第45話 ヒロトルート4階層のダンジョン探索

 ギルドマスターのハゲールが、ブリブリとご立腹だ。


「ヒロト! オマエ、俺をハメたな!」


 獲物が多い事は黙っていたけれども、俺が取引を持ち掛けた訳じゃない。

 俺は、ハゲールに淡々と答えた。


「解体費用を無料にするから情報提供をしろ! と、おっしゃったのは、ギルドマスターじゃないですか」


「うぐ! 確かにそうだが……」


「それに、これだけ獲物があれば、素材売却で冒険者ギルドも儲かりますよね?」


 そう。俺達のパーティーは、10階層への行きと帰りで、フロアボスも含む大量の獲物を持ち込んだ。


 ルドルのダンジョンは、初心者向けダンジョンだ。

 初心者冒険者が多い。


 そのせいで、下の階層のボスは、なかなか水揚げされない。

 レアな素材もあるだろうから、冒険者ギルドの利益も、それなりに出るはずだ。


 ハゲールは、解体場と訓練場に積み上がった獲物を見て、腕組みをしている。

 頭の中で、そろばんを弾いているようだ。


「むううううう……」


「では、よろしくお願いしまーす!」


 俺たち3人は、ジュリさんと一緒に解体場を後にした。


 ジュリさんは、横で笑いを堪えている。

 上司がアタフタするのが面白かったのだろう。


 俺は、ジュリさんにサクラのランクアップを頼んだ。


「ジュリさん、ダンジョンボア10匹はサクラの戦果なので、ランクアップをお願いします」


「わかったわ。サクラちゃんは、FランクからEランクに昇格ね。アイアンカードを渡すわ」


 受付カウターに戻ると、ギルドのロビーはがらんとしていた。

 冒険者が一人もいない。

 みんな、マジックバッグ探しに、ダンジョンへ行ってしまったのだろう。


 俺はマジックバッグから、4階層で回収した遺品が入った布袋を取り出した。


「これ……4階層で見つけた遺品です」


 ジュリさんは、真面目な顔に戻って布袋を受け取った。


「ありがとう。依頼と照合して、遺族に連絡するわね」


「お願いします」


「じゃあ、これ。サクラちゃんの新しいカードね。昇格おめでとう! ヒロト君達は、今日はどうするの?」


 俺は、昨日サクラが提案していたように、ジュリさんに答えた。


「今日からは浅い階層で、遺品探しをボチボチやりますよ。しばらくノンビリ活動します」


「それが良いわ。ダンジョン踏破で疲れただろうから、無理しないでね。それとね……」


 ジュリさんが、ニンマリと笑っている。


「何でしょう?」


「ドロップ品があれば、買い取るわよ」


 それか!

 さすがジュリさん、シッカリしているな。


「まだ整理できてないので……。整理して、売るかどうか、メンバーと相談します」


「わかったわ。よろしくね!」


 ジュリさんの笑顔を背に、俺達は、冒険者ギルドを後にした。



 ルドルの街をダンジョンに向かって、3人で歩く。

 ちょうど10の鐘が鳴った。


 夏の日差しが強い。

 だが、毎日ダンジョンに潜っているせいか、強い日差しでさえも、心地よく感じる。


 このまま街をブラつきたいが、あの双子、ダンジョンの精霊との約束がある。

 今日から、ヒロトルートと精霊ルートを探索しないといけない。


 俺達は、昼飯をお店でテイクアウトして、早々とダンジョンに潜った。


 *

 ルドルのダンジョン、ヒロトルートから3階層に来た。

 俺は、セレーネとサクラに、今日の行動予定を相談した。


「さてと、今日はヒロトルート4階層のボス攻略を、目標にしようと思う。どうかな?」


「賛成~!」

「了解でーす」


 俺達は、3階層を進み始めた。

 ヒロトルートの3階層は、ホーンラビット狩りで来て以来だ。

 まだ、本格的な探索は行っていない。


「まず、真っ直ぐ進んでみよう」


 俺、セレーネ、サクラの順で、ダンジョンの通路を歩く。

 前からの攻撃には俺が、後ろからの攻撃にはサクラが対応する並び順だ。


 通常ルートでは、階段から真っ直ぐ進むと4階層への階段に出られる。

 ヒロトルートも同じ構造かもしれない。


 3人で、真っ直ぐに進む。

 初めてのエリアなので、緊張もあって3人とも無言だ。


 途中ホーンラビットに出食わす。

 獲物を見つけた瞬間、セレーネが矢を放ち、一矢で確実に仕留める。


 セレーネは、無限の矢筒を手に入れた事で、矢の残数を心配する必要がない。

 ホーンラビットを見つけ次第、片っ端から倒して行く。


 交戦時間がゼロに近いので、探索スピードがほとんど落ちない。

 これはありがたい。

 俺は、セレーネをねぎらう。


「セレーネのお陰で、探索スピードが落ちないで済むよ」


「えへへ。矢の心配がないから、張り切っちゃった!」


「その調子で、バンバン頼むよ」


「了解! ここは獲物が沢山いて良い猟場だよね~」


 セレーネは、ホーンラビットの数が多いのを喜んでいるけれど、今日は探索が目的なので、大量のホーンラビットは、正直ちょっと邪魔だ。


 いちいち真面目に接近戦をしていたら、探索が進まない

 この調子でセレーネに、バンバン遠距離で倒して貰おう。


 セレーネが倒したホーンラビットは、最後尾のサクラがマジックバッグに回収してくれている。


 3階層に入ってから、30分以上、歩いたと思う。

 そろそろ……、あった!


