第19話 ヒロトのパーティー(仮)結成

 エルフのアーチャー、セレーネに声をかけて、一緒にダンジョンに潜った。

 だが、セレーネは今日がダンジョン初日で、冒険者ギルド未登録、持っていたロングボウは使えない、と言ったひどい状態だった。


 セレーネに色々話を聞かなかった俺の確認ミスだ。

 俺はすぐに師匠とセレーネとダンジョンを出で、武器屋に向かった。


 武器屋でセレーネの弓と矢を購入した。

 セレーネはお金を持ってないと言うので、俺が出した。


 木製の弓で矢とセットで、5万ゴルドだ。

 これが一番安かった。


 昨日、鎧と道具屋で細々した物を買ったので、残りは2万ゴルドと小銭が少々だ。

 予想外の出費が痛い……。


 次にギルドへ向かう事にした。

 ギルドへ向かう間に、俺はセレーネから話を聞く事にした。


「セレーネ、色々と事情を聴きたいんだけど良いかな?」


「はい! 何でも聞いて下さい!」


 セレーネは、俺に弓矢を買って貰ったので、かなりご機嫌だ。

 ロングボウは、師匠のマジックバッグに入れてもらっている。セレーネのお父さんの物らしい。

 セレーネは、新しい弓を嬉しそうに笑顔で何度も引いている。


「弓は、どの位使えるのかな?」


「お父さんと山で狩りをしていたから、ウサギ、鹿は、弓で仕留められます」


「へえ、じゃあ、解体も出来る?」


「出来ますよ! お父さんの手伝いで良くやってました!」


 これは良いな。

 俺が解体に慣れるまでは、セレーネに解体をお願いしてしまおう。

 男の威厳とかは、この際どこかに置いておこう。


「それで、お父さんはどうしたの?」


「半年前に旅に出ました」


「え!?」


「半年前に王都に行くって出かけたんですけど、それから帰って来ないんですよ~」


「お母さんは?」


「違う国に住んでいるそうです」


 なんだろう。セレーネの家は、何か深い事情でも抱えているのか?

 俺はかなり心配に思えたのだが、セレーネは、あっけらかんとした様子で話を続けた。


「それで父が残していったお金はなくなっちゃうし、猟に出たら弓が壊れちゃうしで困っちゃいました」


「それでダンジョンで稼ごうと?」


「はい。昔、父からルドルの街にダンジョンがあって、お金が稼げると聞いてたんですよ。家から3日かけて来ました」


「そうなんだ」


 3日と言うと相当な距離だ。

 セレーネは、街から離れた山の中に住んでいたのかもしれないな。


 しかし、なんだろう?

