第16話 ブルーベリースライムと双子の少女

 俺はルドルのダンジョン1階層の探索を続ける事にした。

 今は2の鐘が鳴った頃、午後2時頃だから、まだ2、3時間は探索したい。


「今度はダンジョンの入り口から見て、右の奥の方へ行ってみよう」


 俺は、【マッピング】スキルで現在地を確認して、空白地帯、ダンジョンの入り口から見て右の奥へ進んだ。


 さっきのストロベリースライムは美味しかった!

 スキルカード+幸運の指輪は、嬉しかったな。

 魔石は値段が付くのかわからないけど、珍しいスライムの魔石だから記念に持っていても良い。


 1人で通路を歩き続けている。

 周りに人はいない。

 この辺りは地図にのっていない1階層でも深いところだから誰も来ない。


 移動スピード重視なので、魔物との交戦は避けている。

 見かけるスライムは赤スライムばかり。

 さっきのストロベリースライムは、かなりレアな魔物だったのだろう。


 20分くらい歩いて、中央付近に差し掛かって来た。

 出現する魔物が変わって、青スライムが出て来た。

 ここでも戦闘は行わず探索のスピードを上げる。


 もう、ダンジョン内の怖さはない。

 ストロベリースライムでテンションが上がっている。

 ワクワク感が強い。


 だが、一人でひたすら歩くのはキツイので、独り言を続行している。


「さっきのストロベリースライムは、リポップするのか?」


 そこがちょっと気になっている。

 ダンジョン内の魔物は、リポップ、倒されてもしばらく時間が経つと再び自然発生する。

 なぜリポップするのか、原因やメカニズムはわかっていない。


 一説によると……。

 ダンジョン自体が生き物で、人間をエサにしている。

 エサを呼び集める為に、宝物やら魔物やらをダンジョンは生み出している。

 だから魔物は倒しても、また人間を呼び集める為、人間を倒す為にダンジョンが魔力を使ってリポップさせている。


「そんな説もあるけど……。初回だけのドロップアイテムも、あるらしいしな~」


 そう、ダンジョンによっては、初回突破の時だけドロップするアイテムがあるらしい。

 さっきの説に準じて考えれば……。


 ダンジョンは沢山人を呼び寄せたい。

 呼び寄せてダンジョン内で殺してエサにしたい。


 その為には、美味しいアイテムを初回だけドロップするようにして、人間同士を競わせる。

 そうすれば、新しいダンジョンでも、深い未踏の階層でも、人間が必ず集まってくる。


「そう考えると、ストロベリースライムは、初回だけじゃないかな……」


 幸運の指輪ドロップは、1階層としては随分良いドロップじゃないだろうか?

 それともこの世界のダンジョンは、気前が良いのか?


 俺はそんな事を考えながら、ブツブツと独り言をつぶやきながら、ダンジョンをひたすら早足で歩いた。

 一時間位歩いて、かなり右の奥に入って来た気がする。

 出て来る魔物は相変わらず青スライムだ。


「あ! いた!」


 見つけた!

 青スライムとは、ちょっと違った濃い青色のスライムがいた。

 寝ているのか、じっとして動かない。


「【鑑定】……」



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 ブルーベリースライム


 HP: 2/2

 MP: -

 パワー:-

 持久力:-

 素早さ:-

 魔力: -

 知力: -

 器用: -


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「やっぱり弱!」


 これ間違いないな。

 さっきのストロベリースライムみたいな感じで、レアなヤツだろう。


「さて、倒しますか……」


 ジッと動かないブルーベリースライムを倒すのは、何か申し訳ない様な気もする。

 でも、コイツみたいなレアな魔物を見つけるのも、ダンジョンを探索する目的だからな。

 やらねば。


 俺はショートソードを抜いて、ブルーベリースライムを上から刺した。

 やはり、あっけなく、たった1回の攻撃で倒せた。


「頼むからもうちょっと強くなってくれ……。弱い者いじめ感がすごくある」


 液体化したブルーベリースライムから、カードが現れて俺に吸収された。

 濃い青色の魔石の横に、魔石と同じ濃い青色の石の付いた銀の指輪が落ちていた。

 指輪と魔石を回収する。


「確認しますか、まずはカードから」


 俺はステータス画面を裏返して、カード欄を見た。



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 ◆スキルカード◆

【夜目】×1


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 夜目が効くようになるのかな。

 あー、ブルーベリーだから目……、なのか。

 ダンジョン内は明るいから必要ないスキルのような気もするけれど……。


 まあ、【夜目】は野外で使えるし、スキルは多い方が良いよな。

 早速、このカードを使ってしまおう。


 カードを押す。

 メッセージが表示された。



『カード【夜目】を使って、スキル【夜目】を得ますか?

