第38話 金の宝箱の中身は? 宝箱オープン!
「ねえ。ヒロト、どういう事なの?」
「ヒロトさん、事情説明をお願いします」
双子の少女は、消えてしまった。
セレーネとサクラは、訳が分からないと言った顔で、俺に説明を求めて来た。
「まあ、落ち着いて。とりあえず、安全だから。今の双子はね……」
俺は2人に、先日起こった不思議な出来事を説明した。
最初に双子の少女に出会ったのは、1階層を1人で探索していた時である事。
2階層への別の階段を、双子に教えて貰った事。
あの双子は、おそらくダンジョンの意思、ダンジョンその物である事。
セレーネは、話を聞きいて興奮したみたいだ。
「すごい! すごい! ヒロトすごいよ! ダンジョンの精霊とお友達なんだね!」
ああ、この世界の人の感覚だと、あの双子はダンジョンの精霊になるのか。
なるほど、その方が感覚的にわかりやすいのだろうな。
「じゃあさ! ヒロトルートの他に、もう1つ階段があるんだよね?」
「そうそう。1階層左奥がヒロトルートの階段、右奥に双子に教えて貰った階段があるよ」
「じゃあ、右奥の階段は、精霊ルートって呼ぼうよ!」
「いいよ。じゃあ、右奥は精霊ルートって事にしよう」
セレーネは、興奮しっぱなしだ。
一方サクラは、腕を組んで静かに考え込んでいる。
「ヒロトさん。それで、ヒロトルートと、精霊ルートの情報は、いつオープンにするのですか?」
ヒロトルートは、セレーネや師匠の神速のダグが知っている。
だが、ギルドには、まだ報告していない。
精霊ルートもだ。
「うーん。どこかのタイミングで知らせないと……、とは、思っているのだけれど……」
「一番効果的なタイミングを、狙っている感じですか?」
「そうなんだ」
セレーネが、会話に入って来た。
「前にヒロトルートの3階層で狩った時は、人がいなくて良い狩場だったよね」
「そうなんだよね。ある程度、俺達のパーティーで探索したり、狩ったりしてから、ギルドに報告したいんだよな」
ギルドに報告すれば、報奨金だとか、冒険者ランクのアップとか、何かしら見返りがあるとは思う。
しかし、その前に俺達で、なるたけ稼いでおきたい……。
「ダンジョンの精霊さんたちとしても、ヒロトルートと精霊ルートを探索してもらいたいでしょう?」
「そうみたい。ルドルのダンジョンは、中央の通常ルートが全てと思われてるからね。他のルートに人を呼び込みたいみたいだね」
俺とセレーネの会話を腕を組んで聞いていたサクラが、ズバッと核心を付いて来た。
「そもそも、ルドルのダンジョンて、10階層で終わりなんですかね?」
俺は、ニヤリとサクラに笑った。
セレーネは、サクラの話した意味が、わからない様だ。
「サクラちゃ~ん。ルドルのダンジョンは、10階層で終わりだよ~」
「それは、通常ルートの場合ですよね。ヒロトルートと精霊ルートは、わからないじゃないですか」
「あっ! そうか! まだ誰も行った事ないんだから……」
「11階層、12階層もあるかもしれないですよ。ですよね? ヒロトさん?」
「サクラの言う通り。俺は、11階層より、下もあると思っている」
そもそも、10階層の浅いダンジョンなんて、ルドル以外に聞いた事が無い。
他のダンジョンは、もっと深い。
50階層のダンジョンもあるし、深くて最下層どれくらいか、まだ、わからないダンジョンもある。
ダンジョンの精霊、つまり双子の少女としては、『もっと深い所まで探索しろよ!』と思っているのだろう。
「ダンジョンの精霊としては、俺達に……」
「わたしたちに、探索を進めて貰いたいんですね」
「そういう事。じゃあ、宝箱を開けてみようか!」
俺達三人は、金色の宝箱に近づいた。
さっきの木製の宝箱とは、雰囲気が違う。
いかにも、『良い物』が入っていそうだ。
サクラが、説明する。
「ダンジョンの中では、様々な形態の宝箱が出ます。金箱は、最低でもアーティファクトクラスのアイテムが出るそうです」
「サクラちゃ~ん、アーティファクトって?」
「秘宝と言う意味です。コモン、レア、アーティファクトって具合に等級、格付けがあるんですよ」
「じゃあ、この金色の宝箱からは、相当良いのが出るんだ~!」
サクラとセレーネが、宝箱を触りながらワイワイと話している。
俺も等級の事は聞いた事がある。
冒険者がダンジョンから持ち帰ったアイテムを、売買するのに目安がないと売買しづらい。
そこで、格付け、等級を、冒険者ギルドや商人ギルドが、中心になって作ったそうだ。
例えば、宝箱を開けて、ポーションが出たとする。
ポーションは、一般に作れるアイテムだ。
だから、格付けとしては、コモン、一般クラスになる。
特殊効果のある武器なんかは、一つ上のレア、希少級になる。
突き刺すと痺れるナイフなんかが、レアになる。
特殊効果のある武器は、腕の良い職人なら作る事が出来る。
出回っている数はそれほど多くないが、レアクラスの武器は、金を出せば買う事が出来る。
ボルツ工房やコルセア工房の武器、防具なんかも、レアに分類される事がある。
金額は数十万円台から、数百万円台まで、かなり幅がある。
一般的な冒険者だと、レアクラスが、現実的に入手可能な装備品やアイテムだ。
今回サクラが言う所のアーティファクト、秘宝級はなかなかお目にかかれない。
秘宝級を作れる職人は、限られていて国に保護されている。
買おうとすると数千万ゴルドになる。
まあ、フェラーリみたいな。
超高級スポーツカーみたいなモノだ。
限られた高位の冒険者や貴族や王族が持つモノ……、それがアーティファクト、秘宝級アイテムだ。
金箱からは、最低でもアーティファクト……。
俺達3人は、ジッと箱を見ている。
「ヒロト~! 開けようよ!」
「ヒロトさん!」
「あああ、俺!? わかった! 開けるよ!」
俺は、緊張と期待で固まってしまっていた。
では……、オープン!
