第34話 一度認定されたキャラは、なかなか変わらない

(ヒロトさん。あのガラの悪い3人組に【意識潜入】してきて良いですか?)


(考えを探って来るって事かい?)


(そうです)


(頼むよ。3人にバレないようにね)


(了解です)


 サクラは、器用だ。

 ジュリさんの話を熱心に聞きながら、俺に【意識潜入】した。

 そして、こっちをガン見している3人組にも、バレないように【意識潜入】して来ると言う。


 凄腕だな。

 攻〇機動隊の草〇少佐の様だ。


(ふふ。ありがとうございます。声マネしましょうか?)


(お帰り! 早いね! 攻〇がわかるの?)


(ヒロトさんが前にいた世界にも、地獄は繋がっていますので、知ってますよ! バ〇ー! イ〇カワ! って感じです)


 サクラが声マネをしてくれた。

 低い力強い声が、似ている。


(似てるね! で、あの3人に『枝』を張って来たんだね。どうだった?)


 枝を張ると言うのは、回線に潜入して盗聴する、と言う様な意味だ。


(ふふ。あの3人はですね。ヒロトさんが、きれいな子を2人連れてるのが面白くないんです)


(ああ、そう言う事か……)


 セレーネもサクラも見た感じ、まだ子供だけど、間違いなく美人だ。

 確かに今の状態は、両手に花だ。

 他の冒険者、特に若い冒険者から見ると、面白くないのだろうな。


(それで、あの3人はヒロトさんと同じ時期に冒険者になったので、ヒロトさんを格下だと思っています)


(ああ、知っての通り、俺はFランてバカにされているからね)


(ヒロトさんに命令して、わたしとセレーネさんを自分たちのパーティーに入れて、好き勝手にする事を妄想しています)


(な! 何だと!)


(かなり、ひどい妄想ですね……。ゲスも極まれりと言った感じの……。どうします? ダンジョンの中で眠らせて、地獄送りにしますか?)


 サクラは、悪魔だからね。

 サクラが地獄送りと言ったら、もう、そのままの意味だからシャレにならない。


(あいつら、どうしようもないな……)


(他にも……。ホーンラビット狩りで稼いだのもマグレだとか、ブルーカードになったのもラッキー野郎だからだとか、あー、お師匠さんの神速のダグの悪口も……。マイナス感情が、3人の心の中で渦巻いてますね)


 3人組をもう一度チラッと見る。

 首からかけているギルドカードは、3人ともアイアンカードだ。


 年齢から考えても、冒険者としてレベルは低い。

 装備はかなり使い込んだ革鎧だが、たぶん中古だろ。


(なあ、サクラ。あの3人を【鑑定】したらバレるか?)


(ヒロトさんの【鑑定】は上級ですから、大丈夫です。よほど高レベルの気配察知系スキル持ちでなければ、バレませんよ)


 俺は、3人を鑑定してみた。


 3人の名前は、ディック、トビー、ジョージ。

 3人とも15才、ステータスは3人とも低い。


 もし、ケンカになったとしても、【神速】持ちになった俺には触る事も出来ないだろう。


(……もし、あの3人にからまれても、こっちで対処する。サクラは、セレーネと装備を買いに行ってくれ。ダンジョンの入り口前で合流しよう)


(了解!)


 受付のジュリさんから、サクラへの冒険者の説明が終わった。

 サクラは、木のギルドカードを受け取り、セレーネと装備品の買い出しに行った。


 ジュリさんは、依頼する仕事の書類を取りにカウンターから離れた。

 俺は受付カウンターに1人で座っている。


 俺の後ろで人が動く気配がした。

 こちらに近づいて来る。


「よお、ヒロト……、久しぶりだなぁ」


 ディック、トビー、ジョージの3人組が、カウンターの空いている椅子に座った。

 俺の右隣に座って、声を掛けて来た奴は……、ディック……かな?


