傘御化文明開化覚書

平中なごん

一 まくら

 ええ、つい先日も年号が「平成」から「令和」へと変わりましたけど、皆さん、何か時代の変化は感じておられるでしょうか?


 相変わらず給料は安いし、宝くじはかすりもしねえし、なんだかあんまし変わり映えしねえなあ…と思われてる方も多いんじゃないでしょうかねえ? ……ああ、物価と税金だけはどんどん上がりますけどね。


 さて、そんな令和の世と違い、年号の変わり目が時代の大きな変わり目だったなんて頃もございました。


 そう。皆さんもよくご存知の明治維新――「慶応」から「明治」に変わった時でございます。


 徳川幕府が倒れ、王政復古の大号令のもと明治新政府が誕生しますってえと、近代化のために西洋の文化がどんどん輸入され、人々の生活もがらっと変化してゆきました。


行燈あんどんはランプに、駕籠は人力車に、街には煉瓦造りの洋館が建ち並び、馬車なんて洒落た乗り物まで往来を行き交うようになります。


 いや、時代の変化の影響をこうむったのは人間だけじゃございません。


 人の世の裏側に潜む妖怪達、とりわけ付喪神つくもがみ――古い道具が長い年月を経て化けた妖怪なんかにしてみても、自分達日本古来の道具を脅かす、西洋の道具の普及は大問題だったんですね。


 ここ、東京と名を変えた江戸の町は両国にあるなめくじ長屋…いや、長屋のガラクタを放り込んだ物置にも、そんな自分達の将来と存在意義を憂慮する道具の妖怪がおりました。


 ご存知、古い唐傘の変化へんげした〝唐傘小僧〟にございます。


 あの傘の柄が人間の一本足になった一つ目のオバケですねえ。別名〝かさばけ〟や〝かさおばけ〟なんて呼ばれたりなんかもして。


 ま、怖いというよりは、妖怪のわりになんだか愛嬌のあるやつでございます。


 この唐傘小僧、夜な夜な傘にまつわる妖怪仲間を呼びますってえと、海の向こうから押し寄せる異国の道具の怪に対応すべく緊急対策会議を開くことにしました。

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