測距する短絡的な遊撃手たちの訂正 ~即興執筆ショートショートコレクション~

吟野慶隆

刹那の洞窟 お題:「刹那の洞窟」

「せっかくの日曜日だというのに、休日出勤とはなあ……」

 ジー野は、そんな不満を、ぼそぼそ、と呟いた。

 最寄り駅から会社までは、まっすぐな車道で繋がっている。彼はそれの、白線を引いて区別しただけの歩道の上を、とぼとぼ、と歩いていた。

 すると突然、目の前に、洞窟が現れた。

 天井も地面も、茶色だ。奥のほうは真っ暗であり、何も見えない。上からは氷柱石が垂れ下がっており、下には石筍が形成されている。

 洞窟は、その後、瞬きを一度もしないうちに、消えてしまった。眼前の風景は、元の、会社への道のりに戻った。

「な、何だ」ジー野は唖然となって、思わず立ち止まった。「いったい、何だっていうんだ」

 誰も、答えてくれる者はいなかった。彼は首を捻りながらも、会社に向かうのを再開した。

 すると数十秒後、またしても、洞窟の情景が、目の前に現れ、すぐに消えた。

「まただ」ジー野は呆れ返った。「いったい、なんだっていうんだ」

 白昼夢か何かの類いだろうか。陰気なほら穴を幻視するなんて、縁起の悪い。彼は嫌な気分になりながらも、会社に向かって、歩き続けた。

 ところが、洞窟の情景は、その後も、ぱっ、ぱっ、ぱっ、と何度も現れた。その間隔は、だんだん早くなっているようだった。

「ええいっ!」もはや耐え切れず、ジー野は大声を上げた。「いったい、なんだってんだっ!」

 そこで、正気に戻った。

 ジー野が、今、いるところは、洞窟の中だった。上からは氷柱石が垂れ下がっており、下には石筍が形成されている。数日前、とある山の洞窟を観光しに行った時、足を滑らせ、入り組んだ深い所まで転がり落ちて、そのまま遭難してしまったのだ。それ以来、出口を求めて、ほら穴を彷徨い続けているが、いっこうに見つからない。

「ええい、クソ……いったい、どこなんだよ、出口は……」

 ジー野は、そうぼやきながらも、歩くのを再開した。しかし、洞窟の長さは、刹那とは程遠かった。どれだけ進んでも、外部に通じていると思しき箇所は見つからなかった。

 やがて彼は、ぼそぼそ、と呟き出した。

「せっかくの日曜日だというのに、休日出勤とはなあ……」

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