あなたの脱出助けます〜とある救出者の物語〜

プロローグ

『レディース、アンド、ジェントルメーン!』


2066年のその日、「3 LIFE ONLINE」という人気ゲームにログイン中の全てのプレイヤーに届けられたのは、時代を変えるにしてはチープなそんな言葉だった。

この時はまだ誰も気付いていなかった。

単なる運営側の一趣向、所謂イベントでも始まったのかと多くのプレイヤーは思ったからだ。

しかし、直ぐに全世界が異変に気付くことになる。


『ゲームをお楽しみの皆様。当VRMMOゲーム「3 LIFE ONLINE」をプレイしていただき誠にありがとうございます』


ピエロの格好をしたメッセンジャーが各プレイヤーの視界に浮かび、一つ一つ現状を伝え始めることで。


『これより、当ゲームにログイン中の皆様は、途中ログアウトができなくなりまーす』


「はあ?何コレ?何の冗談?」


「ログアウトできないって、いつの時代のラノベだよ」


当惑する者や不満を露わにする者、鼻で笑うものなど様々だが、それらを無視しピエロは続ける。


『でもご安心くださーい。カンの良い人は既にお気付きかも知れませんが、途中ログアウトができないということは、クリア後はログアウト可能だということでーす!え?クリアできなかったらどうなるかって?そんなの決まってるじゃないですかー。生きていれば永遠にゲームの世界を彷徨うことになりますが、キャラクター死亡時点で現実の貴方様もお亡くなりになります。VRの域を超えたリアリティーを当ゲームはウリにしております!素晴らしいでしょう?正にもう一つの現実!ってわけです』


「はっ?ゲーム世界を彷徨う?キャラ死亡で現実でも死?」


「馬鹿じゃね?大体VRで人が死ぬかよ」


『まあ、こんなこと言われていきなり信じることは難しいでしょうねぇ。取り敢えずログアウトをお試しになってみるのが一番手っ取り早いかと』


ピエロの言葉を信じた者は少なくとも、実際に試した者は少なくなく、次の瞬間至る所で悲鳴が上がる。


「ちょっ!本気でログアウトできないんですけど!」


「マジかよ!うわ、なんだこれ!?ログアウトがグレー表示になってる!」


『はい。ご確認いただけたようですね?まあ、先程も申し上げました通り、クリアすれば問題ナッシングでございます。し、しかもですよ?ベータ版の時は死亡=キャラロスト、再プレイは一からやり直しという超高難度でしたが、今作では残機制を採用しております。ベータ版の難易度にヤル気を無くした方もこれで安心ですねー。一方で、取り返しがつかない一度きりのスリルや難易度の高さを楽しんでおられた方も数多くいました。人生と一緒で後戻りできない仕様が良かったようですね。そこで当方としましても、両者のご意見を参考に残機制という形を取らせていただいた次第です。気になる残機数は「3 LIFE ONLINE」の名が示す通り、な、なんと3つ!ベータ版からゲーム名が変更になった理由もこの辺が関係していますが、これだけあれば安心ですねー。即死攻撃や初見殺しのモンスターがいても大丈夫!皆さんで協力して、是非クリアしてくださいね。そうそう、詳しい内容はメニューのヘルプからご確認いただけますので、目を通すことをお勧め致します。また、各メディアにもこちらから現状をお伝えしておきます。我ながら言うのも少々お恥ずかしいですが、当ゲームは全世界に多数のユーザーがいる人気ゲームですから、政府もそれなりの対応をしてくれるでしょう。それでは』


プレイヤーの怒号や悲鳴に一切応えることなく


『ゲームスタート』


ピエロはそう宣言した。




この世界規模の問題に各国政府も対策を取ることになるが、幾つかの問題に頭を悩ませることになる。

国によって違いはあれど主な問題は6つだった。

日本を例として取り上げるとこうなる。


①残機は3つ、つまり、3回目の死は現実の死となる。(VRマシンを介して脳に深刻なダメージを与える。)

②VRマシンを物理的に肉体から除外した場合は即死亡。(但し、VRマシンには内蔵電源があるため、電源供給がされている限りプレイヤーの搬送等は可能。)

③被害者については、家族や友人等の申請により延命処置を取る。(「3 LIFE ONLINE」ログイン禁止法制定後については、政府は関与しない。)

④ログイン禁止法が制定された後も、ログイン者が後を絶たない。(ゲーム内での殺人を楽しむ者や人生を悲観しゲーム内に逃避した者、更には自殺する度胸はなくともゲーム内で死ねるならと考える者などが続出した。)

⑤プレイヤーが成長するように、ゲーム内の敵、モンスター等も時間経過と共に成長する。つまり、クリア難易度が徐々に上がる。

⑥犯人が特定できない。


どれもこれも大問題だが、取り分け政府を悩ませたのは4番目のものだった。

当初ログイン者数は全世界で約200万人、それが半年もすると250万人にも増加していたのだから。

どれだけ規制をかけようとも、「3 LIFE ONLINE」のログインサイトを根絶することができなかったのが原因だ。

一時的にサイトを閉鎖することができても、次の瞬間には別の場所に新たなサイトが立ち上がっているという始末。

検索をかければ無数に現れるログインサイトに、対策担当者は頭を抱えるしかなかった。

だからという訳ではないが、政府はこのシステムを利用したある法案を可決することになる。

それが「代行クリア法」だ。

ゲームクリア時にログアウトできるのは、ラスボスに挑んだクラン全員であることがクリア者の情報から判明したからだ。

これにより、表向きはゲームに不得手な者たちを救出するべく、災害時特別法として「代行クリア法」が制定されることになる。

クリアを代行するべくログインする者は、主にゲームクリア者から選ばれることとなった。

そしていつしか彼らはこう呼ばれることになる。


救出者サルベージャー』と。

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