第36ターン レベルアップと新たな冒険のお誘い?

 翌朝、冒険者ギルド・カダーウィン支部にて――

「――? オルファリアさん、どうかした?」

「……イエ、ナンデモナイデシュ……」

 顔を紅に染めたオルファリアに首を傾げ、メイリンはメイド風の制服のスカートを翻す。

「今日の分の冒険の依頼書も、直に掲示板へ貼り出すわ。少し待ってて」

 受付カウンターの奥へ戻るメイリンを見送り、オルファリアは近くの長椅子に腰を下ろす。すぐ傍では、冒険仲間のディアスが左手の甲をにやけた顔で眺めていた。

「へへへっ……俺もとうとう……へへへへっ……!」

「……いかん。ディアスがもうお終いだ。ピリポ以上に気持ちが悪い……」

「――ロレンス何だとこらぁっ!?」

「でも、今日のディアスは確かに気持ち悪――って、今おいらもけなされてなかった!?」

 ディアスにロレンスとピリポも加わって騒ぎ立てる。もっとも、この高いテンションも仕方がなかった。オルファリアも左手を持ち上げ、その甲に意識を集中する――

 浮かぶのは冒険者の身分証たる刻印。だが、その数字が【Ⅰ】から【Ⅱ】に変化していた。――等級上昇レベルアップ。オルファリアたちは、冒険者として一段階上に至ったのである。

(やっぱり、マンティコアとの死闘を潜り抜けたのが大きいのかも? わたしも身体を張って頑張った甲斐があったかな――)

 ――奪われた下のお口のファーストキスとか。

 ――そこから至った今までの人生でかつてない昇天とか。

 ――何ℓに達するかも解らぬほどの白いモノを浴び、飲み干したイケナイおしゃぶりとか。

 ……己の痴態が記憶の底から甦り、オルファリアは長椅子へと突っ伏した。

「――あれ!? どうしたんだよ、オルファリア!?」

「……は! もしや、まだマンティコアにやられた傷が痛むのか……!?」

「……だ、大丈夫です。痛いのは肉体的な傷じゃないですから……」

 気遣うディアスとロレンスに、いたたまれぬ気持ちでオルファリアは返事をする。

 ……対して、ピリポだけはオルファリアの横倒しの肢体をまじまじと眺めていた。

「……くぅっ、もう法衣がめくれても、オルファリアちゃんの下着は見られないんだね……。でも、これはこれで良いと思います♪」

 ――慌てて身を起こし、身嗜みを整えるオルファリア。ディアスとロレンスがピリポの脳天に揃って拳骨を落とす。

 オルファリアは、マンティコア戦で全壊した防具を買い直していた。前の物と似た貫頭衣型の法衣だが、生地の質は向上している。また、その下に金属補強された革製のブラとショーツ……いわゆるビキニアーマーを装着していた。若干動き難くなったものの、物理的にも性的にも防御力は上昇している。サキュバスの本性を現す際も、翼を広げる妨げになるせいで法衣は脱がざるを得ないが、ビキニアーマーのおかげで最低限の体裁は保てる算段だ。そして、何より――

(……これでもう、、あ、……!?)

 ……マンティコアにされたアレコレが、軽くトラウマのオルファリアだった。

「――すまない、オルファリア君! 頼みたいことがあるのだが!!」

 と、そこに足音高く近寄る一団が。先頭の、金髪を角刈りにした精悍な若者が、硬革鎧の胸を張ってオルファリアの前に立つ。首に掛けるのはやじろべえを模った聖印ホーリーシンボルだ。

「……ネルソン。均衡と調和の神・『アーネル』の僧侶クレリックのお前がオルファリアに何の用だよ? オルファリアは献身教ナートリズム、お前は『均衡教アーネリズム』、教派が違うだろ?」

 ディアスがネルソンなる青年を胡乱げに睨む。だが、ネルソンの方は気にした様子も無く、爽やかに笑ってディアスの肩を親しみ満載でバシバシと叩いた。

「はっはっは、『人類皆平等』、『自然との共生』を教義とする我が均衡教アーネリズムと、『弱者救済』を旨とする献身教ナートリズムは古くから良き隣人だよ! それはそうとディアス君、食事はきちんとバランス良く食べているかい!? 好き嫌いが多いと大きくなれないよ!!」

「余計なお世話だこらぁっ!!」

 身長一八〇cm近いネルソンの助言に、憤慨する身長一六〇cm程度のディアス。

「……相変わらず声が大きいな、ネルソン。そこまでしなくても聞こえている。それで、貴様……結局、オルファリアに何の用だ?」

「ああ、そうだった! オルファリア君、『バロウラの墳墓』を知っているかな!?」

 一部の単語を強調したロレンスの牽制も通じぬネルソンに、オルファリアは首肯する。

「この街の北西、徒歩で二日ほどの距離にある遺跡ですよね? 古代の地下墓地だった……」

「博識恐れ入るよ! 実は最近、そこで未知の領域が見付かったんだ! その未踏領域へ我々は調査に向かうつもりなんだが、そこは『不死の怪物アンデッド』の巣窟らしくてね! 出来る限り多くの僧侶クレリックの力が必要なんだよ!!」

「ああ……それでですか」

 ネルソンの説明に、オルファリアも腑に落ちた。

 不死の怪物アンデッド……きちんと弔われなかった死者が、死に切れぬまま不完全に甦った存在。先にオルファリアたちが戦ったゴブリンゾンビたちと同類だ。あの時はオルファリアも見せる余裕が無かったが、僧侶クレリックは本来、そういった死に切れぬ死者たちの浄化に長けている。ネルソンも、そこをオルファリアに期待しているのだろう。とはいえ――

「――ネルソンの一党トコ、本人含めて四人全員が僧侶クレリックじゃん? 五人目は要らないでしょ?」

 首を横に振ってピリポが会話に割り込んだ。ディアスとロレンスも頷いて同意する。

「いや、場所は未知の遺跡! 慎重を期して、オルファリア君の力も借りたいんだよ!!」

 ネルソンがピリポの言い分こそを否定した。彼の一党の若き僧侶クレリック三名も首を縦に振る。

 異様な緊迫感が双方の間で満ちていた……。

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