第8話「一番の初めて」

「千尋、急にごめんね」

 私は休日の朝、千尋の都合や起床時間なども考えることなく、思い立つままにメールを送信した。

『千尋に、どうしても伝えたい事がある。出来れば今日がいい。駅で待ってるから』

 私はダメ元だったし、そもそも怒られるだろうなと、半ば諦めの心で待っていたのだが、千尋は駅まで来てくれるどころか、オシャレもしていて、怒りなど微塵も感じられなかった。

「いや、いいのいいの。一美のお願いなら聞くよ。義理でも彼女ですから」

 そう言って得意げに胸を張る千尋に、私は胸をなで下ろし、面と向かって対峙する。しかし、対峙すると緊張のせいか、何からどう切り出したらいいかが分からなくなってしまい、混乱してしまう。

「あの、今日なんで呼び出したかは、えっとね、うん、今話すんだけど」

 ダメだ、言いたい言葉が一つも出てこない。こんなに難しいものなのか。いつも初めてに驚かされた初恋だが、これ程に自分を見失うものだとは、全く考えていなかった。

「一美、深呼吸しようか。落ち着くよ」

 私の焦りを見てか、千尋はアドバイスをしながらうんと伸びて深呼吸をしてみせる。それに習って、少し控えめにだが深呼吸をすると、新鮮な空気が流れこんで来て清々しい。よし、今ならちゃんと言える。

「千尋、私は――」

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