第33話 悪魔が冒険者のパーティーに参加します

 悪魔からサキュバス見習いが、俺の元に派遣された。

 サキュバスは、俺が有名な冒険者になる為に協力する、俺のパーテイーに加わると言う。

 俺は、サキュバスにパーティー参加を許し、サクラと言う名前を付けた。


「マスター? 俺がサクラの? どう言う事?」


「悪魔に名前を付けると、主従関係が結ばれるんです」


 ああ!

 それで名前と言った時に、あんな考え込んでいたんだ。


 だったら、早くそう言ってくれれば良いのに!

 ま……まあ、名前を付けてしまったものは仕方がない。


「わかった。でも、俺の事をマスターと呼ぶのはナシ! ヒロトで良いよ」


「わかりました。ところで、早速ヒロトさんのお役に立てます。スキル【神速】について、お教えいたしましょうか?」


 サクラは、またパタパタと背中の翼をはためかせて、宙に浮かんだ。

 どや顔で俺の方を見ている。


 確かに、スキル【神速】について詳しく知りたいと思っていた。

 サクラの、わたし知ってますよ! すごいでしょ! って顔はムカっとするが、素直に教わっておこう。


「おお! 頼むよ! 【神速】は、戦闘中の移動が速くなるスキル、って理解で良いのかな?」


「うーん、それは【縮地】ですね。【神速】は、あらゆる行動が早くなります。剣を振る速度も早くなりますよ」


 俺は試して見る事にした。

 コルセアの剣を抜いて構える。

 意識を集中して剣を振ると、今までにない速さで剣が走った。


「ヒロトさん、まだ【神速】に慣れてませんね。慣れれば意識しないでも、【神速】を発動できるようになりますよ」


「じゃあ、慣れてくれば、高速移動、高速攻撃が可能になるのか?」


「はい。あと連続使用が出来るスキルなので、通常の移動を早くする事も出来ます」


 ああ、そう言えば、師匠がダンジョンから昼飯を買いに外に行って、帰ってきたことがあったな。


「相当凄いスキルだな!」


「凄いどころか、ヒロトさんは世界最速になったんですよ。ヒロトさんに速さで対抗できるのは、師匠の神速のダグくらいです」


 いきなり世界最速かよ!

 俺はコルセアの剣をおさめて、自分の手や足を動かした。


 特に昨日までと変化はない。

 けれどスキル【神速】を発動すると世界最速!


 サクラは、真剣な顔で俺に語り続けた。


「そう! 【神速】は、凄いスキルですよ! 高速移動! 高速回避! 高速認識! 高速攻撃! しかし、残念なのは……」


「何か欠点があるのか?」


「はい。夜に発動すると……、その女性とまぐわう時は……、【神速】だけに、残念な事になります」


 俺の中でサクラの株がダダ下がりになった。

 もう、サキュバス職ではないと思うので、そっち方向に話を持って行く必要はないのだが……。


 いや! 知識があるのは貴重だ。

 多少のエロ度は、むしろ歓迎する位の大人な気持ちを俺が持てば良いのだ!


「……注意喚起ありがとう。この世界では、まだ未経験だから、その時が来たら気を付けるよ。これからもよろしく」


「はい! よろしくお願いします!」



 夜はすっかり明けていた。

 もうすぐチアキママとセレーネも起きてくるだろう。

 俺とサクラは、手早く今後の事を打ち合わせた。



 *



 それからは、俺とサクラのでっち上げた強引なシナリオで事を進めた。


 まずサクラは、鳥系の獣人と言う設定にした。

 さすがに悪魔がパーティーに加わるのはまずい。


 かといって、背中に羽があるから、人間として押し通す訳にもいかない。

 そこで、鳥系獣人の設定ですよ!


