第21話「勝つのは」

「怜花先輩、覚悟!」

 竹刀を握る手に滴る汗は、防具の篭手の中に熱気が篭もるからだけでは無いのだろう。今回の闘いは、今までと違う。絶対に勝つという、気迫が感じられる。これは、気を抜く訳にはいけない。

 持ち手を強く握り直し、桃乃の攻めを待つ。私は、自分から攻撃をするのは得意ではない。その分私はカウンターだ。返して、相手の呼吸を崩す。私は、負けない!

「えっ、なんっ!」

 しかし、私の反撃の一発は空を斬り、呼吸を乱されたのは、私の方だった。私の動きを研究していたのだろうか、寸分の狂いなく私の虚を突いて来た。

 次の瞬間、パシンという甲高い音が響き、数秒の後桃乃の歓声が響く。私は、負けたのか。

「怜花先輩、勝ちました!」

 頭を外し、満面の笑みでピースを向ける桃乃の表情に、私は苦笑してしまう。そうか、桃乃が勝てば私は付き合うことになっていたんだったか。

「いいよ、付き合おうか」

 防具を脱ぎながら道場の脇に腰を下ろし、苦笑とともに諦める。そもそも嫌で仕方が無いという訳でもないし。

「ああいや、その件なんですけど、やっぱりいいです。無理に付き合っても気分悪いですし」

 私の苦笑を拒絶と取ったのか、そうやって苦笑で返す。拍子抜けしてしまい、私は吹き出してしまった。

「あー、ごめんね。今のままの関係で、私はいたいかな」

「はい、分かりました。それで構いません。あ、今のままって事は、これからもお手合わせしていただけるんですね!」

「いいよ? でも私にだけ勝つ為の戦い方は次から禁止ね」

 私は、この距離感で丁度いいと思うのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る