第9話「従者と主と」

『それはそれで、寂しいな』

 あの時の言葉が、何度も私の頭に流れては、なんとも言えない苦しさが込み上げる。何に寂しさを感じるのかも、それの治し方も分からない私には、どうすることも出来ないのだが。

 それでも、その言葉が浮かぶ度に、どうにかして寂しさを消せないものかと錯誤するのもまた事実だ。どうしたら、あの言葉を消せるのだろう。困った事に仕事中にもそんなことを考えてしまうので、最近は失敗することがある。

「百合音、最近調子悪いみたいだけど、休んだ方がいいんじゃないの?」

 ある日の夕食。丁度お父様が居ないタイミングを見計らってか、柚葉はそんなことを切り出す。全く私も落ちたものだ。まさか柚葉のためを思って考えていたら、肝心の柚葉に心配されてしまうのだから。

「いえ、私は何も体調に異変はきたしていませんから、大丈夫ですよ」

 柚葉にあの時の事を聞きたいのに、私の口から零れるのはそんな自分のことだけのその場限りの返答で、気まずい空気がとても不快だ。

「なら良いんだけど。早く本調子に戻りなさいよね。こっちが困るわ」

 そう言って柚葉は夕食を食べ進める。ならば、私の方から行動を起こさなくては。柚葉が本調子を望むなら。

「柚葉はあの夜、何が寂しかったのですか?」

 私は、話の腰を折ることも厭わず、急ながらそう問いかける。

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