雨がやみませんね

 雨がやみませんね、はもう少し傍にいたい、という意味であるそうだ。

 これもまた人間の国の誰かが考えた回りくどい気持ちの伝え方シリーズの1つらしい。

 どうして人間はこうも回りくどい言い方ばかり思いつくのか……

「人間の婉曲的な表現は調べてみると中々面白いですね」

 辞書的な何かに視線を落としながら彼女がそう言った。

「面白い?」

「はい」

 いったいどこが面白いのだろうかと僕は思う。

 まどろっこしいだけだと思う、そういうのは面倒臭いし苦手だ。

「考えた人も面白いですよね……そういう発想があったか、と感心します」

 謎解きみたいで読んでて面白いと彼女は小さく笑う。

 そういう考え方なら面白いと思えるのだろうか?

 昔からそういう事はあまり考えたことがないからよくわからない。

「……というか、なんで雨がやみませんねはもう少し傍にいたい、なんだろ」

「一緒に雨宿りしてるんじゃないですか? 雨がやんだら雨宿りする必要がなくなりますし、その後の目的地が同じでないなら、その人とは離れることになるじゃないですか」

「……あー……なるほど?」

 なんとなくわかったような、わからないような?

 それにしても傍にいたいのは『もう少し』でいいのだろうか?

 一生傍にいろという言葉を遠回しに伝えるのならまだしも『もう少し』程度でそんな回りくどい言い方を考えるとか……人間の考えることはよくわからない。

 どうせならずっとそばにいたいとか、そういった意味合いの言葉を考えればいいのに。

 そういった意味合いの言葉もあるのだろうか?

 この発想でいくと……

「じゃあ、雨なんてずっとやまなければいい。っていえばずっと傍にいろ、っていう意味になるの?」

「……どうなんでしょうか? 確かにそういう意味になりそうですね……」

 うーん、と彼女が考え込む。

 どうやら辞書的な本には書いてないらしい。

「まあ、どうでもいいけど。雨がやもうがやむまいが、傍にいたいのならずっと傍にいればいいんだから」

「ええ、そうですね」

 本から視線をあげた彼女がそう言って微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る