星屑組全員集合!

ODANGO WORKS

プロローグ

 一番最初の記憶は、鮮やかな赤の色だ。


 ぱっと空中に飛んだ赤がランプか何かの鈍い輝きに照らされ、白に近い鮮烈な赤と、影になっている濁った赤が混ざり合って、ゆっくりと形を変えながら世界に広がっていく、有無を言わさぬ美しさと、同時に無慈悲な不気味さをたたえた光景が、その後のあらゆる記憶につながる、自分にとっての原始の記憶だ。


 永遠に続くかとも思われる官能的な赤のダンスは、ゆっくりとだが確実に終焉へと向かっていき、やがて圧倒的な現実の象徴である〈床〉に衝突し、甘美な幻想の世界に別れを告げる。その瞬間に世界はすべての脈動を取り戻し、容赦のない音と、ぞっとするような臭い、忌まわしい感触が一度に襲いかかる。


 「ああ!」


 誰かが悲痛な叫びをあげていた。辺りで炎がめらめらと燃え、古い木が燃えるぱちぱちという音と、焦げた臭いと、炎の熱さが頬をなでる。炎は瞬く間に燃え上がり、自らの勢力の拡大を図らんとさらなる標的を求めた。


 気がつくと、あちらこちらから悲鳴や怒号が聞こえていた。だが、それらをいや増す勢いの炎の咀嚼音が包み込んでかき消してしまっている。たまらなくなり、両手で耳を押さえた。その行動によってすべての現実から逃れられるわけではないことは、幼心にもわかっていた。だが、思わず目と耳をふさがずにはいられなかったのだ。


 「マリリ!」


 誰かが部屋の扉を開け、駆け寄ってきた。ガチャガチャという金属音が部屋の中に響く。そのことによって、自分が今いるのは狭い部屋の中なのだと言うことが思い出された。


 「マリリ、逃げなさい! やがてここにも、彼らはやってくる!」


 その女性が、その時点の自分にとって、限りない安心を与えてくれる絶対的な存在であった事に間違いはない。だが、これ以前の記憶が全くないのに、その女性について、ある程度認識していることが、不思議だった。


 再び、いくつかの赤の色が生まれ、きらめきながら真っ暗な虚空に消えていくと、自分の中にあった安心感はすべて消え失せた。


 赤は血の色だ。そう認識する自分がいた。


 前後の記憶が曖昧だが、傷ついた女性は自分を地下室かどこかへと引っ張って連れていき、冷たく、鼻につく臭いのする水の入った大瓶の中へ押し込んだ。


 「ここだったら、火も男達も入ってこられない。しばらくここで辛抱していなさい。必ず私が迎えに来るから」


 その女性は、泣きじゃくる自分を暗闇の中に置き去りにして、光が射す方へ、燃えさかる炎のもとへ戻っていった。置き去りにされた自分はただ待つしかない。


 血と火、木と肉の焦げるにおい、炎の熱さと水の冷たさ、炎の光と地下室の闇、それが自分の最初の世界の記憶だ。



 少女は瞼をゆっくりと開き、自分が夢を見ていたことに気づいた。辺りはまだ暗く、夜明けまでにはまだいくばくかの猶予があることが感じられた。


 仰向けのまま頬に手を当てると、案の定涙が流れていた。小さくため息をつき、乱れた毛布を肩までかき寄せると、誰にも聞こえないような小さな声で、少女は一言だけつぶやいた。


 「一体いつまで待てばいいの……お母さん」

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