人間が考えた婉曲的な気持ちの伝え方
朝霧
今日は少し肌寒いですね
今日は少し肌寒いですね、という言葉は人間の国では手を繋いでください、という意味であるそうだ。
人間は随分と回りくどいな言葉が好きであるようで、他にも寒いですねだったら抱きしめてくださいだとか、他にも色々あるらしい。
最初に聞いたときは少し呆れた、手を繋ぎたいならそう言えばいい、他も同様だ。
くだらないと一蹴したら、じゃ賭けをしようとほざかれた。
僕が彼女に肌寒いと言って、彼女が手を繋いできたら奴の勝ち。
繋がなかったら僕の勝ち。
賭け金は食堂の日替わりスペシャル定食券。
僕はその賭けに乗った。
というわけで後日、僕は彼女に向かってこう言った。
「今日は少し肌寒いね」
「ええ、そうですね」
季節はもう直ぐ冬へと移り変わる、だから僕の言葉もそれほど違和感のないものだったらしい。
彼女はもう直ぐ冬ですもんね、と小さく笑うだけで、特に何かをしてくるわけではなかった。
やっぱり勝った、こんな賭け、負けるわけがない。
定食券を手に入れることが確定した。
だけど、何故かそこまで嬉しくない。
何も言わずに彼女の顔を見下ろす、彼女は目にはてなマークを浮かべているような困惑顔で僕の顔を見上げた。
数秒、彼女はその顔で僕を見上げていたけど、ハッと何かに気付いたような顔をした。
そして即座に何かを小さく、短く唱えた。
周囲の空気がなんか暖かくなった。
熱魔法で周囲を温めてくれたらしい。
「これで大丈夫ですか?」
「……うん」
違うそうじゃないとは思ったけど、まあこういう反応が妥当ではあるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます