第9話 続けてダンジョン探索

「よーし、まだ2の鐘だろ。探索を続けるぞ」


 2の鐘。2時の事だ。

 この世界でも時間は日本と同じ。

 2時間おきに役所の鐘が鳴るので時間がわかる。


「師匠、2階層におりますか?」


「いや、今日は1階層だ。2階層は、また明日にしよう」


 新発見の階段を下りてみたい気もしたけれど。

 まあ、また今度でもイイか。

【マッピング】スキルが付いたから、いつでも迷わず来られる。


 師匠が腰のウエストポーチから、チーズ味のレーションを出して渡してくれた。

 二人でボリボリとチーズレーションを食べながら、探索を続ける。


 師匠のウエストポーチは、魔道具のマジックバックだ。

 マジックバッグは、見かけが小さくても荷物が大量に入る。

 便利なんだが、値段が高い。

 たぶん、100万ゴルドとかだ。


「そういやヒロト。剣の使い方が気になってたんだが……、力が入り過ぎだ。もっと力を抜いた方がいいな……」


 今度は師匠が剣の使い方を教えてくれた。

 今まで俺は自己流で、ギュッっとしっかり握って剣を振っていた。

 そうではなく、楽に握ってインパクトの瞬間握り込む感じらしい。


 突きもステップを使って、体重移動を突きに生かす。

 横払いは、大きく牽制するように振れば、複数の敵でも近づけない。

 などなど、腕力に頼らない剣技を教えて貰った。


「師匠、凄い剣が振りやすいです。力はあまり使わないですね」


「そうか! あとは戦闘回数をこなして実戦慣れすればオッケーだ」


 俺は歩きながら剣を振り、師匠に教わった動きを体に刷り込ませた。


「あ! ヒロト、ちょっと待て!」


 師匠が立ち止まって、壁をコンコンと叩いてる。

 何だろ?


 師匠がニンマリと笑った。


「これ、隠し扉だぜ!」


「隠し扉!?」


 おお!

 じゃあ、中には、財宝とか? 宝箱とか? 秘密のアイテムとか?

 すっごい楽しみ!


「師匠! 中は何ですかね?」


「さーて、お楽しみ! 開けるぞ!」


 師匠がダンジョンの石壁をゆっくりと両手で押した。

 忍者屋敷みたいに、壁がクルリと回った。

 俺は師匠と一緒に中に入った。


「あ……」


「おお! ヒロト! ラッキーだな!」


 しまった……。

 ここは、モンスターハウス。

 魔物の溜まり場だ。


 バレーボールコートくらいの広さの部屋に、赤いスライムがうねうねと沢山いる。

 50匹? 100匹はいないと思うけど、とにかく多い。


「師匠、モンスターハウスじゃないですか! 帰りましょう!」


「何言ってんだ! 実戦経験のチャンスだぞ! 対戦相手が、ほら! あんなに沢山!」


「えー! やるんですか!? 数が多すぎますよ!」


 俺はちょっとひきつった声を出した。

 スライムだから、まあ、やれば出来る、とは思うけど……。

 それでも体当たりを集中で食らったらヤバイ。


「後ろは守ってやるから。さあ! 行ってこーい!」


 師匠は俺を後ろから、ドンと押した。


 まー、やりますか!

 カードも手に入るし!


 ザクッ!

 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 ザクッ!

 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 ザクッ!

 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 か、数が多い。

 スライムも動き出して、飛び跳ねて体当たり攻撃してくる。

 避けながら攻撃をしなくちゃ。


 ザクッ!

 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 ザクッ!

 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


「はー、はー、はー」


 やばい息が切れる。

 避けながらだと疲れる。

 もう、10匹くらい片付けたか?


「ヒロトー! 水飲め。壁際まで下がって休憩しろ」


 師匠が水筒をマジックバッグから出して渡してくれた。

 助かる!


「あ、ありがとうございます」


 師匠は、体当たりしてくるスライムをボールみたいにキャッチしてる。

 笑顔でやさしくキャッチしたスライムを床に置いて、俺の方へスライムが来ないように防いでくれている。


 この隙に……。

 俺は裏ステータス画面を呼び出した。


 赤いスライムを倒した分のステータスカードを消費して、ステータスの『パワー』を少しアップする。

 こうして少しでもパワーを上げれば、少しは楽になるだろう。


「行きます!」


 師匠に水筒を返して、戦線復帰する。


 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 お! 2回の攻撃で倒せるようになって来た。

 カードでパワーをアップした効果か?


 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


 ザクッ!

 ザクッ!


 プシュー!


「ヒロトー! 休憩だー」


「わかりましたー」


 こうして何度か休憩を取った。

 休憩の度にカードを消費してパワーを上げた。


 ザクッ!

 プシュー!


 一発でスライムを倒せるようになった。

 それにショートソードを振り回しても、あまり重く感じなくなって来たぞ。




 あれ!?




 ザン! プシュー!


 なんだこれ?

 すごい剣が振りやすい。


 ザン! プシュー!


 やっぱりだ!

 剣が振りやすい!

 スライムにきれいに剣が入っていく感じだ。


「おー! ヒロト! サマになって来たじゃないか! 一気にやっちまえ!」


「はい! 師匠!」


 俺は一気に前へ出た。


 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!



 気持ち良い!

 剣を振るのが楽しい。


 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!

 ザン! プシュー!


「オッケー! ヒロト! 全滅だな! よくやった~!」


「ふうー」


 さすがに疲れた。

 けど、後半楽しかった。


 何か剣が自分の腕の延長みたいな感じで、自在に動かせた。

 戦っていて楽しかった。


「師匠、何か途中から、急に剣が振りやすくなってですね。もう、楽しくて!」


「おお! スキルを確認してみろ!」


 スキル?

 俺はステータス画面を開いてみた。

 スキル、スキル、スキルは……。


 おあああ!



 -------------------


 ◆スキル◆

【鑑定(上級)】【マッピング】

【剣術(初級)】new!


 -------------------



 俺は凄い興奮した。

 これまで素振りをいくらしても付かなかったスキル【剣術】が付いてる!


「【剣術】スキルが付いてますよ!」


「おお! おめでとう! 途中から動きが良くなったから、たぶんそうだなと思ったよ」


「うおおお! すげー! 師匠! ありがとうございます!」


 俺は師匠に抱き着いた。

 師匠も嬉しいみたいで、バンバン背中を叩いてくれた。


 いやーしかし、さすがは神速のダグだ。

 S級冒険者は伊達じゃない。

 指導のお陰で、初日からスキルを2つも獲得してしまった。

 師匠すごい!


「ヒロト。おまえこれで昇格だ。Eランク冒険者だぞ」


「え!?」


「FランクからEランクの昇格は、魔物10匹の討伐だ」


 それは知らなかった。

 と言うより、ギルドで教えてもらってなかった。

 他の冒険者も教えてくれなかった。

 たぶん、俺は昇格なんて一生しないだろうと思われていたんだろうな。


「それホントですか?」


「ああ、これは全国のギルド共通のルールだ。間違いない」


「じゃあ、この木のギルドカードからは……」


「おさらばさ」


 師匠はニヤリと笑った。


 そうか!

 やっとまともなギルドカードが。貰えるのか。

 もう、Fランと呼ばれる事もないのか。

 俺は……、そうか! やったのか!


「さあ、早いとこ魔石を拾って帰ろう。ギルドで昇格の手続きだ!」


「はい! 師匠!」

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