第70話 6階層ボス キングジャンプ戦

 俺たちは、6階層の階段を上って5階層のボス部屋に向かった。

 俺とサクラが階段からボス部屋を覗く。


「いるな」


「いますね」


 あれが、キングジャンプか……。

 大型の蛇だな。


 キングジャンプは、部屋の中央でとぐろを巻いている。

 深い緑色の皮が、鈍く光って美しい。


 胴回りは、人間くらい。

 転生前にネット動画で見た事あるレベルの大きさだ。

 やれるだろう。


 まずは、情報収取だ。

 俺はキングジャンプを【鑑定】した。


「【鑑定】……」



 -------------------


 キングジャンプ


 HP: 30/30

 MP: 0

 パワー:20

 持久力:70

 素早さ:70

 魔力: 0

 知力: 5

 器用: 5


【跳躍】


 -------------------



 エリス姫も顔を覗かせて来た。


「どうじゃ?」


 俺は【鑑定】したステータスを、みんなに伝えた。

 まず、俺が意見を述べた。


「持久力と素早さが高い。攻撃をかわされて、持久戦に持ち込まれるのは、避けたいね」


 セレーネは、ジッとボス部屋を覗いている。

 ハンターの顔になっている。


「弱点は、無い。胴回りは、どこも同じくらいだから、どこを攻撃しても同じだと思う」


 セレーネの言葉に、サクラが続く。


「なら攻撃場所を、絞りましょう。頭部にしますか?」


 俺が、サクラの意見を修正する。


「頭部狙いだと、俺の剣が届かないな。サクラは飛行して頭部を中心に攻撃、俺とセレーネは、首にあたる部分、頭部下の胴体部を集中攻撃しよう」


「了解!」

「了解!」


 エリス姫が、うらやましそうな顔をした。

 俺たちは、年が近いパーティーなのもあって仲が良い。

 一応リーダーが俺だけど、3人に上下関係はない。


 いつも、大人に囲まれているエリス姫としては、うらやましい人間関係なのだろう。


 俺は一人の冒険者として、エリス姫をパーティーメンバーにしてあげたいと思った。

 もちろん、そんな事は無理なのだが。

 彼女は王族で王位継承候補者なのだ。


 エリス姫は、すぐに真面目な表情に戻って、自分達の動きを提案して来た。


「では、私達は、メイド2人が盾を持って前衛、セレーネのカバーをさせよう」


 これは、助かる。

 盾役がいれば、セレーネは、あまり回避を考えずに、射撃に集中出来る。


「お願いします」


「私は、ヒロトと同じアタッカーじゃな。首を狙おう。セバスチャンは後衛じゃ。いつも通り頼む」


 執事セバスチャンが、うやうやしく頭を下げた。


「姫様の仰せのままに」


 考えてみれば、エリス姫達と共同戦線を張るのは初めてだ。

 いつもは、護衛の騎士達が前に出て、さっさと魔物を倒してしまう。


 エリス姫、セバスチャン、メイド2人の強さは、良くわからない。

 弱いって事はないだろうが、多少の不安が残る。


 ここは、俺のパーティーがリードする形が良いだろう。

 最後に、俺がみんなに指示を飛ばした。


「狙いは首! 集中攻撃をして、短期決戦! 行くぞ野郎ども! ロックンロール!」


 サクラとセレーネが、いつものように答える。


「ロックンロール!」

「ろっくんろー!」


 エリス姫は一瞬キョトンとした顔をしたが、小声でつぶやいたのが聞こえた。


「ふふふ。ロックンロールじゃ」


 俺の掛け声を合図に、俺たちはボス部屋に突入した。

 サクラが背中の白い翼を広げて【飛行】で先行する。


 とぐろを巻いていたキングジャンプは、サクラに気が付いた。

 鎌首をもたげて、サクラに向かって構える。


 サクラは低空飛行でキングジャンプに迫る。

 低い位置から迫るサクラに、キングジャンプの注意が下に向いた。


 サクラは空中でクルッと前方回転して、得意の浴びせ蹴りを食らわせた。

 サクラの右足のかかとが、キングジャンプの額にブチ当たる。


 下の方を警戒していたら、上からサクラのかかとが落ちて来たのだ。

 キングジャンプには、お気の毒さまだ。


 サクラは浴びせ蹴りを決めると、すぐに上方に羽ばたいた。


「SYAAA!」


 キングジャンプは、上空のサクラに向かって空気を切り裂くような鋭い声を上げた。

 そこへ俺が、下から攻撃する。


 初めから全開だ!