 通路の先に、下へ降りる階段が見えた。

 俺は、後ろの2人に声を掛ける。


「あったよ! 階段発見!」


「おお!」

「やりましたね。下に降りましょう」


「ああ、そうしよう。4階層に降りたら、食事休憩しよう」


 俺達は、階段を下りて4階層に到達した。

 階段を下りてすぐの地点は、広場の様になっていた。


 俺達は、ジャイアントバットのテントを広げて、中で昼休憩にした。

 このテントは、魔物除け機能があるので、こういう時便利だ。


 マジックバッグから、店で買った昼食を取り出す。

 ステーキサンド、コーンスープ、サラダ、紅茶、アップルパイだ。


 マジックバッグの時間停止機能のお陰で、食事が出来立てで暖かいままなのがありがたい。

 昨日、かなりエネルギー消費したから、みんなデザートまで、がっつり食べた。


 セレーネは、いつも楽しそうに食事をする。

 ずっと親父さんと2人で、山の中で猟をして暮らして来たからだろう。

 みんなで、にぎやかに食事をするのが、楽しいみたいだ。

 今度休みを作って、どこか連れて行ってあげたいな。


「さて、そろそろ出発しよう」


 俺達は、探索を再開した。

 また、同じように、階段を下りた地点から、真っ直ぐに進んで行く。


 通常ルート4階層の魔物は、ダンンジョンボア。

 大きなイノシシで突進してくる。

 攻撃力は、高いので気を付けて進む。


 四階層を歩き出して、すぐに魔物と遭遇した。

 だが、ダンジョンボアじゃない。

 赤い色の大きなトカゲだ。


「何だ、あれ!?」

「初めてみるね」

「ダンジョンボアじゃ、ありませんね……」


 頭から尻尾までは、1メートルくらい。

 胴体の太さは人間の腕くらいだ。


 全体的に赤色で、背中から尻尾にかけてに、トゲトゲしたヒレが付いている。

 足の爪が鋭い。トカゲと言うよりは、イグアナだろうか。


「とりあえず【鑑定】するから。サクラは、前に出て。セレーネは、矢の準備を」


「了解!」

「了解!」


 2人が動き出す。

 赤い色のトカゲは、口を開けて、こちらを威嚇している。


 俺は、すぐに赤いトカゲを【鑑定】をした。


「【鑑定】!」



 -------------------


 アカオオトカゲ


 HP: 25/25

 MP: -

 パワー:15

 持久力:20

 素早さ:50

 魔力: -

 知力: 2

 器用: -


 -------------------



 良かった。

 素早いだけで、それほど強くなさそうだ。

 急いで鑑定結果を、2人告げる。


「そいつは、アカオオトカゲ! 素早いけど、それ程強くない!」


 サクラは【飛行】で宙に浮いて、アカオオトカゲの注意を引き付けている。

 そこに、セレーネが矢を打ち込んだ。


 アカオオトカゲは、サクラに気を取られていて、セレーネに背を向けていた。

 セレーネの放った矢は、アカオオトカゲの後頭部に突き刺さった。


 アカオオトカゲは、絶命した。

 サクラとセレーネは、アカオオトカゲの対処方法について相談を始めた。


「それ程、強くはないですね」


「今みたいに、サクラちゃんが注意をそらしてくれれば、矢で対応出来るよ」


 俺は二人と違う事を考えていた。


 まず……、四階層に降りてすぐに、見た事もない魔物に出会った。

 通常ルートとヒロトルートでは、魔物の構成が違う可能性が高い。


 次に、ボス部屋、5階層への階段の位置が気になった。

 通常ルートの階段の位置は単純だ。

 地図の上から下、次の階層では下から上に位置関係になっている。


 しかし、通常ルートと魔物の構成が違うなら、ボス部屋の位置も通常ルートとは、違うかもしれない。


 となると、ここヒロトルート4階層の探索は簡単ではなくなる。

 俺は探索に必要なアイテムがあるかどうか、心配になって来た。


 食料はチーズレーションがいくつか、水は水筒にある分だけ。

 ポーションは、3つ。


 万一を考えて、もうちょっと用意しておいた方が、良かったかもしれない。


「ヒロト! 進もう!」


 俺が考え込んでいると、セレーネが声を掛けて来た。


「ああ。そうだな。アカオオトカゲは、問題なさそう?」


「大丈夫!」

「ザコですよ! ザコ!」


 まあ、確かにサクラの言う通り、それ程強い敵じゃない。

 俺たちは、探索を再開した。


 だが、1時間程真っ直ぐに進んだが、ボス部屋には、たどり着けなかった。


 どうやら俺の悪い予想が当たった。

 ヒロトルートの4階層からは、ボス部屋の位置が通常ルートと違うようだ。


 ここからは、まったく別のダンジョンと思った方が良さそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る