オダマキ
アリエのムラサキ
第1話 落胆、すぐ帰途へ
小学生と言えば、よく親友という言葉を使いたがる。友達よりもずっと上。ちょっとかかわったくらいで親友という言葉をいとも簡単に使う。
「離れてても俺たちは親友だ!」
そんなことを最後に言われたのは、小学校六年生の卒業式の時だ。
「うん! 僕たちは親友だ!」
そう言葉を返して六年間。あっちからコンタクトをとってくることは一切なかった。僕が親の事情で小学校の卒業と同時に地元の中学ではなく親の転勤先の中学校に通うことになったから、その自称親友ともお別れすることになったのだ。だから、手紙を送る・電話をするというスマホという文明の利器を持たない小学生の最大限の連絡手段を用いて、コンタクトをとることをお互いに約束した。その結果がこれか。
元恋人が、その自称親友とキスをしているではないか。
*
高校三年の十二月下旬。センター入試や一部一般入試を受ける学生たちはピリピリと張りつめている中、推薦で大学やら短大やら専門の合格が決まっている連中は、今年のクリスマスをどう過ごすのかという話題で持ちきりになっていた。
結果として、クラスの教室内は何とも言えぬ張りつめた空気とウキウキ感がもろに伝わってくるような空気がまじりあった、異様な雰囲気となっていた。
僕は一応推薦で決まってはいたが、推薦組のウキウキ感とは打って変わって目に光を灯していなかった。まさにハイライトオフ状態。死んだ魚の目である。
「……なんでだよ……」
なぜなら、クリスマスというビックイベントを前にして、三年間付き合っていた彼女にいきなり別れを切り出され、問答無用ですべてのSNSをブロックされたあげく、その彼女はどこぞのイケメンと付き合い始めたというのだ。よくつるむベリーショート男が彼女とどこぞのイケメンが手をつないでいる写真を送ってきたのだ。今朝の五時頃に。
「……あの好きだよは大ウソだったっていうのか……」
もういろいろ感無量というか、虚しいというか、もうその彼女とイケメンもくたばれ、もういっそ爆発してしまえと思っているようなざまだ。
「おー今日は一段と目が死んでるな」
そんな状態の僕に笑いながら話しかけてきたのは、例のベリーショート男だ。
「いきなりあんなショッキングな画像送られたらそりゃそうなるだろ……」
死んだ目にさらにげんなりとした口調でこう訴えかけると、
「それはすまんな。でも有力な情報じゃねえの?」
なんとも面白がってそうな声音で返答してきた。ベリーショート男の言う通り、もう逃げ場がなくなった。まあ噂だし? 所詮噂だし? という現実逃避をぶち壊す情報をこの男は送ってきてくれたのだ。頼んでないのに。
「お前本当にこういうの好きだよな……」
「そういうの面白いしな!」
このベリーショート男はこういう人間なのだ。他人のスキャンダルとかを取り上げては面白がる。しかし何気にフォローをどこかのタイミングで入れてくるのでなんとも恨めない。
「……今日もう帰っていいかな」
一応言っておくと一限目が始まる前だ。学校に来るまでの間にもう、メンタルは限界を迎えている。豆腐だから。
「いいんじゃね? もういっそ俺もめんどいから一緒に帰ろうぜ」
とこんな風に何気に性格もあっているのだろうか、関わっていて別に苦になるわけでもないので、学校ではよく関わる。
「んじゃ、もう帰るか」
「よしきた!」
登校して五分。僕たち二人の帰宅は決定した。
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