 YES / NO』



 YESだ。



『【夜目】がスキルに追加されました』



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 ◆スキル◆

【鑑定(上級)】【マッピング】【剣術(初級)】【罠作成】【忍び足】

【ドロップ率上昇(小)】new!

【夜目】new!


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 指輪はどうだろう?


「【鑑定】……」



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 幸運の指輪 幸運上昇(小)


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 指輪はストロベリースライムと同じ幸運の指輪だ。

 石が青だから、色違いバージョンだな。


 この指輪は師匠にプレゼントしよう。

 師匠なら指輪付けてても、似合いそうだし、青色なら男性用にしても良いだろう。


「ふふ、これでチアキママも、師匠も喜んでくれるな」


 俺はチアキママと師匠の喜ぶ笑顔を想像して、ニヤニヤっと笑った。




 その時、突然、後ろから、声を掛けられた。




「何が嬉しいの?」

「何が嬉しいの?」




 俺は振り向いた。

 ありえない。


 ここは1階層とは言え、地図にはのってない深い場所だ。

 なのに俺の目の前には、二人の子供、双子の女の子が立っている。


 いや、俺だって12才だから子供なのだが……。

 目の前にいるのは、小学生1、2年生くらいの小さな女の子だ。


 それも上品で柔らかそうな黒のドレスを来て、武器も防具も持っていない。

 赤い靴に、カールしてちゃんとセットしていそうな髪。

 この世界に転生してから、こんな身なりの良い子供は初めて見た。

 ダンジョンに来る格好じゃない。


 いや、それよりも。


 なぜ、ここにいる?

 どうやって、ここまで来た?


「どうしたの?」

「どうしたの?」


 二人は、同時に、同じ声、同じ口調で、完璧にシンクロして俺に話しかけて来た。

 二人とも無表情なのが怖い。


 俺は、声を出そうとしたが、あまりにも驚いてしまい声が出なかった。

 いるはずのない場所に、いるはずのない人物がいる。

 これは、新しいスキル【夜目】を獲得した影響で、幻でも見ているのだろうか?


「聞いているの?」

「聞いているの?」


 二人は、また話しかけて来た。

 俺は何とか返事をした。


「聞こえてるよ……」


 俺の声は、かすれていて、今まで聞いた事のない低い声だった。

 いったいどこから自分の声が出ているんだ?

 とにかく、この状況に俺の心と体は、参ってしまったらしい。


「そう、良かった。ついて来て」

「そう、良かった。ついて来て」


 そういうと二人は、走り出した。

 俺は慌てて二人の後を追った。


 二人はダンジョンの中を、小走りに、タタタタと、駆け抜けていく。

 小さい子供の走り方、歩幅の小さい、チョコマカとした走り方だ。


 なのに俺は追いつけない。

 さっきから全力で走って後を追っているのに、追いつけない。


 それどころか、少しづつ離されている。

 どういう事だ?


 向かっているのは、さらに奥の方だ。

 ダンジョンの入り口から見ると右方向のずーっと奥の方へ、少女二人は走って行く。


 俺は息が切れて来た。

 たぶん、10分か、15分くらい走ったのだと思う。



 そこには、階段があった。



 下の階層へと続く階段があり、階段の脇で少女二人は立ち止まって、ジッと俺の方を見ている。

 俺は息を切らして、二人が待つ階段の前にたどり着いた。


 今日は手ぶらで来ている。

 水筒を持ってきていない。

 喉が渇いた。


「この階段は下に続いている」


 右側に立つ少女が、一人で俺に話しかけて来た。

 俺は激しく息をしながら、彼女に答えた。


「あ、ああ。新しい階段だね」


「下にはブルーベリースライムよりも、良いのがいる。幸運の指輪より良い物がある」


 なぜ知ってる!?

 いや、後ろから見ていたのか?

 すると左側の少女が話しかけて来た。


「あちらの階段は知っている?」


 少女はヒロトルートの階段の方を指している。

 俺は警戒しながらも、小女に答えた。


「ああ、もう一つ、下に続く階段がある」


「下にはストロベリースライムよりも、良いのがいる。幸運の指輪より良い物がある」


 ちょっと待て!

 その事も、なぜ知っている!?


「君達は……、いったい?」


 俺は荒い呼吸の中から絞り出すように、声を出した。

 俺の質問に二人はジッとこちらを見ている。

 二人の表情からは何も読みとれない。


「帰り道はわかる?」

「帰り道はわかる?」


 また、二人同時に質問して来た。

 感情を感じさせない淡々とした喋り方、こいつら何者なんだ?


 ジッと二人を観察するが、何もわからない。

 俺は無言でコクリとうなずいた。


「すぐそこに水場がある」

「すぐそこに水場がある」


 二人は一本の通路を指さした。

 俺はその通路の方を見た。

 水が湧き出る音が、通路の先から聞こえる。


 二人に視線を戻すと、そこに二人の少女はいなかった。

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