 サクラは、家族のいない天涯孤独の身で、旅をしている途中で具合が悪くなった。

 そこを早朝訓練をしていた俺が偶然見つけた。


 具合の悪いサクラを俺が家に担ぎ込み、チアキママのポーションを飲ませる。

 回復したサクラは、恩義に感じて俺のダンジョン探索を手伝う事になった。


 と言うシナリオで、芝居を打った。

 俺もサクラも芝居が下手だったが、なんとかチアキママにも、セレーネにも納得してもらえた。


 ひょっとしたら、サクラが何か洗脳するようなスキルを使ったのかもしれない。


 続いて冒険者ギルドでも受付のジュリさんに事情を説明だ。

 すんなりとサクラの冒険者登録が通った。


 ここで俺の疑惑が、確信に変わった。

 サクラは、スキルや他の力を俺に隠している。


 俺がサクラに許可を取って【鑑定】させてもらったステータスと冒険者ギルドのステータスボードに表示されたステータスが違ったのだ。



<俺が鑑定したサクラのステータス>


 -------------------


 ◆基本ステータス◆


 名前:サクラ

 年齢:不明

 性別:女

 種族:悪魔族


 LV: 1

 HP: 5000/5000

 MP: 10000/20000

 パワー:1000

 持久力:1000

 素早さ:1000

 魔力: 1000

 知力: 1000

 器用: 1000


 ◆スキル◆

【意識潜入】【実体化】【飛行】

【スリープ(無属性魔法)】


 ◆装備◆

 制服(防御力+500 魔法防御力+500)


 ◆アイテム◆

 なし


 -------------------



 こんな感じのデタラメなステータスだ。

 MP2万ってなんだよ!


 どうやら実体化で、MPを1万消費しているらしい。

 それ以外の数値も突っ込みどころ満載だ。


「どういうステータスだよ!」


 と、サクラに噛みついてみたが。


「悪魔ですから~」


 の一言で、かわされてしまった。


 それで、スキルは3つ。使える魔法は1つ。

 相手を睡眠状態にする無属性魔法の【スリープ】が使えるそうだ。


 そして、制服のデタラメな防御力……。

 ボルツ工房の職人が見たら、卒倒してしまう。


 悪魔とは言え女性に年齢を聞くのは失礼だと思ったので、年齢が不明な点はスルーした。



 で、冒険者ギルドでステータスボードに表示されたステータスがこれ。



<冒険者ギルドで表示されたサクラのステータス>


 -------------------


 ◆基本ステータス◆


 名前:サクラ

 年齢:16才

 性別:女

 種族:獣人


 LV: 1

 HP: 100/100

 MP: 100/100

 パワー:50

 持久力:50

 素早さ:50

 魔力: 100

 知力: 100

 器用: 50


 ◆スキル◆

【スリープ(無属性魔法)】


 ◆装備◆

 なし


 ◆アイテム◆

 なし


 -------------------



 まあ、新人としては優秀なステータスだが、俺が【鑑定】したステータスよりも大幅に下げて表示されている。


 スキルは魔法1つだけだし、装備もなしになっている。

 年齢は16才で……、これは制服に合わせたのだろう。

 種族は、俺と打ち合わせたシナリオ通りの獣人になっている。



 たぶん、サクラが隠蔽系のスキルか魔法でも使って、ステータス表示を誤魔化したのだろう。

 そうでなければ、2つのステータスに差があり過ぎておかしい。


 俺と同じで、裏のステータス画面があるのかもしれない。

 そっちに色々なスキルを隠し持っていそうだ。


 こうなると、俺が最初に【鑑定】したステータスでさえ、本当かどうかわからない。



 俺は冒険者ギルドの受付カウンターに座って、そんな事を考えていた。

 セレーネは俺の右に座って、静かにしている。


 俺の左にサクラが座り、受付のジュリさんに冒険者登録時の説明を受けている。

 フンフンと熱心に話を聞いている。


 すると突然サクラの声が、俺の頭の中に響いた。


(ヒロトさん。周囲警戒をお願いします)


 どうやらサクラが、俺に【意識潜入】して、話しかけている様だ。

 俺は、そのままの姿勢で、表情を変えずに、心の中でサクラに返事をする。


(周囲? 警戒? 何か起こりそうなのか?)


(はい。ガラの悪い冒険者が、こっちの様子を伺ってます。左後ろ。男3名、14、5才です)


 俺は、のびをする芝居をして、左後ろをチェックした。


 あれか!


 顔を見た事のある冒険者3人が、俺たちをジッと見ている。

 俺よりも少し年上だ。


 確か……。

 冒険者登録が同じ時期だったと思う。


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