せっかくの転生チートなのにクソガチャしか引けないんですが!
パラダイス農家
1連目 はじめてのガチャ
オペ室のまばゆい光と医師たちの慌てふためく様子を見て、あたしはなんとなく確信した。
――ああ、死んだわコレ。
「バイタル低下! 血流危険値です!」
「強心剤の注射急いで! あとAED準備も!」
「もうやってます!」
いや、一応事前に説明は受けてたよ。死ぬかもしれないって。
未承認の新しい製品だから、万が一アナフィラキシーを起こしたら対処の手がないかもしれないって。
それでもさ、普通は起こるはずないと思うじゃん?
宝くじの1等に当たるようなモンだって。雷に打たれるようなモンだって。
そんな超低確率のアルティメットスペシャルスーパーレア、普通引く?
あーあ。
どうしてこの運を、ソシャゲに活かせなかったんだろ。
「心肺停止! 蘇生術式開始します!」
もういいよ大丈夫。あたし、もう諦めたから。
人生最期にこんな超低確率クソレア引けて――幸せだった――よ――。
***
名前:
享年:17歳 高校2年生
死因:新薬治験中のアナフィラキシーショック
備考:家族の作った借金返済のため、治験に参加していた
***
「はっ!? ここはどこ!?」
お決まりのセリフを吐いて、クロエは立ち上がった。
白い世界だ。四方を見渡しても、白以外の色は見当たらない。
床が白いのか、はたまた白い壁が張り巡らされてるのかもハッキリとはしない。光源も見当たらず、影もない。ただ白が広がっている。
「いやー、死因としてはヒネりが足りないねー? 女神様的には、もっとエキセントリックな死に方してほしかったんだけどなあ」
「あたしは誰!? ていうかアンタ誰よ!?」
「うんうん、期待通りの反応ありがとうね。時間ももったいないし手短に済ませよっか。黒江麻理亜ちゃん」
「どうしてあたしの名前を!?」
「いいねー! そういう初々しい反応すこすこのすこRTとふぁぼ同時押ししちゃう! ねー、クロエっちって呼んでいい? マリアだとどっちが女神か分からんくなりそうじゃない? や、あっちは聖母だけど」
「どうしてあたしのあだ名を!?」
「いやすこだけど同じ反応はもういいってば。考えてみれば分かるでしょ?」
「考えてみろって言われても……」
クロエは状況を整理する。
遡ること数日前、神妙な空気で黒江家の家族会議が開かれた時のこと。
『すまん! 父さんの会社倒産した! なんつってなガハハ!』
『ごめん! 母さんもFXで有り金全部溶かしちゃったの!』
『わりい! 兄ちゃんパチンコで取り返そうとしたけどダメだった!』
『えーすごい偶然! お姉ちゃんもホストに入れ込みすぎたの!』
『『『『なーんだ、みんな
――結果、クロエは膨大な借金を抱え込むことになってしまったのだった。
「あたし絶対悪くないでしょ!? どう考えても家族のせいじゃん! ソシャゲだってガマンして無課金で遊んでたのに!」
「まあでもさあ、死にたくなるレベルの借金背負って生きるくらいなら、死んじゃって正解なのかもしんないよ、実際」
「不謹慎が過ぎる!」
女神様は不謹慎など知ったことかとばかりに「べろべろばー」と煽って、クロエを見つめた。
「そうやんややんや言わないの。クロエっちがあまりに悲惨だから、この女神様が救いの手を差し伸べてあげたワケよ。ヤバ、ウチめっちゃ天使。女神だけど」
「救いの手って……あ、待って。それってもしかして」
「お、気づいたねー気づいたねー! さー、言ってみよー!」
クロエはようやく思い当たった。
女神様を名乗る者が助けてくれると言っている。
自分の置かれた状況は、間違いなくアレだ。
「……あたしが落としたのは金でも銀でもない、普通の鉄の斧です!」
「そうそう! まあ、何という正直者、素晴らしい心がけに女神様大歓喜~! えーい、金の斧も銀の斧もあげちゃう! ついでに1年間の無料保証もつけちゃう――」
「――って違うわー!!!」
教科書のような本意気のノリツッコミを披露して、女神様はドヤ顔をしてみせた。
「ぜえ、はあ……。……今のノリツッコミ、クロエっち的には何点?」
「……80点くらいじゃない?」
「採点ガバガバじゃんありがとう……」
「どういたしまして」
「こほん」と一つ咳払いして、女神様は告げた。
「まあ、異世界転生ってヤツなんですけどね」
「知ってた」
「なら話が早い! レッツゴー!」
途端、無機質な白一色の世界がぐわんと歪み、クロエは緑生い茂る草原の中に立っていた。
見渡す限りの大草原。頭上にはただただ青い空と、白い月が大小合わせて3つ浮かんでいる。
「どう見ても異世界ww草wwww大草原wwwwwwって感じでしょ」
「いちいち
「そマ? じゃあ女神様ネットの歴史に名を刻んじゃったかー困ったなー☆」
