第18話 エルフの少女 セレーネ

 昨日の1人ダンジョン探索は、謎の双子の少女に出会って怖かった。

 しばらくこの件は、俺だけの秘密にしておく事にした。


 今日から又、師匠が一緒にダンジョンに入ってくれる。

 俺は8の鐘(朝8時)が鳴る前に、いつもの待ち合わせ場所、ダンジョンの入り口に来た。


 辺りを見回すと、1人気になる女の子を見つけた。


 俺と同い年位、日本なら小学6年生位の子だ。

 きれいな女の子で耳が尖っていて長い。

 サラサラの金髪の長い髪、少し銀色がかって見えるプラチナブロンドだ。

 成長しきってない体に不釣り合いな大きな弓、ロングボウを持っている。


 彼女は、たぶん、エルフなんだと思う。

 ルドルの街は、人間が多いのでエルフは珍しい。

 それにルドルでは、アーチャーをほとんど見かけない。


 美少女がダンジョンの入り口に1人で立っているので、かなり目立っている。

 通り過ぎる冒険者たちは、彼女をチラッと見てそのまま素通りして行く。


 彼女は困った顔をしている。

 冒険者に声を掛けようとしたり、イカツイ冒険者には目を合わさないようにしている。


 待ち合わせではなさそうだ。

 俺は何となく気になって、エルフの美少女をスキルで【鑑定】してみる事にした。


 冒険者を【鑑定】するのは、マナー違反だ。

 荒事の多い冒険者は、自分のステータス値やスキルを見せたがらない。

 イザと言う時の為に、自分の強さや戦闘技術は隠しておきたいのだ。


 それに【鑑定】は、スキル【気配察知】を持っている相手にバレる事がある。

 冒険者を鑑定するのは、気を付けろと師匠に言われていた。

 だけど、あの子ならまだ子供だから、スキル【気配察知】は持っていないだろう。


「【鑑定】……」



 -------------------


 ◆基本ステータス◆


 名前:セレーネ

 年齢:12才

 性別:女

 種族:エルフ族


 LV:  1

 HP: 10/10

 MP:  5/5

 パワー: 5

 持久力:10

 素早さ:12

 魔力: 10

 知力: 40

 器用: 70


 ◆スキル◆

【風の精霊の加護】

【弓術(初級)】


 ◆装備◆

 エルフのロングボウ 攻撃力+100


 エルフの服 防御力+5 魔法防御+5


 ◆アイテム◆

 なし


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 すごい!


 器用が70で、スキル【弓術(初級)】持ち。

 器用の数値が高いと、弓矢での攻撃力が増す。

 エルフのロングボウ 攻撃力+100と合わさると、どれだけ威力が出るのだろう。


 それに、【風の精霊の加護】、って凄そうなのも付いている。

 彼女と一緒に組めないかな?


「よう! ルーキー! おはよう!」


 師匠が、ちょうど8の鐘(朝8時)ピッタリにやって来た。

 師匠に相談しよう。


「師匠、おはようございます! ちょっとご相談があります」


「おう! どうした?」


「あそこのエルフの女の子と一緒に組みたいのですが、どうでしょう?」


 師匠は、チラッとエルフの子を見ると、ニンマリと笑った。

 イカン! 師匠は完ぺきに誤解している!


「そーか、そーか、ヒロトは、ああいう感じが好みなのか! 俺に似て面食いだな……」


 俺は師匠の誤解をスルーして、話を進めた。


「【鑑定】したら、ステータスが良いんです。レベル1なのに、器用が70、スキル【弓術】を持ってます。【風の精霊の加護】と言うのもスキルにあります」


 師匠は、驚いた顔をして改めて彼女を見た。


「なるほど……。将来、超有望だな」


「はい。パーティーを組む相手にとしては、願ったりです」


 師匠から、一緒にダンジョンを探索する仲間、パーティーを組む相手を探すように言われている。

 だが、俺は冒険者登録をしてから半年Fランとして、ルート仕事ばかりしていた。

 この街には、仲間もいなければ、友人もいない。


 ボッチである。


 パーティーを組みたくても、組んでくれる相手がいないのだ。

 低階層なら一人でも大丈夫だけど、下の階層に行くなら誰かとパーティーを組んで戦力アップしないと無理だ。


 あのエルフの子は何か事情がある様子だが、ステータスは優秀だ。

 おまけに美形! その方面でも将来有望だ!

 ぜひ、一緒に組みたい。


 ん? シンディはどうしたって?