 俺は素っ気なく返事をした。


「誰だっけ?」


 ディックは、威嚇するように強くカウンターを叩いた。


「俺だよ! ディックだよ! ディック! オマエ、最近調子良いみたいだな?」


 ディックに続いて、トビー、ジョージの2人が横で騒ぎだした。


「おお! スゲーらしいじゃん!」

「可愛い子2人も連れてな~! 良い感じじゃん! なあ?」


 このウェ~イ! みたいなノリはイラッと来るな……。


「なあ、俺達、同期だよな~」

「そうそう、オイシイ所は平等に分け合わないと~」

「独り占めってのは、いけねぇよな~」


 俺はズボンのポケットに両手を突っ込んで、黙って聞いている。


「ホーンラビットじゃ随分稼いだってな~?」

「おお! このギルドで1番だったんだろ? ホーンラビット狩りじゃ、なあ?」

「なんだよ~、オマエ冷てえな~。そんなに稼いだんだったら、俺達にもオゴレよ~」



 俺は、3人の勝手な言い分を聞きながら、転生前の事を思い出していた。


 昔、日本で会社員をしていた。

 派遣・バイト生活をする前だ。

 勤めていたのは、小さな会社だった。


 実績を残して、部長にして貰えた。

 部下も出来たし、予算もつけて貰えた。

 自分のがんばりが、認められて嬉しかった。


 だが、地元の友人は、俺の働きぶりを、わかってくれなかった。


 オマエはラッキーなだけだ!

 調子に乗るなよ!

 大した事じゃない!


 嫉妬、ひがみもあったのだろう。

 だが、一番の原因は、小学校や中学校の頃の俺のイメージ、昔の俺のキャラだ。


 俺の事は、お人好しのバカだと思っていたんだろう。

 コイツはお人好しだから、けなしても、コケにしても、ニコニコ笑っている。


 何をしても良い。

 いじっても良い。

 自分より下の存在。

 自分よりも下の存在じゃなきゃいけない。


 そんな風に考えていたのだと思う。



 今、俺にからんでいる3人組、ディック、トビー、ジョージも同じだ。


 Fランのヒロト。

 ルート仕事しか出来ない能無しヒロト。

 使えない冒険者、格下のヒロト。


 だから、ちょっと脅せば言う事を聞くだろう。

 ヒロトは、自分の言う事を聞くべきだ。


 こいつらは、そんな風に考えているのだろう。

 転生前と同じだ。

 俺は3人の話を聞くのにウンザリして来た。


「それで、俺にどうして欲しいんだ?」


 3人組は、ニンマリと笑った。

 ディックが、偉そうに答えた。


「オマエら3人、俺達のパーティー、ライジング・ドラゴンに入れよ」


 トビーとジョージが続けた。


「女の子2人が可愛いから特別だぞ! オマエは、Fランなんだからよ~。そこ、わきまえろよ」

「今までオマエラが稼いだ金は、ライジング・ドラゴンの資金って事でな」


 心底腹が立った。

 いや、コイツラ3人に腹が立っているが、それと同じ位に世の中の理不尽さに腹が立つ。


 一度、Fランってレッテルが張られると、俺自身が変わっても、実績を作っても、なかなか一度張られたレッテルは変わらない。


 だぶん、このバカ3人組だけじゃない。

 ルドルの冒険者ギルドでは、俺の事をナメきっているヤツは山ほどいるんだろう。


 怒りで俺の手が震えている。

 俺は深く息を吸って、心の中の有象無象を吐き出しながら3人組に告げた。


「オマエら、バカか?」


 3人はキョトンとしている。

 俺は、一気にまくし立てた。


「オマエらはアイアンカードだろ? これを見ろ。俺はブルーカードだ。オマエらの1ランク上の冒険者だ。ランク上の俺が、ランク下のオマエらのパーティーに入る訳ないだろう」


「「「――」」」


「金は俺とセレーネが、ホーンラビットを狩りまくって手に入れた金だ。何十匹も狩り続けるのが、どんだけシンドイかわかっているのか?」


「「「――」」」


「2人で汗を流して稼いだ金を、オマエらのパーティーの資金にしろだと? バカか!」


「「「――」」」


「それにな。一緒にいた2人の女の子はな。オマエらみたいな弱っちい冒険者はタイプじゃないと思うぜ。生意気な口を叩くのは、ランクを上げてからにするんだな!」


 3人は途中までポカンとした顔をしていたが、途中から怒りで顔が真っ赤になっていた。

 受付のジュリさんが戻って来て、ビックリした顔をしている。


 朝一のギルドのホールには、まだ結構な数の冒険者がいる。

 俺が3人に向けて悪態をついたのを、面白そうに、うるさそうに、俺をバカにしたように他の冒険者たちが見ている。


 こいつら全員死んでしまえ。

 俺のイラついた気持ち、感情が暴走しそうになっている。


 そんな俺に3人組は、罵声を浴びせて来る。


「テメー! Fランがよー!」

「ヒロト! コラ! 生意気いってんじゃねーぞ!」

「ぶっ殺すぞ!」


 いや、もう、そのケンカ買うわ。


「訓練場に来いよ。下っ端ども。俺が、ケイコをつけてやるよ!」

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