第2話 異世界に召喚されました
「はいはーい、起きて起きて」
ちょっと間の抜けた声と共に、肩を揺さぶられて目が覚める。
何時まで経っても底に辿り着かなくて、あのまま眠ってしまっていたらしい。危機管理能力が仕事をしていない件について。
「間抜けとか酷いよ~」
ぷんぷんだよっ。怒っているのか怒っていないのか分かりにくいのんびりした声色で、肩を揺さぶっていた相手は文句を言って来る。
「それで、ここは何処であなたは誰で私に何の用ですか?」
腕の中にナオさんが居る事を確認して、身体を起こして相手に問い質す。
「おおう、君は結構肝が据わってるね~。ええと……
で合ってるよね? バインダー的な物を広げて中の書類に目を通した相手は、確認する様に問い掛けて来る。
「質問に質問で返さない! ……ちゃんと聞かれた事に答えてください」
ほら、早く! と相手を急かす。
まあ、大体の所は予測が付くんだけど。
真っ白な部屋、顔の見えない相手。……仮面を被っているとかいう訳でも無いのに、靄が掛かった様に顔が認識出来ないのよ。
そして目を覚ます前の、アパートの部屋での足元に出現した魔法陣と穴。可笑しな位長く続いた落下。
「当ったり~! ホントに君は勘が良いね!」
パチパチパチと、気の抜ける様な温い拍手を送って来る。
「ご想像の通り、ここは世界と世界の狭間の部屋だよ。それで僕は、世界の管理者です。君にはお願いしたい事が有って呼んだんだ」
「管理者? 神様みたいな物って事?」
神様かな? と思ったのに、態々管理者だと名乗った相手に、言葉に出して再確認する。
「神様とは違うかな~。確かに君達よりも高次元の存在だけど、万能じゃないのさ~」
だから出来る事と出来ない事が有る訳。そんな訳で、君にはお手伝いをお願いしたいのだと、目の前に居るのに顔すら分からない相手は言う。
「頼み事を聞いた場合のメリットと断った場合のデメリットは何?」
問答無用で攫って来る様な相手に、断る事が可能かどうかは分からないけれど。
「ん~、やっぱり君は聡いねえ。ますます気に入ったなあ。……そのとーり、このお願いは強制で~す。ちなみに受けても受けなくても、元の世界には戻れません~。一方通行でごめんね?」
全く謝っていないどころか、どこか楽し気に相手は口先だけの謝罪を寄越す。
「はあ…‥、それで?」
多分殴っても許される。情状酌量の余地有りって奴だ。
握った拳に息を吹きかけて、殴るなら鼻だろうか、顎先だろうかと考える。
相手にダメージが有ろうが無かろうがこの際関係ない。自分の気が済むかどうかだと思う。
「わ~っ! 待って! 待って! ごめん、ごめん。悪かったって!」
そういうキャラクターとして設定されているから、心の中で思っている事と言動が一致しないのだと、慌てて相手は言い訳をする。
「えっとね、召喚は一方通行なので戻せません。で、お願いを聞いてくれた場合は、生活をしやすい様にある程度のバックアップをするのと、成功した暁には君の願いをこちらが出来る範囲で一つ叶えます。お願いを聞いてくれなかった場合は、仕方ないので当面の生活費と言葉を分かるようにしてから、そこら辺にリリースさせて貰います」
リリースって魚じゃあるまいし……。ちょこちょこ失言の多いのは、もうどうしようも無いんだろうか。
「それは、お願いの内容を聞いてから、受けるか受けないか判断しても良いものなの?」
生活のフォローは有難いけれど、お願いが犯罪を犯せとかだったら、ちょっと受けられないと思う。
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