すごいイキリオタク臭い女神様だな、とクロエは思った。
とは言え、異世界転生だ。女神様ほどではないにせよそこそこ素養のあるクロエが気になるのは、異世界転生そのものではなく、転生先での生き方である。
「あのさ、異世界転生ってことはチートスキルとか貰えるんだよね? だったらあたし地位と名誉とカネと食うに困らない超絶勝ち組ライフを満喫したいんだけど」
「おけおけ。でもそれだともれなく悪役令嬢になっちゃうけどいい? 女神様、どうしようもない性格ブスが必死で足掻く話すこなんだよねー」
この女神様はかなりイってる。逆らわないほうがよさそうだ。
「じゃあやめる」
「あー、じゃあ無一文で始めるハードモード系なー、それなー」
「ごめんそれもパス。なんかないの? 適度にヌルくて適度にやりがいがある感じの……」
「クロエっちー。そういう中途半端な注文が一番困るんだよねー? こっちもそこそこプライド持って女神様やってるんだけどなー」
女神様は見るからに不機嫌そうにブー垂れた。あまりにフワフワした注文をつけると危険と言っていいだろう。
それなら、どうすべきか。
超低確率のガチャ並の死因を引き当てた末の異世界転生で、何をスキルとして望むべきだろう。
考えた末に、クロエは名案を閃いた。
「そうだ、ガチャ実装してよ。ソシャゲのアレみたいに石貯めてキャラとか武器とか貰える感じのさ。ヌルくてガチでいい感じでしょ」
「それいいじゃん採用! じゃ、一発チュートリアルガチャ回しとこっか! んじゃガチャ実装! デデン!」
クロエの目の前に、年代物のバンダイのガチャガチャが現れた。コイン投入口の隣には、札を入れるための専用穴が設けられている。おそらく女神様が改造したものだろう。
「はい、記念のガチャチケあげる!」
《がちゃちけ》と笑っちゃうほどヘタクソな文字で書かれたペラペラの紙を渡され、クロエは専用穴にチケットを差し込んだ。自販機のようなモーター音と共にチケットは吸い込まれ、ガチャのハンドルがぼうっと白く光る。
「さあ! 何が出るかな? 何が出るかな!?」
「アンタ中身分かってんでしょ?」
「いやー。女神様、適当にいろいろ詰め込んだだけだからさー。しかも、何が出るかは女神様にも分からない完全ランダム!」
「つまり、超絶チートの一発ピックもアリってこと?」
「そり! そりすぎて反町隆史になったwwいや反町隆史ってwwwwwwブフォwwwwww」
ひとりで勝手にツボってる女神様を無視して、クロエはハンドルに手をかけた。冷たく光るハンドルを定位置に戻し、力を込めて、思いを込めて――
超レアこい!
――回した。
待っていたのはめくるめくガチャ演出……ではなかった。
カタン、という軽い音だけ。覗き込んでみると、取り出し口の奥の方に、これまた古めかしいカプセルが転がっている。
ハンドルが光るなんて演出は取り入れているくせに、肝心のガチャ演出がいやにあっけない。いや、本来のガチャはこうなのだが。
なんとなく腑に落ちない、と思いながらもクロエがカプセルを手に取ったところで、突如として雷鳴が轟いた。
「え?」
見上げると、あれだけ晴れ渡っていた空が瞬く間にかき曇り、無数の稲妻が天を龍のように飛び交っている。
そして直後、突風が草原の草木を揺らす。花びらが飛び散り色とりどりの竜巻となって、クロエと女神様のそばを猛烈な勢いで吹きすさぶ。
「な、なにこの事態!? 天変地異!?」
クロエとは対称的に、女神様は落ち着き払っていた。
「ううん、ガチャ演出だよ。カッコよくなくなくない?」
「今!? 今ガチャ演出すんの!? 普通ガチャ回す時でしょ!?」
「あー風が強くて何も聞こえなーい! いいから早く開けちゃってー!」
「ああもう! いくよ!」
猛烈な風が吹きすさぶ中、クロエはカプセルの爪に指をかけた。そしてガッチリと握り、思いきりこじ開けた。
「SSRこーいッ!」
カプセルが開いた途端、手元が光に包まれる。
まるで伝説の武器を入手する瞬間のような高揚感。
無課金で引き当てた時の圧倒的な恍惚感と優越感。
クロエは確信した、これは間違いなくチートアイテム!
「これは――!」
クロエの手を包んでいた光が消え、カプセルの中身が姿を現した。
はじめての異世界ガチャの中身は――
《じゃがいも》
「……………………」
「……………………」
「……リセマラしていい?」
「はいダメー! じゃあ異世界生活、がんばれ♪ がんばれ♪」
「ちょっと待てよクソ女神ーッ!!!」
かくして、ガチャスキルとジャガイモ1個とともに、クロエの異世界生活が幕を開けたのだった。
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