 それはそれ。これはこれ。別腹ってヤツで……。


「よし! ヒロト! 声をかけろ!」


 師匠は俺の背中を強く叩いた。

 なんかナンパみたいで、嫌なんだよな~。


「あの~師匠が、声をかけてくれないですかね?」


「何を言ってるんだ! オマエのパーティーメンバーになるんだぞ。オマエが誘わなくてどうするんだ? しっかりしろ!」


 ですよね~。

 これからこう言う機会が増えるだろうし、見ず知らずの人を勧誘するのに慣れなきゃな。


 そう、これはあくまでも仕事なのだ!

 断じてナンパなどではない!

 やましい気持ちはない!

 たぶん……。


 俺はエルフの女の子に声を掛ける事にした。

 俺が近寄ると彼女はこちらを見た。ちょっと警戒しているようだ。


「あの、俺、ヒロトです。Eランク冒険者です」


 首から下げたギルドカードを見せながら、俺は相手を安心させる為に、ゆっくり話しかけた。


「突然、声をかけてごめんね。俺はこれから師匠とダンジョンに入って、3階層を探索する予定なんだ」


「師匠? 大人が一緒なの?」


「うん。こちらが俺の師匠のダグ、神速のダグです」


 俺は師匠をエルフの子に紹介した。

 師匠は片手を上げて、軽く彼女に挨拶をした。


 彼女は師匠を見ると目をパチクリさせた。


「あの有名な冒険者の?」


 ああ、良かった。

 彼女は師匠の事を知っていて、師匠を尊敬する目で見ている。


 こちらを信用してくれたろう。

 ここでグイッっと押そう。


「ダンジョンに入る相手を探してるなら、一緒にどう?」


 彼女は、パーッと笑顔になって、嬉しそうに答えた。

 この子は笑顔になると、美形顔から可愛い系になるんだな。


「はい! お願いします! わたしは、セレーネです!」


 よし!

 エルフのアーチャーをゲットいたしました!

 これで戦力アップ!



「で、ヒロト、今日はこれからどうする?」


 師匠が、とぼけた顔で聞いてきた。

 ああ、俺がリーダーになるから、俺が行動を決めろって事なんだろうな。

 そうだな、それなら……。


「まずは、セレーネの腕を確認したいです。1階層でスライムをセレーネに倒してもらいます」


「うん。いいんじゃねーか」


「じゃあ、行きましょう」


 俺達3人は、ルドルのダンジョンに入った。

 1階層は、相変わらず混み合っていたので、広場から左の方へ進んだ。


 しばらくすると赤スライムが、ヒョコヒョコと目の前を横切った。


「セレーネ、あのスライムを射……」


 俺は話の途中で息を飲んだ。

 振り返ってセレーネに声をかけると、セレーネはロングボウに矢をつがえて、弓を引こうとしていた。


 しかし、セレーネは、まだ12才だ。

 大きなロングボウを引くには、力が足りない。


 セレーネは、引こうとしても、引けないロングボウを持って、左へ右へとフラフラしていた。

 矢を、つがえたままだ。


「ううううう!」


 セレーネが目をつぶって力を振り絞り、ロングボウを引こうとしている。

 だが、矢は俺の方を向いている。

 ロングボウの攻撃力は、100だ。

 直撃したらひとたまりもない。


「ストップ! ストーップ!」


「えーい!」


 セレーネが、矢を放った。

 だが、きちんとロングボウを、引けていなかったのだろう。

 カランカランと乾いた音をして、矢はダンジョンの床に落ちた。


 いや、ホント、ビックリした!

 死ぬかと思った!


「ああ~、ごめんなさ~い!」


 セレーネが、顔を真っ赤にして謝って来た。

 師匠は少し離れた所に、いつの間にか避難して腹を抱えて笑っている。


「ええっと、セレーネ?」


「ヒロト、ごめんなさい。わたしこの弓を使うの今日が初めてなんです!」


「ええ! 普段使ってる弓は?」


「先月、山で猟をしている時に、壊してしまって……」


「ん? じゃあ……、ひょっとして……。ダンジョンは、今日が初めて?」


「はい」


 しまった。そうだったのか。

 もっと最初に話をちゃんと聞いておくべきだった。


 くそう! 師匠め!

 こうなる事を、読んでいたな。

 それで、ダンジョンの入り口で、あんなすっとぼけた顔をしてたんだな。


「……セレーネ、冒険者ギルドに登録は?」


「ギルドって何ですか?」


 あかん、そこからなのか……。


 俺は新たにパーティーメンバーを得た。

 だが、将来有望なエルフのアーチャーは、かなり天然キャラらしい。


 大丈夫なのか?


 俺は一度地上に戻る事にした。

 師匠はよほど面白かったらしく、地上に戻っても笑っていた。

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