 お父さんがいなくなって、お母さんが違う国に住んでいるのに、本人に悲壮感がないと言うか……。

 まったく気にしていない様に見える。


「ヒロトやダグさんに会えて良かった~!」


 いたって明るいセレーネを見て俺が首をかしげていると、師匠がわかりやすくエルフの感覚を教えてくれた。


「ヒロト、エルフはな、千年生きると言われてる」


「それ、聞いた事あります」


「だからだと思うが、なかには物凄いのんびりした奴もいてな。1年が俺達の1週間位の感覚だったりするんだ」


「あー、だから半年お父さんがいなくても、あまり心配してないのか……」


「だと思う。お母さんがいないのも、その内また会える位の感じなんじゃないかな」


 なるほどね。



 ギルドでジュリさんに、セレーネの冒険者登録をしてもらった。

 セレーネは、Fランク冒険者になった。

 首から下げた木のギルドカードを珍しそうに、手にもって眺めている。


 ジュリさんに、パーティー登録も奨められた。


「パーティー登録した方が、色々良いわよ」


「魔物を倒した経験値が、パーティーメンバー全員に行きわたるんですよね?」


「そう。それと、ギルドからの仕事依頼も増えるわよ。個人NG、パーティーOKの仕事依頼も多いのよ」


 それはデカイな。

 冒険者ランクを上げる為にも、仕事の選択肢は多い方が良い。


「じゃあ、パーティー登録をお願いします」


「じゃあ、登録料で銀貨1枚、1万ゴルドね」


「ええ! お金かかるんですか? 冒険者登録はタダですよね」


「そうよ~。でも、パーティー登録は有料なの。リーダーにパーティー編成のスキルを付与するからよ」


 ジュリさんは、登録書類と魔方陣と呪文の書いてある用紙を取り出した。

 残り資金は、あと銀貨2枚、2万ゴルドなんだが……。


 かといって、セレーネには弓矢を買ってしまったし、彼女は解体が出来るので、パーティーを組まないと言う選択肢はない。

 仕方ない。

 これはもう、先行投資と割り切ろう。


 俺は銀貨1枚、1万ゴルドをジュリさんに渡した。


「はい、ありがとう。じゃあ、パーティーのリーダはヒロト君で、メンバーはセレーネちゃんね。パーティー名はどうする?」


 しまった! それ全然考えてなかった。

 名前ねぇ……。


「空欄じゃだめですか?」


「空欄はダメ。みんなカッコイイ名前を付けるわよ」


「そーですよね……」


 困ったな。

 俺は、ネーミングセンスなしだ。


「名前は後で変えられるわよ。仮で、ヒロトのパーティー、で登録しておくわね」


「そうですね。それでお願いします」


 ジュリさんは、俺が迷っている様子を見て提案してくれた。

 そしてジュリさんは、登録用紙に『ヒロトのパーティー(仮)』と記入した。


(仮)って……。カッコイイ名前を早く考えよう。


 こういう時に相談をしたいセレーネと師匠は、ロビーでお茶してる。

 面倒は事務手続きは、俺任せらしい。

 何か……、役割分担が早くも決まってしまった。仕方ない。


「じゃ、ヒロト君、ここにサインして。そう。それから、ここに手を載せてね」


 俺は、魔方陣の書いてある紙にサインをして、紙に手を載せた。

 魔方陣が淡く光を放って消えた。


「ヒロト君、ステータス確認をして。スキルに【パーティー編成】が付いてる?」


 俺はステータス画面を確認すると、スキルに【パーティー編成】が表示された。

 どうやら紙に書いてある魔方陣が、スキルを付与する様だ。


「【パーティー編成】付いてます」


「それじゃあ、説明するわよ……」


 それから俺はジュリさんから、スキル【パーティー編成】の説明を受けた。

 要点をまとめると……。


 ・パーティー編成は、微弱な魔力を消費する。

 ・MPに影響はない。

 ・メンバーがリーダーから遠く離れると、自動でパーティーから外される。

 ・外れる距離は不明。同じダンジョンの中、同じ街の中なら大丈夫。

 ・パーティー編成は6人まで。

 ・7人以上のパーティー編成もギルドで出来る。追加1人あたり20万ゴルド費用がかかる。


 冒険者ギルドは、何かにつけて金取るよね~。

 まあ、いいんだけど。


「これで、パーティー登録手続きは終わり。がんばってね!」


 と言う訳で、俺のパーティーがスタートした。



 *



 ギルドから、またダンジョンに戻って来た。

 ギルドに入る時に10の鐘(午前10時)が鳴っていた。

 通常ルートで、一気に3階層まで降りて来た。


 3階層でも人が多い。階段近くは混んでいる。

 俺達は、10分程歩いて人のいない場所に来た。

 今日はここでホーンラッビットを狩る。


「じゃあ、今日はここら辺りで、ホーンラビットを狩ります。まず、セレーネの腕前を見せて貰って、次にセレーネの冒険者ランク昇格が今日の目標です」


 FランクからEランクの昇格条件は、魔物10匹の討伐だ。

 チーズレーショントラップが、ホーンラビットにも使えると師匠が言っていた。

 セレーネの腕さえ良ければ、今日中に10匹討伐は行けると思う。


 チーズレーションは、昨日道具屋で仕入れておいた。

 一緒に買った布製のショルダーバッグから、俺はチーズレーションを取り出した。


 タミーマウスを狩った時と同じ要領で、チーズレーションを砕いて、T字路にばら撒く。

 T字路の中心に、チーズレーションを置いて、通路に師匠とセレーネと3人で隠れた。


 師匠は頭の後ろに腕を組んで、黙って俺に任せてくれている。

 引き続き俺が指揮を取ろう。


「じゃあ、セレーネ。ホーンラビットがチーズレーションをかじり出したら、ここから矢を放ってね。矢で倒しきれなかったら、俺が飛び込んでトドメを刺すからね」


「はーい!」


 緊張感のないノンビリした返事が返って来た。

 猟をしていたと言っていたけど、大丈夫なのかな?