「おおお!」
「おおお!」
「おおお!」
蓋を開けると、宝箱の中は、赤いフワフワした布で内張をしてあった。
そして、宝箱に入っていたアイテムは、
・小ぶりな布製の袋×3
・矢筒×1
だった。
「ちょっと鑑定するね」
俺は、スキル【鑑定(上級)】で宝箱の中のアイテムを鑑定した。
まずは、小ぶりな布製の袋だ。
スキルを発動して、鑑定すると……。
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マジックバッグ(容量無制限、時間停止、所有者登録可能)
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「やった! マジックバッグだ!」
セレーネとサクラも声を上げて喜んだ。
これで荷物運びも、獲物を持ち帰るのも楽になる。
食料や水も大量に持てるから、行動範囲もグンと広くなる。
サクラが、マジックバッグを1つ手に取った。
「3つともですか?」
「うん。3つともマジックバッグだよ。機能は、容量無制限、時間停止、所有者登録可能だって」
「すごい! 市販されてるのは、容量制限アリですよね」
「それでも、数百万だからね~。これ1つでいくらになるか……」
「1千万ゴルドは、下らないでしょうね……。間違いなく、アーティファクト級アイテムですね」
「じゃあ、マジックバッグは、1人1つずつにしよう」
これを売れば、奴隷に売り飛ばされたシンディを、買い戻せるかもしれない。
けど、このマジックバッグは、下手したら2度と手に入らないアイテムだ。
これを売るのは最後の手段にして、マジックバッグを活用して稼ぐ方向で行く。
セレーネもマジックバッグを手に取った。
腰のベルトに、紐でしっかりとくくり付けている。
サクラはポケットに、折りたたんで入れている。
俺はショルダーバッグの中にマジックバッグをしまった。
「次は、矢筒を鑑定しよう」
「矢じゃないんだね~。ほら、ヒロトのリクエストしたマジックバッグが入ってたからさ」
「ああ、そうだった。俺が、マジックバッグと矢が問題だって、双子に話したんだ」
確かに妙だな。
矢が高い、矢の補充が問題だと伝えたのに、宝箱に入っていたのは矢筒だ。
ケースだけあっても、しょうがないだろう……。
さて、【鑑定】……。
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無限の矢筒(矢の複製機能)
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「無限の矢筒だって。矢の複製機能があるらしい。セレーネ、試しに使ってみてよ」
「わかった~」
セレーネは、宝箱から矢筒を取り出した。
円筒形の矢筒で黒い革に包まれている。
シンプルなデザインだ。
セレーネが自分の矢筒から矢を1本引き抜いて、無限の矢筒に矢を入れた。
すると、矢筒いっぱいに矢がコピーされた。
「えっ!?」
「すごい!」
「矢が増えた!」
どうやら無限の矢筒に入れた矢を、コピー生成してくれるらしい。
「これで矢の補充問題は解決だな。じゃあ、これはセレーネが使ってよ」
「ありがとう! 精霊さーん、ありがとう!」
セレーネは、ダンジョンの天井に向かって、笑顔で礼を言った。
たぶん、あの双子は、どこかで聞いているのだろう。
「この無限の矢筒は、凄まじいですね……」
サクラが、ため息混じりにつぶやいた。
俺もこの無限の矢筒の価値は計り知れないと思う。
「極論だけど、矢が1本あれば、軍隊の矢を全部まかなえる、って事だよな」
「そうなりますね。籠城戦とかを想定する要塞なんかでは、欲しいですよね」
「……値段の想像できないね」
「ちょっと値段は……。ただ、間違いなくアーティファクトよりは上のクラス、伝説級のアイテムだと思いますよ」
そりゃ、そうだ。
そもそも、どういう仕組みで矢をコピーしているのか、想像もつかない。
たぶん、これを作る事は、人間には出来ないだろう。
「伝説級……、レジェンダリーってヤツか……、初めて見たよ……」
俺とサクラは、セレーネの持った矢筒を見つめた。
セレーネが居心地悪そうにしている。
「ねえ~。私だけ2つも良いの? それに、この矢筒、すごい物なんでしょう?」
俺とサクラは、顔を見合わせた。
「俺としては……、セレーネが持っているので良いと思うけど。メンバーそれぞれに、合った装備を身に付けて貰いたいし」
「私もオッケーですよ。また良い物が宝箱から出たら、私かヒロトさんが貰うって事で良いんじゃないでしょうか」
「じゃあ! じゃあ! 無限の矢筒は、私が持ってるね!」
セレーネは、嬉しそうだ。
無限の矢筒を、抱きしめている。
これで夜の矢の補修から、解放されるもんな。
そして、木の宝箱と同じように、金の宝箱も、煙の様に消えてしまった。
「大収穫だったね。双子様様だよ」
「ホントにね~。ありがたいね~。ヒロトルートと精霊ルートを、がんばって探索しなきゃね」
俺とセレーネが、笑顔で話していると、サクラが悪そうな顔で提案をして来た。
「このまま10階層のボスを、退治しに行きませんか?」
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