 俺はコルセアの剣を脇に構え、【神速】一気に加速する。


 キングジャンプは、上空のサクラに意識が向いていて、首ががら空きだ。

 体重と【神速】で得た速度をのせたコルセアを、スキル【刺突】で一気に突きさす。


 ズブリ!


 肉を突き刺す感触が、コルセアを通じて両手に伝わる。

 キングジャンプが、俺の方に意識を向け、悲鳴を上げる。


「SYAAAAAAA!」


 俺にキングジャンプの殺意が向く。

 その瞬間、また【神速】で剣を抜きながら、入って来た階段の向かい側へ高速移動する。


 キングジャンプが、とぐろを解いて、ウネウネと俺の方へ迫って来る。

 だが、キングジャンプの動きが、パタリと止まる。


 キングジャンプは、振り向いて階段から少しボス部屋に入った所を見ている。

 そこには、メイド2人が大盾を構え、声を上げている。


 おそらく、スキル【挑発】か何かだろう。

 キングジャンプは、メイドの方へ向かった。


 執事セバスチャンの声が、ボス部屋に響いた。


「【プロテクト】! 【ヘイスト】!」


 エリス姫の体が、うすい緑色の光りに包まれた。

 同時にエリス姫が加速した。


 一気にキングジャンプまで、距離を詰める。

 早い!


 右手に持ったレイピアで、俺の付けた刺し傷をえぐった。

 キングジャンプの首元の傷が広がり、血が流れ出る。


 キングジャンプが、エリス姫に噛みつこうとする。

 だが、エリス姫は素早くかわし、安全な距離を取る。


 エリス姫の動きを見てわかった。


 セバスチャンが唱えたのは、支援魔法だ!

 あのおっさんは、エンチャンターかよ!


 確か……。

 魔法【プロテクト】は、防御力の向上。

 魔法【ヘイスト】は、素早さの向上だ。


 サクラが上から殴り、その隙に下からエリス姫が切り裂く。

 支援魔法が切れると、間髪入れずにセバスチャンから追加で支援魔法が飛んでくる。


 セバスチャンの支援は見事だ。

 俺は、初めて見る支援魔法に見とれてしまった。


 突然、セレーネから、檄が飛んで来た。


「ヒロト! ボーッとしない!」


 攻撃の合間合間にセレーネが、確実に矢を命中させている。

 だが、首元への手数が足りていない。


 俺は慌てて、斜め前に出た。

 スキル【神速】で加速して、キングジャンプの左後ろから、首元を斬りつける。


 だが、この攻撃は、素早い動きでかわされた。

 キングジャンプは、俺の攻撃をかわすと同時にジャンプしやがった。


 キングジャプのスキル【跳躍】だ。

 俺の視線よりはるか高く、2メートル位飛び上がった。


「うおおお! マジかよ!」


 キングジャンプが、上から振って来る。

 これが……、サクラの言っていたボディプレスか!


 俺は【神速】で部屋の隅に逃れようとする。

 落下するキングジャンプが、回避する俺の体をかすめた。


 ズーン!


 キングジャプが着地すると、重たい音がボス部屋に響いた。

 間一髪、俺はキングジャンプのボディプレスを逃れた。


 着地したキングジャンプの動きが止まっている。

 チャンスと見たサクラが、空中でエビぞり回転を始めた。

 急降下して、必殺技のメリケンドライバーを決めるつもりだ。


 派手好きめ!

 オイシイ所を持って行く気だな!


 サクラが急降下を始めると、キングジャンプはクイッと首を上げた。

 やばい! バレてる!


 急降下して加速の付いているサクラは、進路変更が出来ない。

 キングジャンプが、口を大きく開けた。


「ちいいい!」


 俺は舌打ちすると、コルセアを振りかぶって【神速】で加速した。

 キングジャンプの首元目掛けて、コルセアを右上から左下へ、斜めに振り切る。


 振り出した剣の重さと遠心力で、腕が前方に引っ張られる。

 続けて、体が引っ張られる感覚が来た。


 その瞬間、コルセアの切っ先が空気を切り裂く。

 かん高い、凄まじい音が響いた。


 フュイーーーン!


 ズバーン!


 俺の一振りは、キングジャンプの首を両断した。

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