第8話「一番の初めて」
「千尋、急にごめんね」
私は休日の朝、千尋の都合や起床時間なども考えることなく、思い立つままにメールを送信した。
『千尋に、どうしても伝えたい事がある。出来れば今日がいい。駅で待ってるから』
私はダメ元だったし、そもそも怒られるだろうなと、半ば諦めの心で待っていたのだが、千尋は駅まで来てくれるどころか、オシャレもしていて、怒りなど微塵も感じられなかった。
「いや、いいのいいの。一美のお願いなら聞くよ。義理でも彼女ですから」
そう言って得意げに胸を張る千尋に、私は胸をなで下ろし、面と向かって対峙する。しかし、対峙すると緊張のせいか、何からどう切り出したらいいかが分からなくなってしまい、混乱してしまう。
「あの、今日なんで呼び出したかは、えっとね、うん、今話すんだけど」
ダメだ、言いたい言葉が一つも出てこない。こんなに難しいものなのか。いつも初めてに驚かされた初恋だが、これ程に自分を見失うものだとは、全く考えていなかった。
「一美、深呼吸しようか。落ち着くよ」
私の焦りを見てか、千尋はアドバイスをしながらうんと伸びて深呼吸をしてみせる。それに習って、少し控えめにだが深呼吸をすると、新鮮な空気が流れこんで来て清々しい。よし、今ならちゃんと言える。
「千尋、私は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます