第3話「まさかな来客……裕美×柚葉」

 来客室に呼ばれ、何事かと思いながら席を立つ。最近職務で失敗したこともなければ、業績も落ち込んでいない。部下は困っている様子もないし、仲もいい。今の私に、呼び出しを食らうほどの落ち度があるだろうか。いや、そもそも来客室なのだから、怒られることは無いか。

「やっと来たわね、裕美」

 来客室に入ると、そこにはなにやら見知った顔があった。というか、たまに来ては私と話す社長の娘、柚葉だった。

 わざわざ呼び出してまで話す事などあるか? まさか、殆ど引きこもり生活の彼女にそんな重要な話が出来るはずがない。ため息をついて、そのドアを閉めて戻ろうとするが、彼女はそれを許さなかった。

「何か御用ですか、社長令嬢殿」

 私は仕事の邪魔だと言外に訴えながら、とりあえず話を聞くために席に座る。しかし、今日はえらく真面目な顔つきだ。何かあったのだろうか。

「私を、会社で働かせて!」

 なんでもない戯言だった。今すぐ仕事に戻らなければ。私はそんなに暇じゃないのだ。まったく大人を馬鹿にするんじゃない。お嬢様め。

「違うの、お願いだから話を聞いて!」

 私に必死に懇願する姿は、確かに真面目なのだろう。故に、私は苛立ちを隠せないのだ。

「本当に働きたいなら、ちゃんと就活してください。コネとか裏口とか、反則は許せない」

 私はそう言い切り、部屋を出る。いい気分だった。これで彼女が変わってくれたら良いのだが、それは彼女次第。

 そういえば反則は私もしているんだったか。社内恋愛禁止を、隠れてやり過ごしている。それは、いまさっき言った反則という言葉に、重なっているのでは?

 まあ、ここまで真面目に来たのだからそれくらいなら、良いか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る