 10分位で、ホーンラビットが現れた。

 中型犬位の茶色い大きなウサギだ。

 額に1本ドリルの様な太く短い角が付いている。

 魔物だからなのか、目付きが鋭い。


 ホーンラビットは、チーズレーションに気を取られて、俺達には気が付いていない。

 セレーネを見ると、今までと別人の様に引き締まった表情をしている。


 セレーネは、片膝立ちで左手に弓、右手に矢を持って、ホーンラビットをジッと見ている。

 セレーネの落ち着いた様子だと、俺の指示は必要ない。

 俺はいつ矢を射るのか、黙って見ていた。


 セレーネは、静かに弓に矢をつがえると、かなりの早さで弓を引いて、矢を放った。

 まっすぐに飛んだ矢は、ホーンラビットの胴体に命中した。


「キュ……」


 ホーラビットが、一声鳴いて倒れた。

 セレーネが、すぐにホーンラビットに駆け寄って、絶命を確認した。


 ホーンラビットから、カードが浮き上がえり俺の方に飛んできた。

 どうやらパーティーメンバーが、魔物を倒してもカードが貰えるらしい。


「すげえ……。一撃だ……」


 俺は、セレーネの弓の技術に度肝を抜かれた。

 師匠が横に来て、解説を始める。


「弓を引いてから放つまでが早いな。それに一連の動作が静かだ。あれなら獲物を逃がさないだろう」


「あれでLV1ですよ……」


「将来超有望だな! いい子をパーティーに誘えたな!」


 本当にそうだ。

 矢を放つ時は、普段と雰囲気も違っていた。

 たぶん、猟師のスイッチが入るんだろうな。

 セレーネが、こっちを向いて厳しい声で俺を呼んだ。


「ヒロト! 運ぶから手伝って!」


「はい、はーい」


 俺は、ホーンラビットを隠れていた通路に運び込んだ。

 結構重い。


 その間にセレーネは、ダンジョンの壁に金属製のクギを打ち付けていた。

 解体用のナイフでホーンラビットの頭を落すと、打ち付けたクギにロープかけて、あっと言う間に、血抜きを始めた。


「ヒロトは、次の罠を用意して。血抜きしている間に、もう一匹狙いましょう」


「ああ、はい」


 なんか立場が逆転して、俺が指示を受ける方になってしまった。

 さすがに狩りとなると、テキパキしていて段取りが良い。

 ここはお任せしてしまおう。


「じゃあ、ここは任せて良さそうだな。ちょっと出て戻って来る」


 師匠は一人で出かけて行った。

 俺とセレーネはまた通路に隠れて、ホーンラビットを待つ。

 次の獲物は、15分位して現れた。


 セレーネは、まだスイッチが入ったままだ。

 引き締まった表情でチーズレーションをかじるホーンラビットを見ている。


 再び、静かに素早く、矢がホーンラビットに放たれた。

 矢を受けたホーンラビットは、声もなく倒れた。


 また一撃だ。

 すげえ。


「ヒロト~運んで~」


「はーい」


 俺はセレーネの指示で2匹目のホーンラビットを通路に運び込んだ。

 もちろん、ホーンラビットのカードは、俺に吸い込まれている。


「セレーネ、ダンジョンの中は30分位で倒した魔物が床に吸い込まれるよ」


「じゃあ、最初に血抜きしたのは、解体しちゃおっか。そっちは、吊るすから」


 セレーネは淡々と、2匹目のホーンラビットの首を落してクギに吊るした。


「ヒロト、ここを抑えて」


「ああ、はい」


 1匹目の解体が始まった。

 セレーネは、自前のナイフでテキパキとホーンラビットを解体していく。

 俺は解体のお手伝いで、ホーンラビットをなるたけ見ないようにしていた。

 解体中はグロイんだよ……。


「ヒロト、売れる部位は?」


「肉、毛皮、魔石だよ」


「魔石?」


「魔力がこもった丸い石。だいたい魔物の心臓近くにある」


 セレーネは、迷いなくホーンラビットの胴体に手を突っ込むと、魔石を取り出した。


「これ? きれいな石ね」


「そうそう。これが魔道具の燃料代わりになったり、魔道具の材料になったりするんだ」


「へー、普通のウサギとは、やっぱり違うね」


 俺はセレーネから魔石を受け取り、血を拭きとって、ショルダーバッグにしまった。

 セレーネは、淡々とホーンラビットを解体して、毛皮と肉に切り分けた。


 続けて2匹目も解体して、通路はホーンラビットの血や解体で出た臓物でなかなかグロイ事になっていた。


 毛皮と肉は、用意しておいた布袋に別々に入れた。

 こうするとダンジョンに吸い込まれないらしい。


 2匹を解体するのに、3、40分くらいかかった。

 毛皮と肉を布袋にしまった所で、師匠が戻って来た。


「そろそろ、お昼にしようぜ! 外で買って来たぞ!」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る