

「それと...。」


(なんか凄い事になってるけど)

(だから帰ろうっていったんだよ!)

「そこ!」

銃で扉付近を撃つと、くり抜かれたように壁が四角く除かれ、向こう側から話す二人組の姿が露わとなる。

「さっきからそこで何してる?」

「..バレたか。」

「お見通しって展開?」

「お前同じクラスの祥吾か!」

「かーわいいー!

何そのクマちゃん喋るの〜!」

「アナタ達がそこにいるのはわかってた、そこのお人形が特別だって事も」

「やっぱりそういう展開か..。」

周囲の視線が痛い、己らも充分異質を気取っている癖に喋る人形を見て目を丸くしている。

「自分でも覚えてねぇけどよ!

突然話せるようになってたんだよな」

「おかしいわね、もしかしたらピルフィーと似た種族が寄生してるのかも」

特殊な存在、妖精の類似

危険な水準だ。

「へぇ、そうなんだ..」

「なんかあると思ってたけどそういう事ね。」

「ホントに思ってた?

いいよ別に、なんか感覚鋭くて感づいてたみたいな」

「あ?」 「うわ怖っ..」

「あんだよ?」「何?」

「威嚇しなくていいから!

仲悪い構図とかいらないんだって。」

小さい頃からの相棒が喧嘩を売られたので庇っただけなのだが、ぬいぐるみを通すと絆という薄っぺらい表現では済まなくなる。

「で、どうするの?

ここに来たって事は一緒に来るのね」

「行ってやろうじゃねぇか

生憎変わった事は好きなんでね。」

「本当か!

共に人々を救おうじゃないか!」

「いいじゃねぇか、歓迎してくれるぜ

行かねぇワケは無ぇな祥吾!」

「いいよ、帰りたいっていったじゃん

嫌なんだよああいうタイプ。力発揮したら〝仲間だ〟とか言ってくるよ?」

「心配すんなよ、オレ様の仲間はずっとお前だけだからよ!」

「...キモ!」


「ポリー!カリン!

奴の居場所がわかったポリン!」

「ピルフィー!」

右腕のトランシーバーから、ピルフィーの声と通信している。

「追い掛け切れなかったから発信機を付けた。思った通り、奴は〝アソコ〟に向かっているポリン!」

「..当たりね、みんな準備して!」

「ちょっと待て!

アソコって何処に向かう気だよ?」

「なんでわかんないんだよ、基地的なトコだろどうせ。勿体振るなよ」


「奴の基地よ!」「ほらやっぱり」

「そこまで特定してるのか..」

「さーすが、おまわりさん」

「予測以上だ..!」

「やるじゃんお姉さん!」

「なんでわかんないの?

フリしてしてんの、そういう」

まさかコスモポリスの機動隊がガイナザス達のアジトの場所を掴んでいるとは、地球に拠点を変えたとは聞いていたが滞在する短い間のみで場所まで把握する事は、並大抵じゃこなす事の出来ない所業である。

「出発の準備をするわね」

左腕の装置を指で弾いている。あそこからエネルパッセージを解放し、フットパーツにウィゼットするのだ。


「どうせ特殊な移動方法なんだろ。」

「祥吾見てろ、アイツ多分ワープみたいな移動の仕方するぞ」

「...そういう所わかってんだよなぁ」

「あとオレ様後でアーマーになるかもしれねぇからそしたら着てくれ。」

「..そうなの?」

唯一の仲間がここにいる。

「行くわよ!」

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